世界の「都市×生物多様性」クリエイティブ・アイデア5選

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地球上の生物は、過去100年で1,000倍ものスピードで絶滅しているという(※1)

このようななか、2022年末に開催された生物多様性を議題にする国連会議「生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)」は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を採択し、2030年までに自然の損失を止めてプラスに転じる、ネイチャーポジティブの達成を目指し、23項目の達成目標を掲げている。

たとえば、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする「30by30」という目標や、外来種の侵入や定着を少なくとも50%削減して生態系への影響を軽減することなどが決定。2010年にCOP10で採択されたものの未達成となっていた、2011年~2020年までの世界目標である「愛知目標」を引き継ぐかたちとなっている。

このように、生物多様性についての議論は、最近では少しずつ見かけるようにはなったものの、それを実現するための取り組みは、実際まだまだどこか遠くにいる生物のために「しなくてはならない」、「コストのかかる」、「大変なもの」とネガティブに捉えられがちなのが現状だ。

なぜ、都市の生物多様性を促進する必要があるのか?

そもそもなぜ、都市の生物多様性を促進する必要があるのだろうか。ますます都市化が進む世界で今、生物の生息地は徐々に都市部に移っている。それはつまり、これまで都市化は生物多様性と自然生態系に脅威をもたらしていたが、都市の生物多様性を考えることは、生物多様性損失の解決策の一部になり得ることを表しているともいえる。

ここではICLEI世界事務局が運営するサイトCity Talkより、「都市の生物多様性を促進するべき理由」を5つ抜粋してご紹介したい。

1. 空気の質を改善
今、多くの都市で問題となっている大気汚染。生物多様性は、大気中からCO2を隔離し、酸素を放出することで大気の質を改善する。

2. 土砂崩れを防ぎ、侵食のリスクを軽減
植生が失われた劣化地は、暴風雨にさらされやすくなり、これによって土壌の浸食や、土砂の移動、斜面の不安定化を引き起こし、地滑りの危険性を高める。そうした危険な場所の生物多様性を保全することで、より良い土壌の質と安定性を保つことができる。

3. 異常気象のリスクを最小化する
植物の根は、土壌への水の浸透を大きくし、土壌中の水分を長時間保持するのに役立つ。葉の蒸散は雨雲の形成を助け、空気中の湿度を高める。これにより、結果的に干ばつや火災、洪水などの異常気象を緩和することができる。

4. 持続可能な都市のフードシステムを支える
生物多様性保護を考えるとき、切っても切り離せないミツバチの存在。ミツバチは、大事な受粉の役割を担っており、このプロセスにより、野生動物と人間が食べることができる果物や種子、その他の食品の生産が保証される。受粉は、都市に住む多くの人々を養うために必要不可欠なアグロフォレストリーや、アーバンガーデンの持続可能性を保証するものである。

5. 生活の質向上と健康増進
屋外での活動や他の人々とのつながりは、私たち人間の発達と幸福に不可欠だ。生物多様性を保全することで、特に葉の茂った樹木が都市の気温や湿度を穏やかにし、安全で健康的な空間を作り出すことができる。

このように、都市緑化の重要性はさまざまなところで注目されている。たとえば、2003年以降、毎年熱波による死者が問題となっているロンドンでは「2030年までに中央活動区域の緑化面積を少なくとも5%、2050年までにさらに5%増加させることを目指す」と発表。2024年にオリンピックを控えるパリでも、パリ市のアンヌ・イダルゴ市長が「2030年までに、街の50%を緑で覆う」ビジョンに沿って都市緑化を進めている。

そんな世界中の都市が注目している生物多様性。今回は、都市緑化を実現するためのクリエイティブなアイデアをご紹介する。

世界のクリエイティブな生物多様性実現のためのアイデア

01. 生物多様性は身近なところから。イギリス発、鳥の巣箱作戦

“新しい建物には、鳥の巣箱を置きなさい。” イギリスの生物多様性を守るルール

2020年4月からイギリス南部の町、ブライトン・アンド・ホヴでは、新しく建築される高さ5メートル以上の建造物には、減少しているアマツバメのために巣箱を設置することが義務付けられるようになった。

  • 国名:イギリス
  • 団体(企業)名:Brighton and Hove
02.かわいく、おいしく、ためになる。三重発、生物多様性クッキー

食べて生物多様性を祝う。三重の「いきものクッキー」専門店

三重県・桑名市のクッキー専門店 kurimaro collectionは、生物多様性を表すクッキー、200〜300種類を販売している。深海魚や昆虫、微生物、なかにはナットウ菌やカビ菌クッキーも。クッキーによって生き物の魅力や個性を発信する活動を展開し、学びの場を提案している。

03.イギリス発、生物多様性に没入できる駅

ロンドン地下鉄「グリーンパーク駅」が「グリーンプラネット駅」に。生物多様性を表現する、没入型の広告体験

イギリス公共放送BBCのクリエイティブエージェンシー「BBC Creative」は、自然ドキュメンタリー番組の宣伝の一環として、なんとロンドン地下鉄「グリーンパーク」駅を「グリーンプラネット」駅に改名。駅のプラットフォームには、大型デジタルスクリーンを設置し、生物多様性の価値を体感できるような臨場感を味わえる。

  • 国名:イギリス
  • 団体(企業)名:BBC Creative
04.イケアのイノベーションラボ、誰でも作れるハチの巣のデザインを無料公開

生物多様性を守る。イケアのイノベーションラボ、誰でも作れるハチの巣のデザインを無料公開

イケアのイノベーションラボである「SPACE10」が、「Bee Home」という誰もが無料で利用できるハチの巣のデザインを公開した。「Bee Home」は、デザインファイルをダウンロードして巣を組み立て、屋外に設置すれば完成。巣のデザインファイルは無料で提供されるため、製作工具さえ持っていれば、かかる費用は木材費のみとなる。巣に集まる単生バチは人に対してフレンドリーな上、生態数が増えることでエコシステム全体の繁栄につながる。

  • 国名:オランダ
  • 団体(企業)名:Bee Home
05.アムステルダムVSロッテルダム。緑化に貢献する「庭のタイルはがし」選手権

アムステルダムVSロッテルダム、緑化のため庭のタイルはがし選手権を開催

オランダ、アムステルダム民営水道局、Waternetとロッテルダムの緑化団体、Rotterdam Weer Woordと両市の共催で「オランダタイルはがし選手権」が開催された。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対する自粛期間に、庭のタイルをはがして自宅の緑化、ひいては街の緑化につなげるべく市民に呼びかけたイベントだ。

  • 国名:オランダ
  • 団体(企業)名:アムステルダム市、ロッテルダム市、Waternet、Rotterdam Weer Woord

まとめ

いかがだろうか。こうした世界の取り組みは、生物多様性を自分のものとして体感できる。どれもが生物多様性を「自分ごと」としてとらえた結果、生まれたユニークアイデアだといえるだろう。

生物多様性にかかわる種の繁栄や絶滅の問題は複雑化していて、身近に捉えるのが難しい人も多い。そのため、どこに解決の糸口を求めてよいかわからないのが実情だ。そんななかでも、クスっと笑えるユニークな知恵と心のゆとりを持って等身大の自分ごとに取り組んでいきたいものだ。

(※1)環境省(2015)「まもろう日本の生きものたち」
【参照サイト】外務省公式ホームページ 生物多様性条約第15回締約国会議第二部等の結果概要

Edited by Erika Tomiyama

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