サーキュラーエコノミー(循環的経済)の価値観が広がりつつある昨今、「アップサイクル」の本質的な理解が求められている。
まず、アップサイクルは単純な「再利用」や「リサイクル」とは異なることを明確にしたい。ペットボトルの再利用に代表される「リサイクル」は、素材としてのグレードが下がることが否めず、そもそも循環性を考慮せずつくられているため、再生に非常に複雑な工程を要する。故にリサイクルは実現されているとはいえないのが現状だ。
一方「アップサイクル」は、使われていないものの特徴や個性を活かしてより良いものに変え、付加価値をつける。アップと言うだけあって向上性や明るさがあるのだ。
2018年、日本の伝統文化である着物をアップサイクルさせたレディースシューズブランドが京都で誕生し、注目を集めている。
ブランド名は「Relier81」(ルリエ エイトワン)。フランス語で繋がりや結ぶことを意味する名前のスタイリッシュな靴は、いずれも着物または帯でつくられている。それもデッドストック(未使用品)かヴィンテージ、またはユーズドのみをアップサイクルしており、新しく生地から生産することはしないという。
そもそも現在に残っている帯も着物も、大抵が一点ものばかり。靴をつくる場合、一枚の帯や着物からつくれる数はわずか8足ほどで、着物の場合はとくに靴の表面に出る柄も少しずつ異なるため、「Relier81」はつくられる時点ですでに一期一会の価値を兼ね備えている。
また、レディース靴独特のフォルムと、靴として耐えうる強度や伸縮性を両立させるのは容易ではなく、ベテランの靴職人たちがスキルを駆使して実現することができた。もともと職人たちによってつくられた着物が、靴として現代に蘇るとき再び職人の手を必要とするとは、時代を飛び越えたロマンがある。
いつの間にか日常から離れてしまった着物だが、履けば足元を鮮やかにしてくれる「Relier81」の靴は、女性たちの日常的な選択に着物を復活させた、と言えるだろう。
同ブランドの実店舗はなく、ネットショップでの販売、または、百貨店などからの依頼によって短期間のポップアップショップで出店しているとのこと。いずれは海外展開を視野に入れつつ、現在は国内のニーズに対応中だ。この秋からは京都で美術を学ぶ学生たちとともに、着物や帯からファッションアイテムを共同で開発するプロジェクトも始まる。
「Relier81」の靴を見ていると、アップサイクルされた付加価値に説得力を感じる。それはやはり、かつて大変ポピュラーだった着物そのものの普遍的な魅力が具現化しているからだろう。各地で細くなっていく声も聞こえる伝統工芸だが、それぞれの本質的な価値が次世代に続く可能性を信じさせてくれる。