毎月女性に訪れる生理。誰にでも同じように訪れているはずなのに、なんとなく大声では生理について話しづらくて、生理用品はできるだけ隠しておきたい。そんな空気感に対して違和感を持つ人に光を当てたのが、ハヤカワ五味さんの設立した生理用品のセレクトショップ「illuminate」だ。ナプキンだけでなく、月経カップやタンポンなどさまざまな種類の生理用品を取り揃える。
2019年6月12日には、ハヤカワ五味さんをはじめとした5人のメンバーで、生理用品ブランド「ソフィ」を抱えるユニ・チャームとの協同プロジェクト「#NoBagForMe」を開始した。プロジェクト始動にあたって、女性の体に起こる生理について「気兼ねなく語れる世の中であってほしい」という願いを込めた。まずは「紙袋はいりません」と言うことが選択肢になるような、生理用品を隠す必要性を感じさせない新しいパッケージを開発する。
#NoBagForMeを設立した当初は応援する声もある一方で、「恥ずかしいから生理のことは隠していたい」「丸見えの状態で生理用品を持ち歩くことで、この人はいま生理なんだと周囲に思われたくない」という反対意見もあった。このような議論の中で、青山ブックセンターで行われたilluminateのポップアップストア設立記者会見で語られたハヤカワ五味さんの想いと、その後のイベントの模様をご紹介する。
話者プロフィール:ハヤカワ 五味(はやかわ・ごみ)
illuminateプロジェクト 代表。株式会社ウツワ代表取締役、コンテクストデザイナー。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。AbemaPrime 金曜コメンテーターや、TOKYO FM 妄想の泉 メインパーソナリティなど多数の番組にレギュラー出演するなど、世の中への発信に重きを置いている。趣味はゲームと散歩。
納得して考え方を選択してほしい
Q.#NoBagForMeの議論をどのように受け止めましたか?
生理を巡って色々な方からコメントをいただいたことに感謝と申し訳ない気持ちでいます。これまで生理について話されてこなかったぶん、議論が活性化したのだと思います。ただ、一つの意見に全員が流れるよりは、議論の糸口としてよかったかなと思います。生理についての捉え方は多様なので、すべての方の選択肢を尊重するような展開にしていきたいです。
Q.シンデレラバストのランジェリーブランド「feast」でも代表を務めるハヤカワさん。ハヤカワさんの中で「選択肢」が軸にあるのでしょうか?
「自分の中で納得する」ということが軸にあると思っています。今まで女性って「こうあるべき」「こうするべき」というように、選択肢がなかった側面があります。今は「選択できる」時代になりました。歴史の中での転換点だと思います。その一方で、「選択しないといけないことが辛い」「選択しないといけないのに選択肢が少ない」という局面もあります。そのなかで私たちは選択肢の裾野を広げることで、選択しやすい状況を作っていきたいと思っています。
Q.今後の展開の予定は?
今年は、フェムテック関連のブランドがこれからますます出てくる年になりそうです。その中で差別化できることとしては最近多くなってきたDtoC(Direct to Consumer)ではなく、生理用品をインフラ化していくことです。どのように普及させ、体験を提供するかを考えています。
例えば駅や宿泊施設では生理用品を買える場所が少ないという現状があります。オリンピックの時など国外から多くの方が来るタイミングで、生理用品を見つけづらくてどこで買えるのか分からないという状態がないようにしたいです。いわゆる公共施設に生理用品が置かれるようにする、といったインフラ化を考えています。
また、教育は中長期的にやっていきたいことです。先生の方が恥ずかしがっていたら生徒も「生理は恥ずかしいことなんだ」と思ってしまいます。それは例えばビデオ教材を使って乗り越えられるかもしれません。今ある価値観は否定しませんが、これからの価値観に対してポジティブに動けたらと思っています。
現在始まっているクラウドファンディングでは、リターンとして冊子を作っています。そこでLGBTやトランスジェンダーで心は男性であっても生理がある辛さといったような、さまざまな価値観を広く提示していけたらと思っています。
Q.青山ブックセンターでのポップアップストアはいつまで開催していますか?
7月29日までの開催になります。7月31日から8月6日は大阪の梅田の大丸にてポップアップストアを行います。夏頃にはECサイトの開設を準備しています。そこではより多くの種類の商品を購入できるようにする予定です。
中長期的には月経カップの値段を下げることを考えていきたいです。今はヨーロッパと比べると千円くらい値段が高くなっています。国外だと25~30ドル(約3000円)くらいです。値段が高いと気軽に試しづらいので値段というハードルを低くしたいです。
Q.今回のポップアップストアオープンに向けて女性や男性に伝えたいメッセージはありますか?
価値観は自分だけで持つようになるものではありません。教育や環境といったさまざまな要因によって、価値観のバイアスが生まれます。そのことを自覚することによって増える選択肢があるのではと思います。自分が知って納得して、選べることに意味がある。今回は選択肢を広げていく第一歩として見守って頂けたらと思います。
「月経カップの使い方をマスターする1時間」
7月13日には、月経カップを提供するメルーナが主催するイベント「月経カップの使い方をマスターする1時間」が青山ブックセンターで開催された。
近年、生理をより快適にするための選択肢の一つとして世界で注目される月経カップ。鈴の形をしたやわらかいカップを折りたたんで膣の中に入れ、経血をそこに溜めるものだ。溜まった血はトイレで捨てれば、繰り返し使うことができる。アメリカやイギリスではよくつかわれているが、日本ではまだナプキンやタンポンほど普及していない。
今回のイベントの内容は、そんな月経カップの基本的な使い方から交換頻度、カップのサイズ・硬さの選び方までをメルーナジャパンのスタッフがレクチャーするというもの。参加者は全員女性で、一人ひとりがイベント中に配布されたナプキンやタンポンに代わる新たな選択肢の感触を確かめた。見慣れない形のため、最初は装着するのが痛いのではないか、使用中に漏れてしまうのではないか、という不安の声もあったが、やわらかく、何度でも使えるため替えの製品を持ち歩く必要もないという。
イベントの講師であり、メルーナジャパン事業部の寺山美緒さんは、「月経カップは、生理中の不快感を和らげてくれるものです。使用者の身長・体重や経血の多さ、普段運動をするかどうかなどによって約200通りのカップがありますので、メルーナのウェブサイトでご自分の体に合うものをチェックしてみてください」と語った。
レポート後記
今回ハヤカワ五味さんの活動を追ってきたなかで、改めて「なぜ生理を恥ずかしく思うのだろう」と考えさせられた。
親や先生、周りの友人との会話から、なんとなく生理について話題に出すのは恥ずかしい、と無意識に思っていたところはあるものの、その理由を考えることはなかなかない。個人的には「生理用品を下着と同じように捉えているのかもしれない」「一方で生理の知識を男性にも当たり前のように知っていてもらいたい」ととらえ直す機会になった。
ハヤカワさんの狙いは、このようにいつの間にか刷り込まれた自分の常識を今一度考え直し、自分で納得した選択肢を取ってほしいということなのだろう。それが「袋を二重にしたい」「袋はいらない」「好きなパッケージの生理用品を買う」といった、どんな選択肢であるにしろ、「自分で考えて納得する」という体験を提供したい、という。生理に関わることだけではなく、この考え方をできる人が老若男女問わず今後増えていったら、根拠のないしがらみに苦しむ人が減りそうだ。
【関連サイト】まずは自分ごとから。知り・選び・考えられる生理のセレクトショップを作る。
【関連サイト】生理・生理用品について気兼ねなく話せる世の中の実現を願い、ソフィ『#NoBagForMe』プロジェクト始動
【関連サイト】illuminate