トヨタが、人口知能(AI)や自動運転など、最先端技術を実証するスマートシティ(コネクティッド・シティ)をつくる時代が来た。2020年1月、アメリカ・ラスベガスで開催されたデジタル製品の展示会「CES」で正式発表した。
「Woven City(ウーブン・シティ)」と名付けられたこの実証都市は、2020年末に閉鎖される同社・東富士工場(静岡県裾野市)の跡地を利用し、2021年初頭から着工する予定だ。今後、トヨタはさまざまなパートナー企業や研究者と連携しながら、自動運転、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる街をつくっていく。
プロジェクトの初期段階では、同社の従業員やプロジェクト関係者など、2,000名程度の人々が実際に暮らすという。この街が最先端技術を実際に試すリアルな場となることで、技術開発とその検証をより早く、より簡単に行い、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続ける狙いがある。
豊田章男社長は発表の際、「将来のより良い暮らしと、Mobility for Allをわれわれと一緒に追求したいすべての方々の参画をお待ちしています」と語り、世界中の企業や研究者のプロジェクトへの参画をオープンに募っている。
都市設計を担当するのは、デンマーク出身の著名な建築家であるビャルケ・インゲルス氏だ。同氏が創業したビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)は、ニューヨークの新たな第2ワールドトレードセンターなど、これまでにも世界中で数多くの建築プロジェクトを手掛けてきた。
プレゼンで紹介された構想は、人々の暮らしの質をテクノロジーにより高めると同時に、環境との調和にも重きを置いたものである。街中の道は用途に応じて、車道、スピードの遅いパーソナルモビリティや歩行者の通る道、そして歩行者専用の遊歩道の3つに分類され、車道には「e-Palette」など、完全自動運転かつゼロエミッションの車両が走行する。
また、エネルギー供給は燃料電池の発電システムが担い、インフラはすべて地下に設置予定だ。都市内の建物は主にカーボンニュートラルな木材で作られ、屋根には太陽光発電パネルを設置するという。
中でも注目すべきは、地下に張り巡らせるコンベアのような配送網と地上を走る自動運転車により、物の配達を人ではなく、人工知能(AI)を用いた全自動システムに委ねるという計画だ。人手不足が問題になっている物流業界に未来のあり方を示せるかどうか、期待がかかる。
人の歴史を見返せば、特定の思想や主義、あるいは科学技術が、時間をかけて受け入れられる過程には、必ずその実践と結果があった。このプロジェクトを、変化の激しい自動車業界におけるトヨタ自身の生存戦略と見ることもできるが、その意義はそれだけにとどまらない。
われわれの社会が「自動運転」に向かって進んでいることは明らかだが、それが完全に普及している状態は、はっきりとイメージがしづらい。今回のトヨタによる「街づくり」プロジェクトは、大胆な経営判断でありながら、同社が描くビジョンを明確に人々に示し、社会を変革していく最適解と見ることもできる。
人々の世界観を今後大きく変えていくであろう、あらゆる技術革新を促進する大きな役割を、果たして「Woven City」は担うことができるのか。他業種との提携を着実に進め、新たなステージでトヨタが踏み出したこの一歩からは、今後も目が離せない。
【参照サイト】トヨタ、コネクティッド・シティ」プロジェクトをCESで発表
【参照サイト】CES 2020: Toyota Woven City Will Weave Together AI, Hydrogen Power And The Future
(画像提供:Toyota)