2019年は日本初となる「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称 食品ロス削減推進法)が成立したり、コンビニ各社が恵方巻やクリスマスケーキなどを予約販売に限定してフードロスに対する取り組みに踏み出したりと、フードロスについて日本でも世間から関心を得られるようになってきた。
ヨーロッパでは、フードロスに対する取り組みは日本に先駆けて広まっており、フードロスの課題解決ビジネスが、新しいビジネスとして浸透している。デンマーク発祥のToo Good To Goという飲食店や小売りのフードロスを減らすためのサービスは現在欧州13カ国に展開している。オランダでも2018年の1月からスタートし、約1年半でオランダ全国展開を果たし、総計およそ120万食ものフードロスを救ってきた。全人口1700万人という日本に比べて小規模な人口に対し、Too Good To Goのユーザー登録者数は現在100万人を超えており、急激に知名度を伸ばしている。
日本でもシェアリングエコノミービジネスが盛り上がってきており、フードロスの分野でも TABETEやReduce Go、FOODPASSPORTなど様々なサービスが登場している。一方でヨーロッパに比べると認知度や浸透度の点で、ビジネスが安定するまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
今回筆者はヨーロッパで展開しているToo Good To Go アプリを実際に使いオランダ国民のフードロスへの意識を肌で調査するために、スマホを片手にオランダ・アムステルダムへとくりだした。その後アムステルダムにあるToo Good To Goオランダの新オフィスで、社員の方に直接お話を伺った。
Too Good To Goとは
Too Good To Goは、飲食店やスーパーマーケットで発生してしまった「まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物」を消費者に割安で提供しているプラットフォームだ。 アプリをダウンロードすれば近くのお店が表示され、そこから選んで商品をネット決済で購入する。自分で指定した時間帯にお店に行き、持ち帰りで商品を受け取るのだ。
実際に加盟店を見てみると、スーパーマーケットが多い印象を受ける。オランダ最大手スーパーAlbert Heijnを始め、Jumbo, Ekoplaza, SPARなどオランダのスーパー全体の50%以上が加盟している。一般的な飲食店としてはパン屋をはじめとして、チェーン展開しているタイ料理屋、インドネシア料理屋や、寿司屋なども数多く掲載されている。
今回レスキューしたのは、Bakery Velentino’sというアムステルダムの中心地にほど近い場所に位置する人気のパン屋だ。フードロスが発生しやすいのは一日の終わり頃、夕方から夜にかけてのようで、夕方5時ごろを指定してお店に受け取りに行った。店員さんにスマートフォンの画面を見せると、使い慣れた様子で店員さんが対応してくれ、すぐに“Magic Box”を持ってきてくれた。
Too Good To Go では商品を“Magic Box”と呼んでおり、何が入っているのかは受け取るまでわからない仕組みとなっている。これは、Too Good To Goを利用するユーザーがただ「お得」な買い物を求めているだけでなく、Too Good To Goでの体験を新しいサービスとして楽しんでいる、そんな遊び心ある一面が垣間見えた。
筆者が購入した “Magic Box”は3.99ユーロで(約520円)で、中を開けてみると、サンドウィッチ含む4つのパン(通常価格は10ユーロ(約1300円)相当)が入っていた。どのパンも見た目、味は問題なく、美味しい。
オランダ国内でも特にアムステルダムやロッテルダムなどの都心部は加盟店が多く、いくつかのお店から自分の好きなお店を選ぶことができる。アプリを使ってみると、ソールドアウトのお店もよく見かける。リリースから1年半であるにも関わらず、かなり浸透しているように感じた。
オランダは、新しい文化や技術が入ってくることに対してあまり抵抗のない国であるが故に、Too Good To Go といった新しいアプリが市民の生活の中でも受け入れられやすいのだろう。
わずか1年半で全国展開を果たしたToo Good To Goオランダは、なぜここまで早いスピードで展開することができたのか。「フードロスへの意識を高めるムーブメントを起こしたい」と話すのは、 2018年からオランダToo Good To Goで働き始めたシャーロットさんだ。彼女自身のフードロスに対する想いや、Too Good To Goオランダとしてこれから何を目指しているのかについて、お話を伺った。
「捨てられていい食べ物は一つもない」
Q:なぜToo Good To Goで働こうと思ったのですか?
サステナビリティに注力している会社であることが、会社を選ぶ私の基準でした。全てのものは持続可能であるべきだと思っています。そして私はグルメで、食べることが大好きです。
その2点を兼ね備える会社がここ、Too Good To Goでした。今現在働いてみて、とても居心地が良いです。会社の理念がしっかりしているので雰囲気もいいと感じます。
Q:Too Good To Goではどんな仕事をしているのですか?
私はビジネスディベロッパーで、主に2つの地域を担当しています。そこで、食べ物を捨てていてどうにかしたいと考えている事業と組んで、Too Good To Goと一緒にどう解決できるか、どうしたらフードロスを減らせるかを考えています。
レストランやパン屋、寿司屋、ホテル、スーパーなど、業態は関係なく色々な企業にアプローチをかけています。
Q:フードロスに興味を持ったきっかけは何ですか?
私は小さい頃私の親に「食べ物を捨ててはいけない」と言われ続けてきました。賞味期限を見るのではなく、匂いを嗅いで、味を見て、自分の目で確認してみて本当に食べられないものだけ捨てるようにしなさい、と言われていました。なので、自分にとって食べ物を捨てないことは当たり前でした。しかし周りを見てみると、食べ物を簡単に捨てている人がたくさんいることに気がついて。自分がアクティビストになって「そういった社会と変えていかないと」と思うようになりました。
Q:なぜ、フードロス問題を解決することが大切だと思うのですか?
全てのものは持続可能であるべきだと思うからです。捨てられていい食べ物は一つもありません。食べられる食べ物を捨てることは本当に馬鹿げているし、どう考えてもおかしいと思います。例えばアボカドはチリからはるばる運ばれてきたのに、家にやっと辿り着いたと思ったら、ゴミ箱行き。おかしいですよね。
Q. フードマイレージのもたらす環境への負荷も大きいですよね。
その通り。フードロスはその問題そのものよりずっと大きい、深刻な問題なんです。気候変動に大きな悪影響をもたらしています。実際に温室効果ガス排出の全体量のうち8%はフードロスそのものが原因で排出されています。
フードロスをなくすムーブメントを引き起こしたい
Q. Too Good To Goを導入したことによるお店の反応はどうですか?
とても喜んで頂いています。ついに、廃棄せざるを得なかった食べ物を救うことができる解決策にありついた!と。
Q. では、消費者のモチベーションは、実際どんな感じなんでしょう?
地域によって差があります。本当にフードロスを削減したいという強い想いのもとアプリを使ってくれている人もいれば、マジックボックスという、買ってみないと何が出てくるかわからないというサプライズ感を楽しんでいる人もいます。
Q.なぜこんなにも普及のスピードが早いのでしょう?
もちろん、実績がないと誰も協力してくれません。その意味では最初は大変でした。でも全員が、フードロスは問題だという意識はあります。社会にとってプラスな活動であることは明白であるので、共感してくれる人は多いですね。
Q. 売り上げは順調ですか?
はい。アプリを見てくれれば分かるように、今も多くのお店で完売状態です。それほどToo Good To Goは人気なんです。実際自分自身もアプリを使って食べ物を探すのですが、全部売り切れで買えないこともよくあります。
Q. それは、フードロス問題全体としてみたら、良いことですね。
そうです。私自身はマジックボックスが欲しかったので残念でしたが(笑)でも社会としては良い傾向です。Too Good To Goを使うことによって明らかにフードロス問題が解決されているわけですから。
Too Good To Goが目指すことは、社会全体にフードロスをなくすムーブメントを起こしたいと思っています。そのためにサービスそのものを拡大するだけではなく、教育も力を入れています。どうやって食を守っていくのか、どうやって食の新しい可能性を生み出していくのか、といった食の問題に向き合っています。
Q. 教育という面に関して、Too Good To Goとして何か取り組んでいますか?
政府、教育、企業、家庭の4つのセクターに分けていて、それぞれに達成目標を設置しています。ホームページから見てみると分かるように、家庭でフードロスを削減するためには何ができるか、企業として何ができるか、そもそもフードロスはどのくらい発生しているのか、など、様々な知識、情報をオープンソースで提供しています。
教育面では大学に行って講演をしたり、大学の研究機関、役所と協力してデータを収集したりしています。
Q. 脱プラスチックの取り組みにも力を入れていますか?
Too Good To Goが使うパッケージはコンポストな素材を使っています。むしろプラスチックなんて使う必要はないですよね。他に使える選択肢はたくさんあるのですから。
なので、お店にもプラスチック容器は使わないようにお願いしています。
お客さんにも自ら積極的に環境について配慮してもらうよう努力しています。自分で袋持ってきてもらうとかね。
インタビュー後記
ヨーロッパで急成長を遂げるToo Good To Goの裏側をのぞいて見ると、成功の理由が納得できた気がした。今回お話を伺ったシャーロットさんに限らず、社員の皆さんは陽気で楽しそうに、かつ熱い信念を持って働いている印象を受けた。
今後もますます発展を遂げ、世界のフードロス解決に向けて大きなインパクトを与えてくれるであろうToo Good To Goの将来に期待すると同時に、日本として彼らから学ぶことはたくさんありそうだ。