食糧危機や、食品ロス解決のヒントになる世界の事例7選【2022年の最注目アイデア】

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国連WFPの発表によると、2022年、緊急の支援が必要とされる深刻な飢餓に苦しむ人々の数は、世界82カ国で3億4500万人(※1)。新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年と比べて約2億人も増加している計算になるという。おもな原因はコロナ禍の移動制限や国境封鎖により物流が大きな打撃を受けたことや、ロシアによるウクライナ侵攻の影響にある。

食料が不足する一方で、無駄になる食品も未だ多く存在する。世界全体での食品ロスの量は、年間約13億トン(※2)。これは、人の消費向けに生産された食料の約3分の1の量にあたるという。

食糧不足、食品ロス、栄養不足、フードマイレージ……私たちを取り巻く食の問題は、様々だ。今回の記事では、そんな様々な食の問題に対する解決策をご紹介していく。

食にまつわる世界のソーシャルグッド事例7選

01.市民が自給自足を体験できる「食べられる森」

世界中で広がる「食べられる森」とは?

「食べられる森」というガーデニングのコンセプトをご存じだろうか。英語で「エディブルフォレスト」「フォレストガーデン」「フードフォレスト」と呼ばれることもあるこちらは、地域の土地を有効活用し、果樹や野菜などを育てる、持続可能な農業を目指す取り組みである。地域住民が野菜や果物など自分たちが食べるものを育て、生物多様性を育んだり、地域交流を促進したり、食育を推進したりすることが目的だ。

人口の大都市への集中、流通の発達、食料生産における効率性と収益性の追求など様々な理由により、食料の生産地と消費地が遠くなる昨今、食べられる森のような取り組みを通して、農業の現場を知ることが大切なのではないだろうか。

02.子供の食育を大事に。100%サステナブルな給食

パリ、学校給食を100%サステナブルへ

フランス・パリ市は2022年5月、学校の食堂で提供する食事を100%サステナブルあるいはオーガニックにする計画を発表した。2027年までに目標を達成することを目指しており、同時に、75%をオーガニック食材にすること、50%を市から250キロメートル以内で生産された食材にすること、100%を季節の食材を取り入れた食事にすることも目指している。

学校給食を通じて、適切な栄養を摂取したり、各地域の伝統的な食文化を学んだりするだけでなく、サステナブルな食習慣を身に付けることができるのは良いことだろう。

  • 国名:フランス
  • 団体(企業)名:なし
03.自然を再生する「ネイチャー・ポジティブ」な食品をスーパーに

エレン・マッカーサー財団、「ネイチャー・ポジティブ」な食品をスーパーに導入へ

英国のサーキュラーエコノミー推進機関・エレン・マッカーサー財団は、2022年から2年以内にスーパーマーケットで「ネイチャー・ポジティブ」な食品を買えるようにすることを目的としたプロジェクトを立ち上げた。財団は同プロジェクトで、著名な食品ブランドや小売業者と協力して、食品の設計・栽培・販売方法の再構築を行うことを目指すという。

ネイチャー・ポジティブとは、生物多様性の毀損に歯止めをかけ、自然をプラスに増やしていくことを意味する。つまりネイチャー・ポジティブな食品とは、生物多様性や自然の保全に配慮された食品のことだ。その商品を買うことで、生物多様性や自然がより豊かになる──そんな商品ばかりがスーパーの棚に並ぶような世界観を、エレン・マッカーサー財団は作ろうとしている。

04.日本発!廃棄食材をいかす「食べられるセメント」

東大発、廃棄食材から作った「食べられるセメント」

東京大学発のベンチャー企業fabula(ファーブラ)は、捨てられる野菜などから「食べられるセメント」を開発。建材に活用できるほどの強度があり、プラスチックやコンクリートに代わる新素材として注目を集めている。これまでに柑橘系の皮や白菜、コンビニ弁当、抽出後の茶葉などから新素材を精製することに成功。食べ物と聞くと強度が心配かもしれないが、白菜の廃棄物で作った素材は厚さ5mmで30kgの荷重に耐えることができる。これはコンクリートの約4倍近い曲げ強度だ。

また、fabulaの新素材は建材などでの活用だけでなく、将来的には「食べる」ことも目指している。例えば、避難所のベッドを新素材で作って、物資の調達ができないときに食材として活用できるようにするとのことだ。

05.フードバンクの進化系「ソーシャル・スーパーマーケット」

良い食品を低価格で。英国で広まる「ソーシャル・スーパー」とは

食品を大幅に値引きした価格で販売する、ソーシャル・スーパーマーケット。会員制を導入している場合が多く、たとえば年間15~20ポンド(約2,400~3,200円)の会費を支払うと、毎週木曜日に3ポンド(約500円)で買い物ができるといった仕組みになっている。

ソーシャル・スーパーマーケットの良い点は、利用者が一定の金額を支払うことで、選べる食品の幅が広がることだ。また、利用者の「施しを受けている」という認識が薄まり、彼らの尊厳を守ることにつながる。

2013年に、サウス・ヨークシャーでソーシャル・スーパーマーケットが試験的に始まって以来、取り組みは徐々に広まっている。2014年には、ランベスという場所にロンドン初のソーシャル・スーパーマーケットがオープン。2015年にはロンドン市が、ソーシャル・スーパーマーケットを資金面で支援すると発表した。

  • 国名:イギリス
06.フードロス解決のヒントは、お皿のサイズにあった?

小さなお皿に変えるだけ。Googleの社食で進む、食品ロス削減ナッジ

世界56か国のオフィスで、従業員に毎日何十万食もを提供するグーグル(Google)。規定外野菜の調達、サプライチェーンの透明化など、環境への影響をより小さくするためのプロジェクト「Food for Good」に取り組んでいる。そんなGoogleが、社員食堂で従来より約2.5cm小さい深さの皿を使い始めたところ、食べ残しを最大7割削減できたとFast Companyが報じた。小さな皿に変えたことで、無意識のうちに食べ物を30〜50%少なく取るようになったのだという。

意識する/しないにかかわらず、小さな行動変容が大きな変化につながる。そんなことを思い知らせてくれる事例だ。

  • 国名:アメリカ
  • 団体(企業)名:Google
07.レストランで廃棄予定のお米が、ビールに変身

飲食店の廃棄米をクラフトビールに。「箔米ビール-白金-」は、食品ロスを減らすミッションだった

カレーを販売する「ジパングカリーカフェ」を手がけ、大阪を中心にフランチャイズ店を含め4店舗を展開している株式会社ジパングフードリレーションズ。同社の安藤育敏社長(アンディ社長)は、普段から食品ロスを減らす仕組みを整えて営業を行っていたが、コロナ禍をきっかけに「炊いたお米」だけがどうしてもロスになってしまうことに頭を悩ませていた。

そんななか、シンガポール発の食品ロスをアップサイクルするフードテック企業、CRUST JAPAN(クラストジャパン)と出会い、意気投合。炊飯米をアップサイクルしたクラフトビール「箔米ビール-白金-」を作ることに成功した。

まとめ

近年、食に関する問題を解決しようと様々な企業が動きを見せている。例えば2022年9月、英国大手スーパーのウェイトローズは、トマト、リンゴ、ジャガイモ、梨など500品目の食品・植物製品のパッケージから賞味期限を削除することを発表した。これは「2030年までに消費者家庭での食品廃棄物を削減する」取り組みの一環だ。

今まで当たり前だと思われていた賞味期限の廃止。このように、常識や前提を疑ってみることは、問題解決の一助となるかもしれない。来年はどんな新しい常識と出会うことができるのか、今からとても楽しみだ。

※1 食料危機問題: 西アフリカの現状から考える、これからの支援と協力のあり方——津村康博・国連WFP ガンビア事務所⾧×天目石慎二郎・JICA 経済開発部次⾧
※2 世界の食料ロスと食品廃棄(FAO)

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