神奈川の海水浴場が、厳しい国際認証「ブルーフラッグ」を取得するまで【前編】

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海の季節がやってきた。コロナ禍の中でも、海開きをするビーチも多いだろう。そんな季節に、サステナビリティの観点から新たなチャレンジをし、海開きを迎える海水浴場がある。それが江の島と富士山を望み、年間100万人もの人が訪れる日本屈指のビーチ、神奈川県の片瀬西浜・鵠沼海水浴場だ。

片瀬西浜・鵠沼海水浴場

(提供:藤沢市観光協会)

同海水浴場は2021年4月、ビーチ・マリーナ・観光船舶を対象とした世界で唯一の国際認証「ブルーフラッグ」を取得した。同認証は、水質や安全などの問題に取り組む海水浴場が取得できるもので、日本で取得しているビーチは多くない。しかも、民間団体として取得したのは、日本だけでなくアジア初だというのだ。

一体どのような経緯で、今回の取得に至ったのか。課題はあるのだろうか。認証取得に関わった方々に話を伺った。

ブルーフラッグ取得の主体となったのは、海の家の運営団体

ブルーフラッグは、1987年にフランスで生まれた環境認証だ。現在、49か国、4,820箇所(2021年6月時点)で取得されている。審査対象は「水質・環境教育」と「情報」「環境管理」「安全」の4つのカテゴリーがあり、33の基準を満たす必要がある(基準の詳細)。また、毎年更新が求められる厳しい認証制度だ。それだけに海外でブルーフラッグ認証ビーチは、安心で安全でかつ、サステナビリティに取り組む海水浴場として利用者の信頼を得ている。

日本では2016年に神奈川県鎌倉市の由比ガ浜海水浴場と福井県高浜町の若狭和田海水浴場が日本・アジア初のブルーフラッグに認証された。その後、兵庫県神戸市の須磨海水浴場、千葉県山武市の本須賀海水浴場が認証され、今回は5つ目の認証となる。

しかし、他の海水浴場とは違う点がひとつある。それは多くの海水浴場は認証を取るまでに行政主体で進めているのに対し、冒頭で述べたように片瀬西浜・鵠沼海水浴場の場合は、民間が主体で動き、取得をしたという点だ。

動きの中心となったのは、海の家を営む組織からなる江の島海水浴場協同組合。理事長の森井裕幸さんによると、取得のきっかけは2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)だった。「これまでビーチの清掃はしていたのですが、SDGsのことを知って何かやらなければ、と思って調べているうちにブルーフラッグのことを知り、これだと思いました」と森井さんは話す。

江の島海水浴場協同組合様より提供_森井理事長写真横2

森井理事長(提供:江の島海水浴場協同組合)

ライバルも含めた多様なステークホルダーが一致団結

今回の認証取得には多様なステークホルダーが関わっている。地元の自治体である藤沢市観光課、長年、同海水浴場でのブルーフラッグ取得をめざしていたNPO法人湘南ビジョン研究所、海の安全を守るNPO法人西浜サーフライフセービングクラブ、そして、ブルーフラッグの認証団体であるNPO法人FEE Japanだ。

藤沢市観光課の寺谷博樹さんは「同海水浴場は藤沢市の大事な観光資源のひとつ。SDGsの観点からも何か貢献できればと思い、江の島海水浴場協同組合から協力依頼があった時は二つ返事で協力を承諾しました」と語る。

鵠沼で生まれ育ったNPO法人湘南ビジョン研究所、理事長の片山清宏さんにとって、片瀬西浜・鵠沼海水浴場のブルーフラッグの取得は悲願だった。高校生の頃から海を楽しみ、ビーチクリーンにも取り組んできた片山さんは、全く減る気配のない海岸ごみを目の前に限界を感じ、解決策を模索していた。そんな中で出会ったのがブルーフラッグだった。

しかし、全く減る気配のない海岸ごみを目の前に限界を感じ、解決策を模索する中で出会ったのがブルーフラッグだった。2011年に、「これだ!」と思い関係者に掛け合うも、当時はまだ関心が高まっておらず、取得には至らなかった。それから8年後の2019年、森井さんから協力の依頼が来たときには「やっと来た!」と、喜びもひとしおだったという。

申請までの約1年、何度も調査や会議、勉強会を行い、準備を重ねた。こうしたプロセスを通して「海をもっといい場所にしていこう。誰もが楽しめる場所にしていこう、という共通の価値観を作ることができた。関係者たちはそれぞれの利害関係がある中、ブルーフラッグを取得するというミッションのもとに『同志』に変わり、コミュニケーション量も増えて関係もよくなった」と西浜サーフライフセービングクラブの上野凌さんは語る。

江の島海水浴場協同組合様より提供_市長表敬訪問集合

市長表敬訪問集合(提供:江の島海水浴場協同組合)

組合の森井さんによると、ブルーフラッグの認証を先に取得した鎌倉の由比ガ浜海水浴場、増田元秀組合長からも多くのアドバイスをいただいたという。ブルーフラッグ取得というひとつの目標を達成するために、ライバルも含め、多様なステークホルダーが一致団結したことは今回の取り組みの価値と言えそうだ。

今後は障がいを持つ方も利用しやすい、インクルーシブなビーチへ

取得に向けて、昨年の夏は水質や安全面での調査を行い、毎週土・日曜日にはビーチクリーンを実施した。水質については、川に挟まれている西浜は、台風が多い夏の期間は水質が安定しづらく、基準が満たせるか心配な点もありながら、全20回の水質調査をクリアすることができた。

安全面での調査に協力をしたのは、片瀬西浜・鵠沼海岸を拠点に活動する西浜サーフライフセービングクラブ。同クラブは日本最古とあって、歴史もスキルもあり、課題はほとんどなかったそう。海岸の美化は基準のひとつでもあるが、最近はプラスチック問題への関心の高まりなどを受けて利用者のマナーも向上している。組合の森井さんによると、最近ではごみを拾う人も増えたという。筆者が取材に行った日もビーチクリーンの日ではなかったが、ごみ袋とトングを片手にごみ拾いをしながら散歩を楽しむ人の姿が見られた。時代は確実に変わりつつある、そんなことを感じさせる瞬間だった。

課題となったのは、障がい者が利用できるようにするためのトイレやスロープといったインフラ整備。これまでも、障がい者の利用はあったが、段差があるところはビーチのスタッフが抱えるなどして対応していた。今後は段差にスロープをつけたり、さらには、車椅子が波打ち際までいけるようなマットの設置、障がい者用のタイヤの大きな水陸両用車椅子を利用できるようにすることによって、インクルーシブな海水浴場を作っていく予定だ。

今後の継続と発展のカギとは?

ブルーフラッグ取得

ビーチでのごみ拾い(提供:湘南ビジョン研究所)

多様なセクターの協力のもと、課題をクリアし、2021年2月には国内審査を通過、4月16日についに認証を得ることができた。しかしブルーフラッグは取得して終わりではなく、むしろこれからがはじまり。いかに継続、発展させていくかが課題となる。そのためにはどうすればいいのだろうか。

(※海水浴場を利用される方へのお願い)
コロナ感染症予防のため、海岸を利用する場合は藤沢市海水浴場ルールを守ってご利用ください。

【参照サイト】江の島海水浴場協同組合
【参照サイト】NPO法人湘南ビジョン研究所
【参照サイト】NPO法人西浜サーフライフセービングクラブ
【参照サイト】NPO法人FEE Japan
Edited by Kimika

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