生態系を回復。仁井田本家が目指す「自給自足」の酒造り【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#16】

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ベトナムの大人気ピザ屋「Pizza 4P’s」のオリジナル記事シリーズ「Peace for Earth」。レストランのサステナブルなプロジェクトに焦点をあて、Pizza 4P’sがさらにサステナビリティを突き詰めていく「過程」を追っていく。

第16回目である今回の「Peace for Earth」のテーマは、「自然酒」だ。Pizza 4P’sは2021年、かねてより念願だった「自然酒」のベトナムへの商業輸入を果たした。今回、輸入したのは300年の歴史を持つ仁井田本家の自然酒。自然酒の輸入は、Pizza 4P’sにとって名誉なことであると同時に、その過程は決して簡単な道のりではなかった。ベトナム国内でサステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアする。

仁井田本家

Image via Pizza 4P’s

農薬不使用。自ら米を栽培しながら生態系を回復させる酒蔵

福島県郡山にある仁井田本家は、1711年の創業以来およそ300年もの間、伝統的な日本酒造りを続けている。

現在、仁井田本家では農薬や化学肥料を一切使わない有機米を原料に使用。酒造りに欠かせない酵母菌は、蔵に長年住み着く天然酵母がその役割を果たす。美味しい酒は美味しい水から作られるというが、ここでは村に湧き出る天然水と村の井戸水を使うことで、体にも環境にも優しい自然酒を造っているのだ。

仁井田本家で使う有機米は、全て自分たちで稲から育て、完全無農薬・無化学肥料で栽培している。農薬や化学肥料を使う農法は土壌や生態系に与える影響が大きいため、田んぼ自体が持つ力を引き出す農法を実践することが重要であると、仁井田本家は考えている。

「有機米から作る酒造りを、郡山や福島、日本全国に広めていきたい」と、仁井田本家の杜氏である仁井田穏彦氏は語る。

田んぼ

Image via Pizza 4P’s

自然栽培の田んぼには多くの生き物が集まり、生物多様性が保たれる。昆虫が増えてくれば、その昆虫を食べに鳥がやってくる。水田からの排水も化学物質に汚染されていないため、川がきれいになり、そこに魚が増える。綺麗な環境と豊かな生態系を求めて、より大きな動物がやってくることもある。生態系を豊かにする農業は、酒蔵だけに限らず地域全体にとって大きな財産となっていると言える。

100年後、今より良くなるために。仁井田本家が目指す「自給自足」の酒造り

「我々の仕事というのは、”つないでいく”ということがとても大事だと思っています。僕の代で、つないでいってはいけないマイナスなことを断ち切らなければいけない。父や祖父、先祖が紡いできてくれたものに、私が何をプラスできるのか、ということを常に考えています。100年後に良くなるために、今、何をすべきなのか。次の代に何を残したいか。そのために何をすべきか。そんな想いを巡らせて、これからも仁井田本家の伝統的な自然酒造りを絶やさぬよう、日々研鑽を積んでいきます」

仁井田本家

Image via Pizza 4P’s

そう語る穏彦氏が現在取り組むのは、「自給自足」の酒造りだ。この取り組みは、自分たちで米を栽培し、蔵に住みつく酵母菌と、その土地に湧き出る水を使って酒を造るだけに留まらない。

現在、仁井田本家が取り組むのは、酒造りに使う酒桶をすべて、自社有林から伐採した木材を使用して作ろうというものだ。この林に育つ立派な杉は、穏彦氏の先々代が植えたものだという。つまり穏彦氏の祖父が植えた杉が、100年の時を経て、蔵の酒桶に使われるのだ。「木桶は100年もつと言われていますが、100年経って自然に還れば、そこからまた木が育ってそれを木桶に、という風に永久に循環していけます」と穏彦氏は語る。

仁井田本家

Image via Pizza 4P’s

ベトナムでは初となる「自然酒」の商業輸入を達成

今回、Pizza 4P’sがこの自然酒を輸入した最大の理由は、仁井田本家の取り組みが私たちのビジョン「Make the World Smie for Peace」と共鳴するものだと感じたためだ。

日本からサンプルを取り寄せ、Pizza 4P’sの社員たちがこの自然酒を初めて飲んだとき、その味わいの優しさとバランスの良さに皆感嘆した。

それはまさに、仁井田本家のこだわりが日本酒を通して伝わってくるような体験だった。自然酒の持つ素晴らしい味わい、その裏にある力強いストーリー、その感動をPizza 4P’sで食事をするお客様にも味わってもらいたいと強く思ったのだ。

結果、Pizza 4P’sはベトナムでは初となる自然酒の商業輸入を行い、2021年に店舗での提供を開始。しかし包み隠さず話せば、これはPizza 4P’sにとって非常に名誉なことであると同時に、その過程は決して簡単な道のりではなかった。

日本酒が一般的ではないベトナムで、どう自然酒を広めていくか

ベトナムで日本酒は一般的ではない。ベトナムで日本酒が飲めるのは現地の日本食レストランくらいで、ベトナム人がレストランやバーで日本酒を楽しむことや、まして自分で購入するという光景はまず見ない。仁井田本家の自然酒が持つ素晴らしさをどうベトナムの人々へ伝えることができるかという点は、Pizza 4P’s社内でも多くの議論が交わされた。

結果、私たちはチーズとのペアリングを提供することにした。今回輸入した仁井田本家の自然酒は「しぜんしゅ 燗誂(かんあつらえ)」というほのかな甘みと身体に染み渡るような優しい風味を持つ。この日本酒と相性の良いチーズとして、Pizza 4P’sの自家製チーズを合わせることにしたのだ。

チーズ

Image via Pizza 4P’s

Pizza 4P’sは自家製チーズを提供するピザレストランとしてベトナムの人々の間でも広く認知されており、自家製チーズを食べたいがために来店する人も少なくない。そのPizza 4P’sのチーズとこの日本酒をペアリングとして合わせることで、日本酒が初めてのお客様にも手に取ってもらえるのではないかと考えたのだ。

2021年12月から自家製チーズと一緒に自然酒を提供し始めた結果、それ以前と比べてより多くの方に自然酒を注文していただけるようになった。これは、売上ベースで148%の増加だった。

自然酒の持つ素晴らしいストーリーをいかにお客様に伝えていけるか

さらに、ただ単に自然酒を味わってもらうだけでなく、仁井田本家の持つ素晴らしいストーリーをお客様へより多く共有することにも注力した。店舗では自然酒について書いたPOPを各テーブルに配置し、メニュー内にもこの日本酒の特設ページを設けた。

オンライン上では、仁井田本家の紹介、彼らの自然酒の受賞歴、日本酒とチーズのペアリング、楽しみ方といった内容をSNSへ投稿。これらの投稿は多くの注目を集め、結果的に約2,000〜6,000のリアクションを獲得することができた。

仁井田本家

Image via Pizza 4P’s

美味しい食事を楽しんでもらうことはもちろんだが、私たちが目指すのはその食がどのようにして作られたかについてお客様が感じることができる体験だ。だからこそ、仁井田本家の持続可能な取り組みを伝え、それを多くの人々へ伝えていくことが重要だと感じている。

作り手の想いを感じながら飲む一杯の盃はより味わい深く、きっとそれを飲む人へ何か新しい気づきを与えてくれるのではないだろうか。ひいては、そんな食体験がお客様の心に平穏をもたらし、ささやかな幸せを感じてもらえたら、私たちにとってそれほど嬉しいことはない。

「美味しい」が理由で、ベトナムで広まっていく自然酒

実際に自然酒を飲んだベトナム人のお客様からは下記のような声をいただいている。

「ベトナムでは日本酒があまり普及していないため、今回初めて日本酒を飲みました。フルーティで飲みやすかったです。日本酒は和食に合わせることが多いので、まさかチーズに合うとは思いませんでした。熱燗でいただくと、風味や旨みが際立つと感じます。ハノイの寒さには、熱燗がよく合いますね(ハノイの冬の気温は最低5℃~最高21℃ほど)」

「最初はあっさりとしたお酒だと思いました。しかし、飲めば飲むほど味わい深くなるんです。お米の味がするような、特別な味わいです。チーズと一緒に食べると、こんなにも美味しいんですね。ぜひ試してみてください」

仁井田本家日本酒

Image via Pizza 4P’s

日本酒がまだ一般的ではないベトナムで、今回こうして仁井田本家の自然酒を初輸入できたことを誇りに思う。日本国内でも自然酒を作っている酒蔵はまだそれほど多くないのが現状だが、Pizza 4P’sとしてすでに他の自然酒を造る酒蔵と連絡を取り合い、ベトナムへの更なる自然酒の輸入を目指している。日本で作られた素晴らしい自然酒を、これからもっとベトナムの人々へ広めていきたい。

【関連記事】 自分の幸せが、社会の幸せになる。ベトナムのピザ屋に学ぶサステナビリティの本質
【参照サイト】 Letters to the Future特設サイト
【参照サイト】 Pizza 4P’s

Edited by Erika Tomiyama

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