『プラスチック・フリー生活』実践者に聞く、脱プラスチックのヒントは「心地よく暮らすこと」

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世界的に注目を集めているプラスチック廃棄問題。そもそも何が問題なの?そんな素朴な疑問から、プラスチックの種類や、用途、環境への影響、プラスチックに依存しない暮らしの知恵まで、幅広く紹介した本の翻訳版が、2019年に日本で出版された。その名も『プラスチック・フリー生活 〜今すぐできる小さな革命〜(シャンタル・プラモンドン&ジェイ・シンハ著)』。

本書では、マイクロプラスチックが及ぼす、私たちの体への影響について詳しく説明している。プラスチックが海に漂う有害物質と結びつき、魚や塩などを介して私たちの体に悪影響を及ぼす可能性についてはすでに指摘されているが、それだけではなく、そもそもプラスチックに使われている添加剤など人体に有害な物質の存在もある。

今回は、マイクロプラスチックや化学物質に詳しい東京農工大学の高田秀重教授と、本書の翻訳に関わった服部雄一郎さんに、プラスチックの問題点に加えて日々の生活でプラスチックフリーを取り入れるポイントについて伺った。

左:服部雄一郎さん 右:高田秀重教授

左:服部雄一郎さん 右:高田秀重教授

インタビュー対象者

高田秀重(たかだ ひでしげ)
東京農工大学農学部 環境資源科学科教授。水環境保全学/有機地球化学研究室。プラスチックと環境ホルモンの研究を行う。国連の海洋汚染専門家会議グループメンバー。世界のマイクロプラスチックの評価を担当。研究室ウェブサイトインターナショナルペレットウォッチ

インタビュー対象者

服部雄一郎(はっとり ゆういちろう)
1976年生まれ。東京大学総合文化研究科修士課程修了(翻訳論)。葉山町役場のごみ担当職員としてゼロ・ウェイスト政策に携わり、UCバークレー公共政策大学院に留学。廃棄物NGOのスタッフとして南インドに滞在する。2014年高知に移住。自身の暮らしにもゼロ・ウェイストを取り入れ、その模様をWEB連載「翻訳者服部雄一郎のゼロ・ウェイストへの道」(アノニマ・スタジオ公式サイト)や、ブログ「サステイナブルに暮らしたい」(sustainably.jp)で発信する。主な訳書に『ゼロ・ウェイスト・ホーム』(アノニマ・スタジオ)がある。

筆者プロフィール

松尾沙織(まつおさおり)
震災をきっかけに社会の持続可能性に疑問を持ったことから、当時勤めていたアパレル企業から転身、現在はフリーランスのライターとして、さまざまなメディアで「SDGs」や「サステナビリティ」を紹介する記事を執筆。他、登壇、SDGs講座コーディネート、SDGs「ACT SDGs」発起。また、「ダイベストメントコミュニケーター」として気候変動の問題を広める活動をしている。

海洋汚染だけではない、プラスチックの問題点

筆者:プラスチックについて、お二人が特に問題だと感じていることについてお話いただけますか?

高田先生:本にも書かれていますが、プラスチックそのものに人体に有害な物質が入っており、プラスチックを作る際にも使う際にも暴露してしまうという点は、一般にはあまり着目されていないように感じます。また、マイクロプラスチックを食べた魚を人が食べることによって、食物連鎖で自分たちに影響が還ってくるので、もっと減らす視点を持つべきです。

2050年にもなると、パリ協定にもあるように新規の石油は採掘できなくなるので、プラスチックが作れなくなります。そこに向けてどうしていくか、真剣に考えていかなければいけません。

筆者:プラスチックは石油の一部分「ナフサ」からできているので、石油に依存する社会も手放していくこともしていかないと、根本解決にはなりませんよね。脱プラスチックだけでなくて、エネルギーシフトもしていかないといけない。また、先生は以前に「リサイクル神話」を信じすぎている人も多いとお話されていました。

高田先生:プラスチックが実はあまりリサイクルされてない現状と、多額のリサイクルコストがかかること。この二つを知らない人は多いです。良しとされているプラスチック製のリユース食器なども、使ううちに剥落してマイクロプラスチックになる可能性があります。

服部さん:プラスチックの具体的な問題点がほとんど知られていないことは、本当に大きな問題ですよね。私はゴミの分野で仕事してきたので、こういった問題を知っている方ではあるのですが、それでも恥ずかしながら『プラスチック・フリー生活』の翻訳を通して初めて知ったことも多くあります。プラスチック使用のリスクの大きさに驚きました。

今の社会には海に流れ出るものを抑えればいいという論調も少なからずありますが、河川から直接ゴミを捨てていなくても、タイヤが磨り減ったものが河川から流れていたり、ゴミが雨で流されたりと、知らないところで環境汚染に加担してしまっている。それを知って、行動するべきだと思います。

心地よさ、楽しみに目を向けてプラスチックを削減する

筆者:私は『プラスチック・フリー生活』の前に服部さんが翻訳を手がけられた『ゼロ・ウェイスト・ホーム』の本も持っていますが、二冊の共通点は、ただプラスチック問題に対処していかければならない、ということだけでなく「ライフスタイルをシンプルにしていく気持ち良さ」や「豊かなライフスタイルを築いていくこと」にもフォーカスしているところなのかなと思っています。

そもそもシンプルで気持ちが良いライフスタイルを送っちゃおうよ!というところからスタートするのがいいなと思いました。プラスチックフリー生活に向けて、読者のみなさんがワクワクして取り組んでいけそうなオススメのアイデアはありますか?

高田先生:僕はビールを飲むときは瓶にしています。市場に出回っている缶のほとんどが、内側にプラスチックのコーティングがしてあります。また、紙コップの内側にもプラスチックコーティング。プラスチック対策で紙コップを出しても、厳密には対策にはなりません。それに森林を伐採して作るわけですから、植林しないとカーボンニュートラルにはならない。結局使い捨てにならないよう、繰り返し使えるものを選ぶのがいいのではないかと思います。

服部さん:ハンバーガーの包み紙のような、つるっとした紙にもプラスチックコーティング付のものがありますよね。テフロンコーティングとも言われています。

高田先生:テフロンも、国際的には規制されてきています。ミツロウラップ(ミツバチの巣の材料でつくるラップ)のようなものがもっと出てくれば良いですね。僕はミツロウを買ったので手作りしようと思っています。

ミツロウラップでプラスチック廃棄物を減らす

アノニマ・スタジオのサイトより

筆者:あとは大量のゴミが出ている女性用ナプキンの代わりに、オーガニックコットンの布ナプキンを使うという選択もありますよね。

服部さん:うちの妻は、オーガニックコットンの布ナプキンを使っていましたけど、最近では月経カップを使っているようです。ゴミも減るし楽ちんだし、とても喜んでいましたよ。

筆者:最近教えていただいた「月経血コントロールヨガ」も画期的でした!体幹を鍛えてトイレで月経血を出すというもので、布ナプキンの洗濯も減って良いな〜と思いました。これは同じくゴミの量が深刻なオムツの問題も解決しそうです。そういえばアノニマ・スタジオのブログに布オムツの紹介がありましたね。

服部さん:うちはオムツ無し育児に取り組んでいましたよ〜!本を見ながらやったんですが、座れない状態の赤ちゃんをおまるに座らせたら、自然とおまるにするんです。オムツを洗う回数は、他の家よりはかなり少なかったと思います。これは子どもがもともと持っている能力なので、0歳でもできますよ。うちの娘はオムツにうんちする回数がほとんどなかったです!

高田先生:あとは、固形のシャンプーやリンスを使っています。洗い心地もよかったですし、詰め替えパックが減ったことが嬉しかったですね。旅行先にも持参しています。やり始めると達成感があって楽しいし、何か方法を見つけたときに面白いというのがありますね。

詰め替えパックも結局プラスチック。中が粘性のある液体で汚れているので、洗えば水質汚染に繋がるし、洗ってもラミネートでリサイクルできず、燃やされてしまうことを考えると、環境に良いとは言い難いのではないかと思います。これこそ減らしていったほうがいいもの。

量り売りはエコへの一歩

アノニマ・スタジオのサイトより

筆者:量り売りも、プラスチック削減方法の一つですよね。私のおすすめは、豆乳メーカーで豆乳を手作りすること。出来立ては美味しいし、絞りかすも料理に使えます。本当は豆腐屋さんがいいのですが…… プラスチックフリーに取り組む際のコツ、続けていくコツみたいなものはありますか?

服部さん:楽しみながらやるのは本当に大切です。前回の本が出た後も、ブログで「ゼロウェイスト始めました!」というご報告をたくさんの方にいただいたんですけど、途中で更新がストップしちゃうのが本当に残念で。みなさん壁にぶつかっちゃうのかな。

頑張ってやっているのに「全然できていない」って思いすぎちゃうと、ストレスになって続けられなくなってしまうので、続ける本質は、問題意識とともに「自分の心地よさ」を大切にすること。「完全じゃなくてもいい」って思いながら続ける、心地よさにフォーカスしながら「取り組めるものは何かあるかな?」とオープンな気持ちで続けていく、それが大事かなと思います。

環境問題って義務ってより、自分を大切にすることだと思うんですね。自分の心地よさや健康もそうですし、子どもたちの未来のためにやるっていう方が、推進力になるのかなと思います。あとは、ものの数が多いと注意しきれないので、シンプルに暮らす、ミニマルな暮らしの方が断然ラクなのでオススメです。

筆者:私の友人にも、忙しくてできないという人がいます。ものを持たないようにすることもそうですし、むしろ忙しさの中でできる仕組みを作ってしまう方がいいのかもしれませんね。それこそゴミが減れば、ゴミ捨てに行かなくて済むというのは、忙しい人にとってはとても助かることですし。

本の翻訳に関わった服部雄一郎さん

本の翻訳に関わった服部雄一郎さん

服部さん:ゼロウェイストっていいことなのに、目標が大きすぎて尻込みしがちなので、一つできそうな目標から始めることもオススメです。まずは「レジ袋をもらわない」とか。家事でも「面倒」だと思ってしまうとそこまでになっちゃうけれど、楽しみを見出していくことで、やりがいになったり、趣味になったり、そこから片付け術とかって仕事にまで発展していたりする人もいますよね。

環境問題も同じように捉えていただけたらなって思います。掃除みたいに、やってみたら心地よくなった!という風に。その意識のチェンジが広がってくといいなと思います。アイディアを組み合わせつつ、自分にあったものを選択して、みなさんの豊かな暮らしが実現されていくのがベストですね。

高田先生:みんながみんな、急に生活を変えることは難しいと思うので、自分ができるところからやることが大切です。一度プラスチック削減に関する何かを始めてみると、他も気になってどんどん取り組んでいけると思うので、小さいことでも挑戦してみて欲しいです。同時に業界への働きかけ、声を上げていくことも必要です。みなさんが言って業界が動くこともあるのではないでしょうか。3Rでも一番優先される「Refuse(断る)」をやって、意思表示していくことはとても意味があります。

東京農工大学の高田秀重教授

東京農工大学の高田秀重教授

業界の取り組みも進んで欲しいところですね。取り組もうにも、自分の暮らしの近くにプラスチックフリーで生きていくための製品がないと、実践したくても難しくなってしまう。特に食品は買わないわけにはいかないので、早く対策がなされて欲しいところです。

プラスチックとの向き合い方を再考する

ふと見渡せば、たくさんのプラスチックに囲まれながら暮らしている私たち。ただ、それらは「本当に私たちの暮らしを豊かにしているか?」を立ち止まって考えてみる必要があるかもしれない。梱包する、捨てる、廃棄するなど、手間が増えているのも事実。そして、ゴミとなって私たちの体に入ってきている。

ここで紹介されているアイデアは、ほんの一部だ。ぜひ実験しながら、楽しんで自分に合った最適な方法を見つけてみて欲しい。取り組んでみれば、新たな発見や気づきと出会えるはず。

『プラスチック・フリー生活』では、本記事に書かれていた化学物質の種類やその影響について、データを元に詳しく説明している。もっと知りたい!行動したい!と思ったら、ぜひ本を手にとってみて欲しい。

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