以前IDEAS FOR GOODで紹介したカンボジアのエシカルブランド「SALASUSU」(サラスースー)。20、30代の女性をターゲットとした機能的でおしゃれなバッグやストールを販売している。作っているのは、カンボジアの農村に住む女性たちだ。
SALASUSUは、ブランドの世界観を発信しより多くの人に知ってもらいたいと、「作り手に会いに行く旅」を企画している。日本からも高校生や大学生、個人客などがカンボジアの工房を訪れている。今回、工房ツアーの様子とSALASUSU独自の教育プログラム「ライフスキルトレーニング」の内容、そしてそこで働く人たちを見て筆者が感じたことをレポートしたい。
和気あいあいとした工房の様子
工房があるのは、世界遺産アンコール・ワットから車で1時間ほど離れた農村だ。そこでは教育の機会に恵まれなかった、経済的に困難な状況にいる16歳から35歳くらいまでの女性たちが60名ほど働いている。各家庭を訪問して収入を聞き、SALASUSUで働くことで家庭環境がどの程度向上し、本人がどのように成長できるかという二点が採用の基準だ。
職業訓練校のような存在であるSALASUSU工房で、女性たちは基本的に二年間働く。なかには”スペシャリスト”として新商品開発や新入生のトレーニングを担当し、工房に残る人もいるが、多くの人が二年後に工房を卒業し、市内のホテルやレストラン、工場などで働きはじめる。
工房では染色、裁断、縫製、クオリティチェックなど、各工程に分かれて作業をする。和気あいあいと楽しそうに仕事をしている様子が印象的だった。「作り手の気持ちが商品に出る」からこそ、作り手たちが良い環境で働けるように気をつけている。
社会で生きるためのライフスキルトレーニング
「良い教育を受け、良い環境で働き、良い商品を作る」うえで欠かせないのが、SALASUSU独自のライフスキルトレーニングである。
ライフスキルトレーニングは、毎日1時間、ゲームやロールプレイング、ワークショップを通じて、女性たちに「社会のなかで生きる力」を身につけてもらうことを目的におこなわれている。
組織開発や人材研修を企画する日本の会社と連携して独自のトレーニングを60本以上開発し、すべてカンボジアの母語であるクメール語で、カンボジア人トレーナーによって、提供される。
1970年代から1990年代にかけてのカンボジア内戦で知識層が大量虐殺された悲しい歴史があることから、人材が育っていないことが課題のカンボジア。海外からの支援は多いが、それに頼るばかりでは、自立し国の文化を継承することは難しい。そのため、ライフスキルトレーニングもカンボジア人がカンボジア人を育てることを大切にしている。
トレーニングには、読み書きや四則計算という「基礎リテラシー」、栄養管理や貯金などの「自己管理」、職場のルールについて学ぶ「職業倫理」、自分や他人の良いところを発見しながら育まれる「自信」、チームワークを通した「対人関係」、困ったときはどうしたらいいのかを考える「問題解決」の6つのカテゴリがある。
身体を動かして体験的に学んでもらうプログラムが中心だ。たとえば、ビンゴゲームでは、マス目に数字ではなく一緒に働く仲間の名前と良い点を書いてもらう。良いところを褒められた人はうれしいし、言う人も気持ちがよくなり、全体の雰囲気が明るくなる。
また、チームで作戦会議をして一枚の紙で高いタワーを作ってもらうプログラムでは、うまくいったチームとそうでないチームに対して、どうしてそのような結果になったのかを自分たちで考えてもらう。このように「自分で考えてもらう」フィードバックの時間がとても大事である。
工房を卒業した後に自分はなにができるのか、なにをしたいのかを考えてもらうためのキャリア教育も提供する。社会にあるさまざまな仕事を紹介し、市内のホテルやNGOなどともインターンシップ提携をしている。
毎日、工房の女性たちに提供している栄養たっぷりの給食もトレーニングの一環だ。これは、味の素株式会社が、公益財団法人味の素ファンデーションのなかで取り組む「食と栄養の改善」を目指した活動のひとつとして実施している。給食を食べはじめる前に、栄養の勉強を毎日取り入れ、野菜や肉、ご飯がどういう栄養素を持っているのかを学んでもらう。そして工房で学んだことを家でも実践し、バランスのよい食事を通して家族の健康も改善されることを期待している。
今後は、こういったトレーニングをおこなえるトレーナーを育てる研修をカンボジアにあるほかの企業や団体にも提供していきたいという。
「すべてのトレーニングがデザインや品質の良いもの作りに生きます。作り手であるカンボジア人女性たちが、受益者ではなく、質の良いものを提供するプロデューサーになってほしい。そのために、良い教育と良い職場環境を大事にしています」と、今回ツアーをしてくれた現地日本人スタッフの橋本さんは語った。
そして、「デザインや品質が良いから手に取ってもらえる。そのあとに自分たちの活動が伝わればいい」と続けた。モノであれサービスであれ、作り手がどこの国籍の人であれ、「質の良いものを提供するプロデューサー」として社会に価値を提供する。その言葉に、私も自分の仕事について見つめ直してしまう。
一人ひとりの人生という旅を応援するブランドへ
工房見学が終わったあとは、ツアーの一環として作り手の女性のお宅を訪問した。伝統的な高床式の家には、兄弟姉妹やその家族などたくさんの人が集まっていた。
こうしたお宅訪問も含め、作り手と使い手一人ひとりと深く向き合っているのがSALASUSUの強みだろう。作り手の女性たちは、自分が作った商品を買ってくれた人と会うことができてうれしいし、使い手側も現場の空気を感じることで「やっと商品に温度感がのりました」、「これからも応援しています」というコメントを残してくれるという。
そして、カンボジア人女性たちだけではなく、SALASUSUで働いている日本人や台湾人スタッフが生き生きとしていたのが印象的だった。橋本さんは、「女性でも男性でも、日本人でもカンボジア人でも台湾人でも、自分たちの活動や商品を通して一人ひとりの人生の旅を応援したい」と言っていた。
SALASUSUで働くスタッフや使い手が前向きで幸せな気持ちになるのは、一人ひとりが大切にされ、商品を通して社会とのつながりを感じているからなのだろう。
ツアーを終えて
世の中にたくさんあるフェアトレードやエシカル商品。それぞれの背景やストーリーを聞いて自分の知らない世界について想像力を働かせたり、新しい知識を得たりできることは、こういった商品に出会うおもしろさのひとつだろう。それをきっかけに、実際にその土地を訪れると、人生がさらに豊かになると思う。
エシカル商品に興味がある方やカンボジアに行かれる方は、ぜひ工房ツアーに参加してみてはいかがだろうか。
【参照サイト】SALASUSU (Facebook、Instagram)
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