脳の多様性から生まれる、唯一無二のデザイン。バルセロナ発のクリエイティブ組織「La Casa de Carlota」

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バルセロナの街中を歩いていると、メトロ駅構内やバス停をはじめ、市が制作しているポスターをいろんな場所で見かける。ポスターの内容はさまざまで、薬局で無料配布されることになったサステナブルな生理用品についての告知や、干ばつの影響を受け節水を呼び掛けるもの、クリスマスをはじめとした季節のイベントなど幅広い。

2016年、バルセロナ市のクリスマスのポスター

2016年、バルセロナ市のクリスマスのポスター

バルセロナ市のHPを覗くと、過去のポスターをさかのぼってみることができる。多様なタッチがあるが、ひときわ筆者の目を引いたのは2015年と2016年のクリスマスのポスターだ。クリスマスを象徴する星やツリーをあしらっているだけではなく、そのタイポグラフィーやコラージュはインパクト抜群で、オリジナリティが溢れている。

このポスターをデザインしたのは、バルセロナに拠点を置くLa Casa de Carlotaというクリエイティブ・エージェンシーだ。デザインやクリエイティブを制作している会社はバルセロナにもたくさんあるが、La Casa de Carlotaがユニークな点は、自閉症やダウン症などの知的障害のある、ニューロダイバースな人材をクリエイティブ職に採用していることだ。

La Casa de Carlotaのメンバー

Image via La Casa de Carlota

同社では21名が働いており、そのうち10名はニューロダイバースな人たちだ。彼らは、La Casa de Carlotaのインクルーシブ・グループ(Grupo Inclusivo)に所属し、クリエイティブ職として、同社の制作活動に携わっている。

今回、バルセロナの建築家が20世紀初頭に手がけたCasa de les Punxesというモダニズム建築の中にあるオフィスを訪れ、取締役ディレクターのマリアン・マルコ氏と、インクルーシブ・グループ責任者のインゲ・ノウス氏に話を聞いた。

最高のクリエイティビティを発揮するために

2013年に設立されたLa Casa de Carlotaは、クリエイティブなデザインに加え、ユニークな取り組みが評価され、スペイン国内にはとどまらず、世界各国のアワードを受賞している。知的障害のある人の才能を最大限に活かしながら、最高峰のクリエイティビティを発揮する同社のモデルは、ダイバーシティ&インクルージョンの見本として注目を集めているのだ。

実際、2018年にはニューヨークの国連本部にて事業の説明をしたり、2023年には世界ダウン症アワード(World Down Syndrome Award 2023)から表彰されていたり、世界中の見本となっている。同社で、このインクルーシブなモデルが誕生したきっかけについて尋ねると、マリアン氏はこう語った。

マリアン氏「私たちのビジネスモデルは、最高のクリエイティビティを提供することに基づいています。La Casa de Carlotaでは、異なる才能やバックグラウンドを持つ人たちが交流すると、どこまでクリエイティビティを高めることができるのかを実験したかったのです。

例えば、経験豊かなクリエイティブ職の人材が、ダウン症のある人と仕事をしたらどうなるのか、自閉症のある人の常識にとらわれない見方が、オーソドックスなデザイン思考にどんな影響を与え、刺激やひねりを与えることができるのか?それを試したいと思いました」

La Casa de Carlotaには、多くのクリエイティブ・エージェンシーど同じように、クリエイティブ・ディレクター、コピーライター、グラフィック・デザイナーなどを専門としたプロフェッショナルが揃っている。ここに多様な脳を持つ人材がチームに加わることで、異なる視点を持つプロフェッショナルたちが一緒に仕事をすることができるのだ。

クリエイティブな才能を共有しながらも、斬新かつユニークなアプローチでクライアントのニーズを解釈することが同社の強みである。実際、彼らのデザインは、奇抜でインパクト抜群だ。例えば、食品のパッケージデザインでも、独特のトーンとアクセントがあり、非常に印象に残る。

ワインボトル

La Casa de Carlotaが手がけたワインボトル

オーガニック系スーパーVeritasの商品パッケージ

オーガニック系スーパーVeritasの商品パッケージ

それぞれの才能を引き出すクリエイティブワークショップ

インクルーシブ・グループのメンバーは週3日オフィスに出社し、毎回2時間勤務している。毎週6時間の勤務時間のうち4時間は、インゲ氏が率いるクリエイティブワークショップに参加している。ここで生まれるたくさんのアイデアが、のちに実際のクライアントへの提案につながる。ワークショップ以外の残りの2時間は、アートや絵画の制作に費やされるそうだ。

マリアン氏「La Casa de Carlotaユニークにするのは、全プロジェクトのコンセプト立案と創作をサポートするニューロダイバースなチームの存在に他なりません。彼らは、アーティスティック・ディレクターのインゲが率いるワークショップで、比類のないメソッドを通してアイデアを生み出しているのです。デザイン、ロゴ、表紙、キャンペーン、コマーシャルなど、私たちが手がけるすべてのクリエイティブには、常に独特のトーンとアクセントがあります」

クリエイティブワークショップクリエイティブワークショップは、毎回インゲ氏がテーマを決めたテーマに沿って開催されている。取材を行った3月中旬の回では、バルセロナがあるスペイン・カタルーニャ州で親しまれているサン・ジョルディの日をテーマに開催された。サン・ジョルディの伝説にまつわるバラ、ドラゴン、プリンセス、騎士の4つの要素をテーマに、絵具、クレヨン、色鉛筆、糸をはじめとしたさまざまな素材や道具を使い、絵柄やテクスチャーを作り上げていった。

クリエイティブワークショップ

例えば、ここで描かれたバラのデザインが食品パッケージデザインにあしらわれる可能性もあり、ドラゴンのうろこの模様はポスターに使われるかもしれない。このワークショップを通じて創られたデザインは、無限の可能性を持っているのだ。今回は、インクルーシブ・グループのメンバーに加え、グループ会社の従業員や、インターンの学生を交えて開催されていたが、クライアントも交えて一緒にアイデアを創造していくこともあるそうだ。

インクルーシブ・グループのメンバーが個別ではなく、チームで作品やアイデアを作り上げていく点が、La Casa de Carlotaの特徴ともいえる。同じクリエイティブワークショップに参加し、コミュニケーションをとりながら、お互いに協力してアイデアを作り上げていく。この人々の交流こそが、新しい気づきを生んだり、相互作用でよりデザインが発展したり、アイデアの種となるのだ。

多様な脳が生み出す視点は斬新で、想像もできないアイデアが生まれる。この「生み出す」プロセスを、じっくりと時間をかけながら丁寧に行うことで、それぞれの可能性を引き出すことができるのだろう。またなごやかな雰囲気の中で、リラックスしながら作品づくりをすることは、同社で働くメンバーたちの息抜きの時間にもなっている。

インゲ氏「私たちはワークショップや、そこで培われるさまざまな絵画的・創造的技術を通じて、クリエイティブたちの才能を引き出しています。過去には、バルセロナのEncants(エンカンツ)という蚤の市に行ってインクルーシブ・グループと素材を集めにいったり、バルセロナの観光名所のひとつでもあるカサ・ミラでスケッチをしたり、オフィスの外で活動することもよくしています」

オフィス内には、過去のクリエイティブワークショップで生み出した、さまざまな素材が溢れていた。

クリエイティブワークショップでつくられた作品たち

クリエイティブワークショップでつくられた作品たち

インゲ氏「スペインを代表する画家のひとりであるベラスケスの名画「宮廷の侍女たち」をLa Casa de Carlota版で描いてみたり、ワークショップで作った絵やタイポグラフィーなど、素材は溢れているんです(笑)ワークショップのインスピレーションは、街や毎日の生活の中にたくさんあります」

ニューロダイバースな人材を見つけ、雇用することが大事

この10年で数々のアワードを受賞し、世界的に注目されているLa Casa de Carlota。近年は、イベントなどでもダイバーシティやインクルージョンについて語ることが多くなり、インパクト・モデルを他社に説明するよう求められることが増えているそうだ。

La Casa de Carlotaでクリエイティブ職を採用する際の選考プロセスは、ほかのプロフェッショナルと同様だという。エージェンシーの顔ともいえる、クリエイティブ職に最適な人材を見つけることは簡単ではないが、自閉症やダウン症などの知的障害のある人の就職支援をしている団体などと協力し、採用を行っている。

最後に、障害のある人材の雇用を検討している会社が考慮すべきことを尋ねると、マリアン氏は力強く語った。

マリアン氏「重要なのは、ニューロダイバースな人材が持っている才能や、彼ら生み出すアイデアや作品の中身ではありません。まずは、多様な脳を持つ人材の雇用を検討することが、もっとも大切だと私たちは信じています。私たちは皆違っていて、それぞれに能力があるのです」

編集後記

筆者も実際にクリエイティブワークショップに参加し、インゲ氏のファシリテーションの元、インクルーシブ・グループの人たちや、アシスタントを務める学生と交じって作品を制作した。まずは自己紹介から始まったこのワークショップだったが、みんな個性が溢れており愉快な雰囲気であった。

実際に作品を作る過程でも、障害の有無に関係なく参加者全員が楽しみながら、新しい技法を使ったり、自分の得意な方法で絵を描いたり、小さな実験を繰り返しながらクリエイティビティを高めていた。「こんな発想もあるのか」と驚くこともたくさんあり、とても刺激的な時間だった。

クリエイティブな仕事だけではなく、さまざまな業界で働く人にとって、このような多様な脳を持つ人を採用することは、新しい視点をもたらし、多くのイノベーションを生む可能性があるだろう。

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【参照サイト】La Casa de Carlota

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