「私たちは自然を守っている」「いや、守られていない」街の再開発をめぐって、よく目にする議論だ。それぞれの人がそれぞれの立場で、人間と自然の調和を模索しているなか、「木や土などの自然が声を上げることができず、当事者不在の議論になっている」と考える人たちがいる。
そこで生まれたのが、ドイツ・ベルリン発の研究者たちによるアートプロジェクト「terra0」だ。これはブロックチェーン技術と森資源の管理を組み合わせたもので、分散型の管理ネットワークを構築することで「ヒトではなく森自身が森を所有し、管理できる」可能性を示す企画だと謳われている。
terra0では、ブロックチェーンに保存されたプログラムであるスマートコントラクトを活用し、森林内の木材やその他の資源に関するルールの実行を自動化している。たとえば、木を伐採するライセンスを事前に企業や個人に売っておき「●本の木の高さが〇メートルに到達」という条件を満たしたら、「その木のうち〇%を伐採」という処理を自動的に実行するようになっている。
ライセンスを企業に売ることで、terra0は資本を蓄積。ゆくゆくは土地を買い、自発的に森を拡大していくという、高い自律性を持つ存在だ。AIなどと同じように、第三者である人間が初期段階のルールメイキングをするものの、あとは自然のなかで最も適切な管理が自動的に行われるようになるのだ。
また、terra0では自然が自律的に動いてくれた方が人間にとっても楽ではないだろうかと提案している。そう思うと、「〇平方メートルの緑地が必要」「木を〇本植える」といったことをすべて決めるのは烏滸がましく、私たちの手に余ることなのかもしれない。
terra0の仕組みが本当に自然の繁栄を可能にするのか、疑問を持つ人もいるだろう。terra0の考案者もCLOT Magazineの記事で、「当初から、terra0のコンセプトが世界をより良くするのか悪くするのか、考え続けています」
と話している。問題をはらむかもしれないコンセプトについて、その迷いを率直に表明している。
現実世界にデジタル情報を重ね合わせる技術である拡張現実になぞらえて、「拡張森」とも呼ばれるこのプロジェクト。「ここは私たちの土地だ」と言わんばかりに旗を掲げるterra0の写真が、勇ましくて素敵だ。実際に見かけることがあったら、畏敬の念を持って向き合いたい。
【参照サイト】terra0
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