残暑が続く8月後半。社会をもっとよくする体験「Experience for Good」初の主催企画『旅するように働くin 南九州 ~廃校が舞台のフェスでソーシャルイノベーションの可能性を探る』を実施しました!
旅の舞台は鹿児島県の南端、南九州市。高齢化や過疎化、空き屋増加などさまざまな社会課題があるなかで、それらに取り組む地域のソーシャルイノベーターたちに会い、対話しながら彼らの価値観に触れることで、自分の働き方や生き方を見直すプログラムです。
南九州市では、空き家活用で人口減少問題に取り組む人たち、地元の人々とイベントを通してつながり、人財育成をする人たち、鹿児島の“何もない” 離島を魅力的にブランディングする人たち、そして個性豊かなプログラム参加者たちなど、さまざまな出会いがありました。プログラムでは何をしたのか?一体どんな学びがあったのか?本記事でお伝えしていきたいとおもいます。
DAY 1:鹿児島の課題と、地域で働く考え方を知る
本プログラムでは、現地ガイドと一緒に南九州市のさまざまな場所を回りながら、地域の人の考え方や働き方に触れます。最初の目的地は、南九州市にある町の一つ、頴娃(えい)町。かつては貿易が盛んに行われ、100店舗以上が軒を連ねた地域です。今では人口が減ってガラガラになった商店街で、空き家活用の事例を見せていただきました。
活用例の一つが、古民家を再生した「暮らしの宿 福のや、」です。宿泊できる場であり、貸しスペースでもあり、頴娃町のコーン専門加工品製造・販売の場でもあるこの宿は、「頴娃を暮らすように旅する」をコンセプトとし、旅行者にはまるでそこに住んでいるかのように地域の人々や食べ物に触れる機会を提供しています。地元の年配の方と旅行者が共存する、あたたかな空間でした。
イノベーターズセッション:地域でビジネスをするときの考え方
話者プロフィール:蔵元恵佑(くらもと けいすけ)
株式会社オコソコ 代表取締役。NPO法人頴娃おこそ会 理事。鹿児島県鹿児島市出身。株式会社ニトリで店舗運営や海外顧客担当を経て、2017年2月にNPO法人頴娃おこそ会に観光コーディネーターとして参画。観光コンテンツの企画開発に従事。地域づくりを学んだのちに2018年に株式会社オコソコを設立。南九州市頴娃町が主な拠点でDIYと工務店との連携による空き家不動産事業を中心に宿泊・コミュニティ・観光・小規模事業者支援を展開。
第1回目のセッションで話をしてくれたのは、今回の旅のガイドであり株式会社オコソコの代表、そしてNPO法人頴娃おこそ会理事の蔵元恵佑さん。同じくおこそ会の加藤潤さんと共に話していただきました。どちらの団体も、頴娃町という地域の魅力を発信し、観光や視察の場として人を呼び込む活動をしています。さきほどの「福のや、」もオコソコが家主となっています。
「鹿児島は、生産と消費のバランスがあってないんですよね。」頴娃町に向かうバスの中で、蔵元さんは地域の課題をこう話していました。鹿児島はお茶の生産量が全国で第2位で、今は1位の静岡県を抜こうと奮闘しています。茶葉を大量生産・大量収穫するために機械化が進み、経営も効率化させている。ただ、行政や生産者が働きかけても肝心の需要が増えなくて困っているとのことでした。
蔵元さんは、地域課題への取り組み方として、「お客さんは誰か、自分たち目線になっていないか」ということをよく考えることが大切だと言います。地域活性化をするビジネスの中では、よく地域の資源(ポテンシャル)を有効活用すべきだと言われますが、はたしてそれが本当にお客さんのニーズに合っているのか。ニーズのないものを、これが魅力です!と押し付けてはいないか。
蔵元さん:鹿児島のお茶は需要よりも供給が多すぎて、売れません。でもそれは当然だと思っています。お客さんにとっては関係のない “お茶の生産量全国1位になること” が生産者たちの目的になってしまっているから。ペットボトルのお茶が普及しており、お客さんたちがそれに満足していることも茶葉が売れない理由の一つです。
「お~いお茶」を提供する伊藤園では、商品の売上の一部を琵琶湖の美化に使うキャンペーンも行っていたことがあり、「美味しいお茶を飲む」以外の付加価値も提供しています。本当は、環境保全や、お茶を作る人と飲む人が幸せになることを目指せるといいですよね。それで価値を与えられてお茶が売れれば、結果的に地域貢献することになると思います。
最後にプログラム参加者から、「地域に来てほしい、働いてほしいと思うのはどんな人ですか?」という質問が投げかけられました。それに対し、蔵元さんも加藤さんも共通して「何かやりたいことがある人」と答えています。不動産事業や、デザイン、プログラミング、PR動画の制作など、やりたいことがある人が頴娃町に来て、地域で自分のスキルを活かして働いていく。おこそ会でもオコソコでも、そんな人々を支援し、一緒に事業を作り上げています。
DAY 2:地域とつながる手法と、廃校活用フェス
プログラム2日目の朝は、窓を開け放ち、夏らしく蝉の声を聞きながらのイノベーターセッションで始まりました。
お話いただいたイノベーターは、鹿児島市の地域コミュニティを盛り上げる株式会社KISYABAREEの代表であり、第32回人間力大賞(青年版国民栄誉賞)も受賞した須部貴之さんです。
イノベーターズセッション:地域存続のため、つながりをつくる
話者プロフィール:須部貴之(すべ たかゆき)
株式会社KISYABAREE 代表取締役。騎射場のきさき市 代表。東京、福岡で勤務したのち、2013年6月、17年ぶりに鹿児島へUターン。人口減少問題や地域コミュニティ衰退などの社会課題に危機感を感じ地域活動に興味を持つ。現在は家業の不動産業をしながら「騎射場のきさき市」という約1万人が参加する地域イベントを主宰し、人のつながり・絆をコンセプトに地域で学ぶカレッジ形式の人財育成型の実行委員会を構築中。2019年4月、地域開発と人材育成を軸にこれからの地域の場を支える株式会社KISYABAREE(キシャバリー)を設立する。
須部さんの行う事業の一つは、鹿児島市の騎射場(きしゃば)という市電停留所付近の地域をリブランディングすること。中でも、地域の空いた「軒先」を活用し、年1回大規模なマーケットを開く地域イベント「騎射場のきさき市」は象徴的で、今では子供から地域のお年寄りまで約1万人が集まるイベントとなっています。須部さんは、このイベントを「まち歩きと人つなぎの実験装置」だと呼んでいました。
のきさき市開催の目的は、地域存続のために運営を通してさまざまな世代の人をつなぐこと。中長期的には、次世代の人財育成をしたり、地域で雇用創出をしたりすることを目指しているそうです。運営チームは毎回変わり、イベントのコンセプトもそのたびに変わります。メンバーが固定されていないことにより、新たに運営に参加したい若者も関わりやすく、次の世代に「こんな面白いイベントがあるよ」とつないでいけるのです。
須部さん:のきさき市に参加した人が、次の開催では運営スタッフになることもあります。そうなると、参加者としてイベントを“消費する側”だけでなく、周りを巻き込んで“生産する側”になる人が増えるという良いことがありますよね。
運営スタッフたちは、たった1日のイベントのために半年かけて準備をします。しかも、会社みたいに広報担当や企画・運営担当も決めて、「なぜやるのか」「地域に貢献するのに良い方法は何か」を議論しながら進めていきます。普通ならイベントは2~3か月もあれば準備ができてしまうんですが、人と人がつながり、深い関係性をつくるのには時間も必要だと思うから。
2019年に開催するのきさき市のリーダーは、大学生の女の子です。地域が存続していくためには、色々な知識を持つ広い世代の人とのつながりが欠かせませんよね。私たちは、持続する未来から逆算して、いま必要なことをしています。
人の入れ替わりがある中で、いかに地域を存続させていくか?そんな課題に対し、須部さんは「子供に地域の思い出を残す場をつくる」ことを考えました。子供が小中学生の頃など、まだ自分の意志で地域に住むことを選んでいないときに、のきさき市のようなイベントで地域の大人たちとつなげる。そして、いつか戻ってきたい、地域のために何かしたいと思える原体験を生み出しています。
イノベーターズセッションのあとは、アメリカ・カリフォルニア州から日本に移住したジェフリーさんによる空き家再生事例を見せていただくことに。1日目のイノベーターズセッションを担当した蔵元さんも含め、多くの人が空き家再生事業に取り組むほど、南九州市には家が余っているのだと改めて実感しました。
森の中の廃校を使ったフェス「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」
今回の体験プログラムの目的の一つは、深い森の中に佇む廃校、「リバーバンク森の学校」を舞台に開催される音楽フェス「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE 2019」に参加することです。地域のイノベーターの話を聞くだけでなく、実際にフェスのボランティアとして地域の活動に関わることで、地域で旅するように働くことを実体験しました。
体験をしたのは、ごみステーションでのごみの分別です。フェスに出店するお店のほとんどは飲食物を提供しており、会場にはごみ箱がそこら中に置いてあるわけではないので、ごみステーションは人が一番訪れる場所といえます。会場のある川辺地域は、南九州市の中でも特に資源のリサイクルの意識が高く、フェス中にもプラスチック容器は洗い、生ごみは水切りするなどして約20種類に分別していました。
今回のごみ分別ボランティアで特徴的だったのは、フェスのお客さん自身にもごみの分別をしてもらうこと。ボランティアスタッフの役割はあくまで「このゴミは霧吹きできれいにしてからやわプラ(やわらかいプラスチック)に捨ててください」などの指導をし、一緒に分別していくことでした。これは、ごみ分別が環境のためだけではなく「近くの人の良き隣人であるために」というGOOD NEIGHBORS JAMBOREEの理念に基づいています。
ごみステーションを訪れたお客さんも、ボランティアスタッフが説明をすると快く自分でごみの分別をしてくれます。運営スタッフとお客さん、という立場の違いを超えて、参加者全員で作り上げるフェスだということが強く感じられる体験でした。
良い音楽に良い食事に良い人々。あいにくの雨でしたが、フィナーレには花火が上がり、プログラム参加者も企画側も共に楽しめるフェスでした。
DAY 3:「何もない」離島から「行きたくなる」離島へ
最終日のイノベーターズセッションでは、甑島(こしきじま)と呼ばれる鹿児島の離島で地域の魅力を最大限に引き出してビジネスをする山下賢太さんのお話を聞けました。山下さんが代表を務める東シナ海の小さな島ブランド社は、甑島で米づくりや豆腐づくりなどの生産・加工事業や、ホステル運営などの観光事業など、島のためにあらゆるビジネスを起こしています。
イノベーターズセッション:地域の魅力に気付いてもらう取り組み
話者プロフィール:山下 賢太(やました けんた)
東シナ海の小さな島ブランド株式会社 代表取締役。鹿児島県上甑島生まれの33歳。JRA日本中央競馬学校を中退し16歳で無職。きびなご漁船の乗組員を経て、京都造形芸術大学にて環境デザインを学ぶ。2012年「東シナ海の小さな島ブランド株式会社=island company」を資本金10万円で創業。未来にあるふつうの風景を切り口に、山下商店甑島本店・FUJIYA HOSTEL・mirai studio しまとりえ・コシキテラスなどを運営し、あらゆる公共施設や暮らしの場の再生に取り組む。そのほか、漁師とまちの若者らでつくる新たな漁師祭「フィッシャーマンズフェス」や鹿児島の島々の新たな価値を創造する「鹿児島離島文化経済圏」=リトラボの発起人。
山下さんが生まれ育った甑島には、高校がありません。山下さんは中学卒業後、島を離れ千葉のJRAで競馬の騎手を目指しましたが、減量に失敗し16歳で挫折して島に戻りました。それから、夜中は漁船の乗組員として働きながら、特例で中学校に通わせてもらう日々でした。
その後、その時に見た島の生業の風景を守りたくて米作りをはじめました。米そのものが目的ではなく、島のみんなが関わり合っている米作りの過程をWebで発信することで、地域にとっての農業の本質的な価値がどこにあるかを伝えることで、コアなファンができるように。さらに豆富屋を開業し、島の人々と交流できる場をつくってきました。
山下さん:甑島に住む人々はいつも、「この島には何もない」と言っていました。では他に地域にあってここにないものは何だろうと、世界各国の先進都市(ベネチアやベルリン、台北など)をまわりましたが、方言や服装や文化など、違った形ではあるものの、すべての要素は甑島にもあることがわかったんです。
そこで、島の魅力を体験してもらうための観光事業として、「甑島の日常へ渡す小さな島宿 FUJIYA HOSTEL」を開業しました。宿泊施設とレセプションの役割だけをし、予約時には島でできる体験コンテンツも同時に予約するシステムをつくることで、島の人々が営むそれぞれの飲食店やアクティビティなどに橋渡しています。
他にも山下さんは、“島の漁師に会いに行く” をテーマにした「フィッシャーマンズフェス」も開催しています。甑島の漁師さんが、自分のとった魚をその場で焼いて直接顔の見える参加者に食べてもらうことで、継続的な関係性をつくるというコンセプト。この取り組みに対し、「なぜ漁師でもないお前がやるのか」と問われる中で、漁師と漁師じゃない者が職域を超えて一緒に新しい価値を作るということに互いに向かい合ってきました。
フェスに来た人が直接漁師から魚を買える、新たな通販サイト「Fisherman364」もオープン。そこには、消費者が知るべきこんなメッセージが書いてあります。
山下さん:“このFISHERMAN364は、お届けの希望日に必ずお届けすることは約束できません。季節や天候によっては、海が荒れたり、風の強い日があったり、しばらく沖へ出ることができない日も多くあります。それが、自然と共に生きる漁師たちの当たり前の日々です。けれども、沖へ出れる日は、あなたのことを想いながら海へ出ます。本当においしいと思えるものを、心をこめて漁師直送にて届けます。”
供給を一定にしようとすると、生産者側にしわ寄せがくるのでこう書いています。こんな過程があるからこそ、魚が届いたときの喜びは大きいのではないでしょうか。
山下さんの今後の目標は、150年後に向けて鹿児島離島の新しい価値を創造すること。そしてすべての事業を自立自走させ、島の後輩や仲間たちに託していくことです。「隣に暮らす、あの人の笑顔を見るために」事業を続けるということで、誰かの良き隣人であることの重要性をここでも感じました。
感想・学びまとめ
今回の『旅するように働くin 南九州 ~廃校が舞台のフェスでソーシャルイノベーションの可能性を探る』体験プログラムでは、地域で仕事をつくるために必要なエッセンスをたくさん吸収してきました。ビジネスをする上で印象的だったイノベーターたちの問いを、ここに書いておきます。
- お客さんは誰なのか?(誰のためにやっているのか?)
- この事業は、本当にその人のためになることなのか?
- 人の入れ替わりがある中で、地域を存続させていくためには?
- 生産者と消費者、スタッフとお客さんという関係性を超えるためには?
彼らは、地域の人々の前ではあえて地方創生などの文脈を語りません。山下さんは、「地域を良くする!という大きな思想よりも、目の前のたった一人のために役立つかどうかだけを考えて行動する。だから島の人からは、ちょっと変わったとうふ屋さんだと思われているかもしれません。でも、それでいいんです」と言っていました。
そして地域が持っている資源・資産をただのコンテンツとして扱わず、人々の話を聞きながら大事に関係性を作り上げていく姿勢からは、地域にもとから住んでいた人々へのリスペクトも感じます。
あなたは、「地球のため」や「地域のため」ではなく、誰にとっての良き隣人になりたい?それを考えることが、ビジネスを始める第一歩ではないでしょうか。最後に、このプログラムの参加者の声を一部シェアします。
プログラム参加者のコメント
20代女性:社会人1年目で、はじめての有給を使って参加しました。地域のコミュニティづくりに学生のころ取り組んでおり、今回はGOOD NEIGHBORS JAMBOREEで色々な人に会ってみたいと思って。
30代男性:今年4月、出身の東京から仙台に引っ越した社会人です。地方都市に住んでみて、地方だからこそできることは何か?と考え、このプログラムに参加しました。
Q. プログラムを通して感じたこと、学んだことは?
20代女性:今自分のやりたいことができる時代で、そのやりたいことを誰とやっていくかが大切だと感じました。誰とつながり、仕事をしていくかで世界の見え方は大きく変わるからです。
30代男性:南九州の人たちの生き方を見て二つ考えました。一つは、やりたいことを素直に「やりたい」と表明していいのだなということ。その言葉に現実味を持っていなかったのですが、発信すれば誰か近くの人がヒントを持っているかもしれないということを改めて実感しました。二つは、木の大切さ。木や建築のことを知っていることは、地域に関わっていくなかで役に立ちそうだなと。
Q. 地域のイノベーターたちとの出会いを経て、明日からどういう行動に移していきたい?
20代女性:人間は環境で育つという言葉があるので、色々な良いインスピレーションを与えてくれる人たちとこれからもどんどんつながっていきたいです。あとは、地域の課題に対して自分なら何ができるか?を考えて自分ごと化し、できることから行動していこうかと思います。
30代男性:明日からは、やりたいことを積極的に周りに言っていきたいと思います。あとは、実家が材木屋なので、遠くからでも実家の仕事を手伝っていきたいと思います。帰ったらさっそく父に連絡します(笑)