ご近所同士のシェアリングサービスPeerbyが目指す、地域循環コミュニティ

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家庭にあるものの80%が1か月に1回も使われていない――。この現状に目をつけ、ご近所から家庭用品を借りられるプラットフォームを提供するのは、オランダ・アムステルダムに拠点を置くスタートアップ「Peerby(ピアビー)」だ。

2012年の創業以来、十分に活用されていない製品が共有されるようテクノロジーを活用して促し、結果、新しい製品と資源採掘への需要を減らしてきたPeerby。同社は、すべての生活消費財をリジェネラティブな、サーキュラーエコノミーの一部にすることをミッションに掲げる。

今回編集部は、Peerby創業者のダーン・ウェデポール(Daan Weddepohl)さんに、Peerbyの目指すサーキュラーエコノミーについて話を聞いた。

「Interdependency(相互依存性)」の重要性

「このサービスを始めたきっかけとなったのは、私自身が、人生最大の惨事に見舞われた体験でした。

すべては、一台のトースターから始まりました。パンを食べようと思ってトースターに入れたところから火がついて、あっという間に燃え広がり、文字通り瞬く間に、私の家とすべての所持品を燃やしつくしてしまったのです。

私はショックを受け、打ちひしがれていました。しかし惨事というものは続くものです。ちょうど同じ時期に失業し、その職場から貸し与えられていた車も失ってしまいました。(さらに、当時付き合っていたガールフレンドとも別れてしまいました)

非常に辛い体験でした。自分を形づくっていると信じて疑わなかった、ほとんどすべてのものを一度に失ってしまったのですから。自分は非常に自立した(independentな)人間だと思っていたのに、急に人に頼らなければならない(inter-dependentな)存在になってしまいました。事あるごとに周りの人に助けを求めたり、他の人の家に泊まらせてもらったりしなければなりませんでした。

しかし辛いなかでも素晴らしい気づきがありました。自分は、所有しているものによって形づくられている訳ではないことに気がついたのです。さらに、他の人に助けを求めてinterdependentでいることは、周りの人と、より良い、強固な関係性を築くことにつながるのです。

この体験は、私が人生で重要だと思っていたことをひっくり返してくれました。

それまでは、自分の所有しているものが私という人間を決めると考えていましたが、互いに頼れる関係性の重要さを感じたことで、周りの人によって私という人間が決まるのではないか、と感じるようになりました。

ちょうどその頃、レイチェル・ボッツマン氏の「シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略(英名:What’s Mine Is Yours: The Rise of Collaborative Consumption)」という本を読みました。強く感銘を受けました。

世界は有限なのにも関わらず、私たちが現在つくりあげているのは、人々をより孤立した消費者に仕立て上げ、もっともっと消費させる社会です。自立した人間でいることが良しとされ、自分のなかで完結できるよう経済的・社会的に独立していることを求めるのが現在の社会経済です。しかし、実際に、よりよく生きていくために必要なのは相互依存性なのではないでしょうか。

物理的に独立するためには、多くの物を所有する必要があります。すべての人が多くの物を所有する、つまり大量消費を促す社会経済では、当然資源が枯渇してしまいます。

一方で、製品の利用サイクルが何度も循環し、同じ製品が何度も使われるようになれば、みんなに行き渡るのには十分過ぎるくらいあるはずです。

自分たちのつくった社会の中で、私たちは明らかに過剰消費をしており、「見かけ上の不足」(artificial scarcity)に陥っています。すべての人に行き渡ってもまだ余るくらいのものはあるのにも関わらず、です。『人々が怖がらずに、互いに助けを求めることができるローカルコミュニティをつくることができたら、きっとそれは素晴らしいものになる』

そう思い立って、Peerbyを立ち上げたのです」

顔の見える距離だから生まれる信頼

Peerbyは、ご近所の人同士で、家庭用品を貸し借りできるオンラインプラットフォームだ。貸主が無償、もしくは有償で金額を設定して貸したい物を掲載できる他、借り手側が探している物を貸してもらえないかご近所さんに聞くこともできる。貸し借りされる製品は、キッチン用品からDIYのための工具類、スポーツ用品、パーティ用品など多岐にわたる。

しかし、いくらご近所同士とはいえ、自分のものを知らない人・会ったことのない人に貸すことに対し、人々は不安を感じないものだろうか。

「Peerbyをローンチして、最初のユーザーになってくれた人たちは、とても嬉しいことに、他者に対する信頼を持っている人たちです。

信頼は、一種の保証になります。私たち人間が、ある種の性善説で動いているところはあるでしょう。私たち人間は善良で、信頼できて、他の人や他の人の持ち物を大切に扱うはずだと思っているところがある。もちろん、一部にそうではない人もいるかもしれません。

でも、Peerbyというサービスを実際に提供してみて、大部分の99.9%の人は、善良で信頼に値すると感じます。また、貴金属やクレジットカードや不動産などの金銭価値の高いものがPeerbyに掲載されるのはごく稀で、電動ドリルなどの道具類が掲載される製品の多くを占めています。

現在Peerbyでは、製品の破損などを保証するサービスを行っていますが、顔の見える距離の地元で、ご近所同士がつながる、というコンセプトの上に成り立っているため、強い信頼感のある取り引きが実現できているのは間違いありません」

筆者がオランダに来て驚いたのは、郵便配達の際に不在だと、宅配員は隣人に預け、どの家に預けたか通知を残す習慣が2021年の現在も続いていることだ。自宅に帰ってきて通知を見たら、荷物を預かってくれている隣人の家を訪ねて受け取るシステムだ。こういったオランダの信頼に基づく土壌が、Peerbyにも良い影響をもたらしているのではないだろうか?

「オランダがそもそも高信頼社会であることは、Peerbyを成功に導いた大きな要因だった可能性は多分にあります。他者に対して信頼の薄い社会ではもう少し苦戦していたはずですから。

オランダは非常に平等主義の国で、貧富の差がそこまで大きくありません。生活のために追い詰められて何かをしてしまう、というリスクが比較的低いといえるため、信頼を壊すようなトラブルには陥りづらいと言えるかとは思います。

ただ、多様な社会でも同様の信頼が根付くことが私の願いです」

かつて保険は「所有」に対してかけられた。シェアリングモデルではどう変わる?

「歴史的に、保険とは所有物に対してかけるものでした。よって、シェアリングを前提とした経済に移行すると、保険の役割やかたちも必然的に変わってくるはずです。Peerbyでも、製品を提供してくれている人たちを守るためにはある一定の保険が必要だと考え、サービスをつくりました。

ただ、初めにつくった保険システムは正直、失敗でした。初期のサービスは、きっちりとしすぎた、「正式な」保険にしてしまったのです。保険会社とともに、どのようなリスクがあるかを算出し、人々に保険商品としてサインしてもらおうとしたのです。煩わしい、手間のかかる工程になりました。「保険」の概念に縛られるあまり、人々が求めているもの、コミュニティにとって本当に必要なものとはかけ離れたものになっていたのです。

現在はそこから大幅に改善しました。2020年から導入したモデルは、コミュニティに入会するために少額のサブスクリプション費を払ってもらい、その金額をプールしておいて何かアクシデントが起きたときにはそこからPeerby側が払って保証するというものです。正式な保険というよりは、コミュニティ・ファンドをイメージしていただければわかりやすいかと思います」

コミュニティモデルが異なる層の人々をつなぐ

「保険だけでなく、今後はPeerbyの仕組み自体をコミュニティモデルに寄せていくつもりです。初めにPeerbyをローンチした際には、手数料を無料に設定していました。よって、ビジネスモデルもなく、保険もありませんでした。完全にコミュニティのためのものを想定していたため、利用者が増え、実際にコミュニティが形成されていきました。

ただ、企業として収入がなければ事業を継続できなかったので、シリコンバレーのAirbnbやUberなどのテック企業などのビジネスモデルに影響を受け、私はマネタイズをしなければと考えました。もっとプロフェッショナルな、きちんとしたサービスにしなければならないとも感じたのです。

Peer to Peerの課金型レンタルシステムも並行してはじめましたが、これはスケールしませんでした。増収しなければと商業的な方向に進もうとして苦戦し、結果として遠回りしました。

現在では、コミュニティモデルの方がやはりPeerbyの本質に合っていると感じたためそちらに舵を切り直し、ようやく経済的にも自走できるようになってきたところです。コミュニティモデルこそが、私たちらしい価値を提供できるという手応えを感じています。

初期に利用し始めたのは、どちらかというと社会のために何かしたい、人の役に立ちたい、という意志の強い人が多かったのに対し、その後利用し始めた層は、自分の所有している物で副収入を得られることにメリットを感じている人が多かった。現在は、それぞれちょうど良いくらいに混ざっていると感じます。

これを、今後より良いコミュニティに導くためには、メンバーシップ要素を強めていきたいと考えています。より多くコミュニティに貢献する人は少ない額を、製品を貸すよりも借りたい人にはもう少し大きい額を負担してもらう、といったモデルです。

こうすることで2つの異なるモチベーションによって動いている人たちを、うまくコミュニティとしてつないでいくことができるはずです。

製品を貸すときの価格に一定割合を手数料として取っていたこともありましたが、このモデルだと、多くの人が無料で製品を貸せばコミュニティを継続するための資金が危うくなってしまいます。よって、製品の貸し借り自体には手数料は課さない方がいい、という結論に達したのです。

このサービスを運営していて非常におもしろいのは、サービスのなかにマイクロエコノミーが出現し、その基盤の上に社会・経済実験をしているようであるところです。運用によっては、従来型のリニアで商業的な点にのみ重きを置く経済圏ともなりますし、コミュニティに重きを置いた循環する経済圏にもなります。

そういった意味では仕組みのつくり方と、どのような結果がもたらされるのかという因果関係を手探りで見つけながら、ひとつずつ、より正しい方向につくり変えているところです」

Peerbyが加速させるサーキュラーエコノミー

「リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーに移行するためには、新しいエコシステムが必要となります。

製品のライフサイクルを通して、資源の採掘・製造・設計・部品の調達・出荷・輸送・販売など、すべての工程を循環するように再設計しなければなりません。ひとつのエコシステムから、まったく新しいエコシステムに移行する必要があるのです。

それは、簡単な道のりではありません。例えば、電動ドリルの製造業者にとって、サーキュラーエコノミーの電動ドリルを明日から売る、と決めることは難しいことです。わからないことが多すぎるからです。

どこで、どのように市場に売り込めばいいのでしょうか?サーキュラーな小売業者もいないなか、製品のメンテナンスは誰がどのようにするのでしょう?どうやって製品を回収して、リサイクルすればいいのでしょう?

例えば、製品の本体ですらない取扱説明書ひとつをとっても、多くのことを変える必要があります。現在の取扱説明書は、ひとりの消費者に1回読まれることしか想定していません。すぐに破れてしまうような薄い紙でできていることがほとんどです。しかし100人に電動ドリルを使ってもらうようになれば、取扱説明書も100人が読める耐久性にする必要があります。一度きりの利用ではなく、複数回利用されることを想定した包装にする必要もあるでしょう。

もちろん、こんな仕組みはこれまで存在しなかったわけですから、鶏が先か卵が先か、という話ではあります。製造業者やサプライヤーにとっては特に、このような仕組みがなければ製品をつくることはできず、製品がなければ仕組みをつくれないように感じられます。

ここで、私たちは、すでにでき始めているサーキュラーエコノミーのエコシステムの一部を利用して、プラットフォームとして最小単位のサーキュラーエコノミーをつくり、そこから少しずつ大きく広げていけたらと考えています。

リニアエコノミーを壊し、曲げた先を小さな循環の円、つまり人々が製品をシェアする仕組みです。少しずつ行っていくことで、需要・市場・仕組みのバランスを取り、キャパシティを最適化していくことができます。

そして、ゆっくりとでもその円を拡大していくことで、サーキュラーエコノミー完成に必要な要素をひとつずつ増やしていき、採掘から売るまでのリニアな仕組みから、循環する仕組みへと移行していけるはずだと考えています。

まだまだ現在の経済は、最終的には焼却・埋立処分されることを前提とした陳腐化のための製品設計を行っています。それに対し、Peerbyの利用者は実際にコミュニティのために設計され、何度もメンテナンス・修繕される想定の、そして必要となったら部品だけ交換すれば何年も使い続けられるような製品を望んでいます。これを可能にするテクノロジーはありますが、そのためのインセンティブがまだまだ足りていません。

現在、オランダ国内の製造業者一社と、そしてベルギーでは複数社とパイロットを進めています。製品の製造業者や国外のエコシステムと連携を深めていきたいとも考えています。

ベルギーのPeerbyチームは、製造業者に対して、シェアリング前提の製品をつくるためにはどのような要素を考慮する必要があるのかコンサルティングを行っています。サーキュラーエコノミーへの次のステップを踏み出すには、何が必要なのかアドバイスしているのです。こういったサーキュラーモデルに移行しようとしている製造業者のためのビジネスモデルをつくることができれば、新しい仕組みへの移行が早まるでしょう。」

「どのような要素によってリニアエコノミーの優位性が確立されてしまっているのかを紐解いて考える必要があります。

そして、サーキュラーエコノミーに優位性をもたせ、最もメリットの多い金融モデルにしなければならないのです。

税制についてもきちんと見直す必要があります。現在はほとんどすべての国で労働に対して重い税金がかけられてしまっています。結果、メンテナンスや修繕が高額になってしまい、長持ちする素晴らしい製品を使い続けることを難しくしてしまっています。

物価の安い国で、採掘資源から製品をつくり、地球半周分ほどの距離を輸送した方が安いのは、原材料の採掘をほとんど何の税金も払うことなく行うことができるからです。

過去数年で、私たちは経済の仕組みとサーキュラーエコノミーについて、非常に多くのことを学びました。それまでもみんなが同じ製品を1人1台買うことに『何かおかしい』と感じてはいました。例えば、隣同士に住む人たちが全員、各家族1台ずつ芝刈り機を買うことなどです。(芝刈り機など、月に1回も使わない家庭がほとんどのはずです)

しかしこの数年は、何がこの仕組みをつくりあげてしまったのかはっきりと見えるようになりました。月に1回かそれ以下しか使わないものを買う必要があるのでしょうか。

先程お話した、人生ですべてを失う体験をしたことは、私の世界観を大きく変えました。製品を所有しないですむなら所有しないでいたいと感じるようになりました。もしも所有するとしたら、愛情を込めてつくられたものを、一生使いたい。

オランダはとてもうまく古い建物を活かしています。今取材を受けているSoho Amsterdamも、もともとは貿易会社の本社として建てられた建造物を(一時はアムステルダム大学が借り上げていたこともありました)修繕し、改装し、今でも、コミュニティの人々に愛され、大切に使い続けられています。

これは私が実現したい世界観に他なりません」

誰でも高品質な製品に手が届く社会

「Peerbyを創業してから、多くの人が本当に良いものを、長く使いたいと望んでいることを知りました。ただ、生涯使える本当に良いものは、まとまった金額が必要な場合が多い。高品質な製品は、質の悪いものに比べ2〜3倍の価格、もしくはそれ以上で売られています。経済状況によっては、手が届かない人もいるでしょう。

でも、シェアモデルだとどうでしょう?みんなでシェアすればそういった人も高品質の製品を使うことができるのです。消費から成り立つ現在の経済モデルでは、消費者ひとり一人が製品の唯一の所有者になります。多くの人が、製品の唯一の所有者になるというのを実現するには、一製品あたりのコストを下げないと難しいため、質の悪い製品も生産されています。

しかし、非常に論理的でないと感じるのは、安い製品であったとしても、製品の潜在価値のうち3%程度しか活用されていないという現状です。

所有することを優先するために質の悪い製品をつくったのに、使ってすらいないのです。多くの人は1〜2年の間に、ざっくり見積もっても5000ユーロ(日本円約63万円)ほどのお金を、ほとんど使わない物を所有するために費やします。これを月額換算すると、1カ月あたり300ユーロ程度になります。

Peerbyが実現するのは、所有するのと同じくらいの価格を払い、シェアすることで、誰もがより質の良い製品にアクセスすることができるシェアリングエコノミーであり、コミュニティなのです」

編集後記

経済的・社会的に自己完結できる、自立した人間になることは現在多くの場面で推奨されている。しかし、この考え方そのものが、所有を前提とした大量生産・大量消費を促進する要因となってしまっているというダーンさんの話にはっとさせられた。

サプライヤーも利用者もそれぞれが本当に必要なものを改めて見つめ直すことが求められている。同時に、互いに手を貸し合い、頼り合うことの価値を認識し、それを基盤とする社会経済を求めるとき、必然的にサーキュラーエコノミーへと大きく前進していくのであろう。

(※画像提供:Peerby
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。

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