Z世代が織り直す銘仙着物の魅力。「Ay」が生み出す地域密着のエシカルとは

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環境や他者と関わり合うなかで発展してきた日本のものづくりを代表するものの一つに着物がある。着物と一口に言っても様々な種類があり、例えば「銘仙(めいせん)」は、一般にいう「平織りの絹織物」で、大正から昭和にかけての女性の普段着やおしゃれ着として日本全国に普及したものだ。

奈良時代から養蚕が開始されたと言われる群馬県の「伊勢崎銘仙」は、明治から昭和時代にかけて日本中の女性たちに愛された。伊勢崎銘仙の魅力は、「併用絣(あらかじめ縦糸と横糸に模様をつけてから織る手法)」によって成される独特な模様と発色の良さだ。しかし、かつては盛んに生産されていたという銘仙も、現在は着物文化の縮小や後継者不足などを背景に銘仙業界自体が落ち込んでいる。

そうした銘仙文化と向き合い、地域で育まれた伝統技術を取り入れながら、新しいエシカルファッションを模索しているZ世代の起業家がいる。今回はアパレルブランド「Ay」の代表・村上采さんを取材した。

始まりはコンゴ民主共和国でのものづくり

Ay代表の村上采さんがものづくりを始めるきっかけとなったのが、アフリカ・コンゴ民主共和国への訪問だった。

「大学の講義の一環で、コンゴ民主共和国に渡航しました。文化交流のイベントやスピーチコンテストなどを運営・実施していたのですが、単発的なイベントに関わっているだけでその過程に関われていなかったのが心残りで。そして『現地に行っただけで満足してないか?』という自分自身に対する違和感もありましたね。そうした経験がきっかけで、より持続性のあるビジネスをやりたいと思うようになりました。」

また、村上さんが現地で自分へのお土産として服を作ろうとしたところ、若いコンゴ人がビジネスを協業しようと積極的に話しかけてきたそうだ。彼らの話を聞く中で、大学を卒業しても働く機会が無いという現状を知り、そうした課題に対して積極的に雇用を生み出そうとする若者の姿に感化されたという。

同時に、村上さん自身も自分で何かを生み出したいという気持ちになった。その後、村上さん自身が好きなファッションの領域で、現地に根付いているアフリカ布を使った衣服の生産に注目し、2019年の5月にブランド「Ay」を立ち上げた。

「実際にブランドを立ち上げる中で、コンゴ人との意思疎通が難しさや感覚の違いを感じ、ビジネスを協業することの大変さを実感しましたね。ただ同時に、生活をともにしながらブランドを作っていったことで、コンゴ人の持つ大胆な感性や心の広さを学びました。」

コンゴ共和国での様子

Image via Ay

「銘仙」という原点に立ち戻る

村上さんは2020年3月に再びコンゴ民主共和国を訪れる予定だったが、新型コロナウイルスの影響で渡航できず、ブランド自体をクローズさせようか悩んだという。海外渡航ができない状況で国内に目を向けたときに、村上さんの地元の文化の一つである「銘仙」が頭に浮かんだ。そして、銘仙に焦点を当てながら「Ay」の活動を再開することとなったのだ。

「私が銘仙に出会ったのは中学時代です。中学生の時に初めて伊勢崎銘仙に関する講義を受け、銘仙の文化や技法を学んだり、着付けのワークショップを体験しました。その中で、鮮やかで魅力的な銘仙が自分の地元で作られていることに衝撃を受けました。その後も、留学先のアメリカやコンゴ民主共和国へ渡航する際に伊勢崎銘仙の着物を持参し、着物の着付け体験の機会を作っていました。そうした経験を経て、『銘仙』という自分自身の原点に戻ってきた感覚がありますね。」

Ayファッション

Image via Ay

村上さんは群馬に戻り銘仙継承活動をする方や元職人たちと交流する中で、「銘仙の生産は厳しい」という声を耳にした。中学生の時に銘仙の講義の中で銘仙の産業自体が厳しい状況にあることは知っていたが、改めて現場に腰を据えてみると経営を続ける難しさを身にしみて実感したという。

「銘仙業界の厳しい現状を感じながらも、産地を復活させ産業の発展に貢献したいという気持ちがあります。そのため、地元の縫製工場に焦点を当て、自分のビジョンを理解してくれた工場と連携するようにしています。より強固な連携体制を築いていくためには、実際に現地に拠点を構え工場側と思いや考えを共有していき、地域に入り込むことが重要だと実感しました。

障壁になっているのは、銘仙の産業自体が小さいために、重労働かつ繊細な仕事に見合った対価が支払われないというイメージが根強いことですね。さらに、銘仙業界は14工程それぞれに職人たちが1人ずつついているため、一つのセクターが欠けると製造できないという構造上の課題もあります。そうした分業体制ではなく、相互に連携して全体を見ることが必要だと思っています。」

「銘仙」の魅力を織りなおす「Ay」の挑戦

また、村上さんはテクノロジーと銘仙業界をかけあわせ、発展させていくことも重要だと考えている。

「『Ay』で銘仙着物のアップサイクルを行う中で、着物の限定的な生地幅に合わせると洋服を作るのが難しいことに気付きました。テキスタイル自体の開発をすれば、より自由にデザインできるようになります。また、銘仙で使用される正絹は洗濯が手洗いに限られるため、現代のライフスタイルに合わせるためにポリエステル混合の銘仙を作るなど、繊維開発の段階から銘仙業界に携わりたいですね。デザインに関しても、銘仙の要素を上手く取り入れながら現代に溶け込むような新しい取り組みを行いたいと思っています。」

Ayファッション

Image via Ay

そうした「Ay」の取り組みを通して、ブランド設立当初に展開していたアフリカ布のプロダクトのファンが引き続き銘仙のプロダクトを購入するなど、地域に入りながら文化を紡いでいく「Ay」のビジョンや行動に対する共感を身をもって感じたという村上さん。2月10日には、クラウドファンディングを開始し、伊勢崎銘仙を使用したワンピースや小物など日常生活で着やすいプロダクトの受注生産を開始した。「Ay」の世界観に関心のある方はぜひ覗いてみてほしい。

インタビュー後記

多様な「エシカル」のアプローチの中でも、筆者自身が注目しているのが地域に根付く文化に焦点を当てた取り組みだ。エシカルという言葉が注目された背景には、生産者・消費者間の情報の不透明性がある。いかに両者が互いに見える距離でコミュニケーションをとれるかという視点は、「エシカル」の基盤にあると言えるだろう。そうした透明なコミュニケーションをするにあたって重要なのが、私たちが暮らす「地域」やものが生み出される「産地」に目を向けることだ。

今回「Ay」代表の村上さんにインタビューをする中で、世代を超えて継承される縦の繋がりを強く感じた。エシカルファッションの領域においては、 新しい技術が注目されがちだが、あらためて地域に根付いているものづくりに目を向けると、まさに働く人々や自然環境にとって「八方よし」な取り組みが昔から引き継がれていることに気付かされる。

新型コロナウイルスの影響で海外渡航も制限されている現在は、あらためて自分自身の地域を見つめ直す良いタイミングとも言える。地域の文化と向き合い、その魅力を再発見するとともに、現代に溶け込むような取り組みへと昇華させていくことが、コロナ時代にできる「エシカル」な取り組みの一つであろう。

【参照サイト】「Ay」公式HP
【参照サイト】群馬県伊勢崎市から絹織物「銘仙」を今に紡ぐ服、できました!ローカルから世界へ(クラウドファンディングページ)

Edited by Megumi Ito

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