緩和ケアとは患者の身体的・精神的苦痛などを和らげ、QOL(生活の質)を改善することを目指す治療だ。末期の患者が行うものというイメージが強いが、WHO(世界保健機関)は2002年にその定義を変え、治療の早期から積極的に適用するべきものとして推奨している。
ガンなどの病気そのものに対する治療を目的とした医療介入から、緩和ケアを中心とした治療へと切り替えていくのはタイミングが難しいという。どのように死を迎えるかという話が後回しにされた結果、病状が進んで危険な状態になり、集中治療室に入るケースが非常に多く、不本意な最期を迎える患者が少なくない。
そこで、スタンフォード大学の研究チームは、AIを使って患者の死期を予測しようとしている。緩和ケアに切り替えたほうがいい患者を早めに特定し、医師の方から積極的にその選択肢を提示できれば、より多くの人が意に沿った最期を迎えられるのではないかというのが彼らの考えだ。
スタンフォード大学の研究チームが2017年に発表した論文によると、アメリカ人の80%は死期が近づいたら自宅で過ごしたいと答えているのにも関わらず、実際には全体の60%が救急病院で医療的介入を受けながら亡くなるという。
研究者たちはディープラーニングを活用したAIに16万人の症例を学習させ、AIがそのデータから3〜12か月以内に亡くなる患者を予測できるか試験を行った。結果、3〜12か月以内に死が訪れる可能性が低いと予測された患者の約95%は、実際に12か月以上生存していた。つまり、AIは9割以上の確率で予測に成功したわけだ。
ディープラーニングのアルゴリズムの場合、それをつくった人間でさえ、なぜディープラーニングからその結果が出たのか分からないことがよくある。今回のケースで言うと、ある患者が12か月以内に死が訪れる可能性が高いと判断される理由は、解明しにくい。
「誰かに死が近づいていて、治療方法を選ばなければならないという仮説の下であれば、治療のために判断理由を知るべきだ。しかし今回の目的は死期を宣告することではなく、緩和ケアを進める必要のある患者を洗い出すことにあるため、死の判断理由を知ることはあまり重要ではない。」そう研究チームのKenneth Jung氏は述べている。
病状が進んでいよいよ、という事態になったとき、集中治療室で最期を迎えるか。それとも、医療的介入を望まず、自宅で家族と一緒に最後を迎えるか。もし死が隣にある人に、余生の送り方を選択できる機会を与えることができるとしたら……あなたなら、どう思うか。
【参照サイト】 Stanford’s AI Predicts Death for Better End-of-Life Care
【関連ページ】ディープラーニングとは