温室効果ガスを排出せず、乗ることで人々の健康も促進する自転車。移動の手段として非常に優秀だが、一方で走行路が車や歩行者と分離しておらず、混雑するような場所ではサイクリストが危険にさらされてしまうことも事実だ。
ヨーロッパには、自転車道が機能している都市も多くあり、デンマークの首都コペンハーゲンでは渋滞を防ぐためのインフラ整備として電子標識も導入されている。しかし近年、サイクリスト人工の増えた英国では自転車道の設備こそあるものの、朝の通勤ラッシュ時などは危険だという問題を抱えていた。
そんな中、自動車大手フォードのスマートモビリティ部門が、モビリティソフトウェアのエキスパートTome、そしてサイクリングウェアのエキスパートLumoと共同でIoT技術を活用したスマートジャケットを開発した。
一見普通の黒のスポーツジャケットだが、左袖のポケットにスマートフォンを収めて専用アプリを起動することでさまざまな機能を果たす。
たとえば道路上での存在表示、意思表示等のサポート。サイクリストが右折または左折するときのサインとして腕をあげたときにジャケットの一部を光らせたり、ブレーキの際に背中の部分が点滅したりすることで、周囲に自分の次の行動を効果的に伝えるのだ。
さらに、走行中のテキストの受信や通話を可能にし、骨伝導ヘッドホンを介して走行ルートのナビゲーションも提供。
これにより、サイクリストが直接スマートフォンを操作したり地図アプリを見たりする必要がなく、安全で渋滞の少ないルートを示す経路案内が行われる。わき見運転を防ぐことで、サイクリストだけでなく自動車や歩行者の安全性も向上するのだ。
フォードのスマートモビリティ・チームのプロジェクトリーダーであるトム・トンプソン氏は「地図アプリに見入って運転を誤ったり、混雑して危険な道路の合流地点に向かう心配がなくなったりすれば、すぐに人々の習慣が変わります。」と未来を展望する。
トンプソン氏はさらに「フォードでは、ヒトやモノが街をより安全かつ自由に移動するサポートをしたいと考えています。サイクリスト、自動車、歩行者など、都市のモビリティ・エコシステムのさまざまなプレイヤーのよりよい共存のために、テクノロジーをどう活用するか。“スマートジャケット”のコンセプトは、そこに一つの指針を示してくれています」と語った。現在、このジャケットはプロトタイプだが、フォードは今後の開発へ向けて特許出願を行っている。
あらゆるモノがインターネットに接続し、世の中に革命的な変化をもたらすといわれるIoT(モノのインターネット)。スマートホームやスマートスピーカー、コネクテッドカーなどが誕生してきたが、これまで自転車に乗る人向けのウェアラブル技術は、ほとんどなかった。
今回フォードが開発したスマートジャケットは、IoTを本格的に自転車技術に浸透させ、自動車中心社会における交通弱者であるサイクリスト、そして歩行者の移動までもより安全にしていくものだ。
【参照サイト】NOW THAT’S A BRIGHT IDEA! CYCLING JACKET PROMPTS RIDERS TO TURN, SHOWS OTHERS WHEN THEY DO
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