ボルドーやブルゴーニュといったワインの産地を守り、ワインの品質を保証するための法律である、AOC(原産地統制呼称制度)があるフランス。
多くのワインの名前に産地名が付いていることからも窺えるように、ヨーロッパの国々では、「土地がワインの個性をもたらす」という考えが古くから根付いている。特にフランスでは、この傾向が強いそうだ。
そんなフランスの、ボルドーでワインを生産するシャトー・カントナック・ブラウンは、2022年1月、「偉大なる大地を称えたい」という想いから、邸宅の前の大地に生分解性のフレスコ画を制作すると発表した。
ビジュアルアーティストのデビッド・ポパ氏が制作する、「The Power of the Earth(大地の力)」という名の作品だ。2022年の春に完成するという。
ポパ氏は、水溶性の天然顔料(ナチュラルピグメント)を使い、大地にサイト・スペシフィック・アート(特定の場所の特性を活かして制作するアートのこと)を描く活動を行っている。木炭、土、貝殻などから顔料を作るその方法は、4万年前の洞窟壁画の描き方に通じるものがあるかもしれない。
移ろい去った人類の歴史と、私たちの目の前に広がる茫漠とした未来が、作品を通して浮かび上がる。
同氏の作品は、写真、ショートフィルム、NFT(非代替性トークン)にして保存されるが、大地に描かれた作品そのものは、自然の働きにより、数日から数か月で消えてしまうことがある。作品は、月光に照らし出されたり、波に削られたり、嵐によって洗い流されたりと、厳しい自然に立ち向かいながらも押し戻されていく。
今回制作するThe Power of the Earthも、一度雨が降れば消えるという。だが、作品はNFTにして販売し、シャトー・カントナック・ブラウンはその売上金を、海岸保全に取り組む同国の公的機関Conservatoire du Littoralに寄付する予定だ。私たちは、私たちなりの力を発揮して、前に進むことができる。
ポパ氏は、土壌が重要な役割を果たすワインの生産と、大地を表現の場として使う自身の活動に共通点を見出しており、この二つが合わさることでどのような驚きが生まれるのか、目にしたいそうだ。絵画にもワインにも、非常に古い歴史がある点も似ている。
あなたが邸宅の住人だったら、眼前に広がるフレスコ画を、どのような思いで眺めるだろうか。
今日はまだ晴れているから大丈夫。絵は手の届くところにある。明日もまた見れるだろう。あの場所に足を運ぼう ──── そしてある雨の朝、それは消え失せてしまっているのだ。
【参照サイト】 Château Cantenac Brown – 1855 classified Grand Cru
【参照サイト】 David Popa