社会課題や環境問題において、しばしば批判の対象となるファッション業界。過剰生産や水質汚染、製造工場の労働環境、輸送に伴う環境負荷、古着の不当な廃棄管理……あらゆる生産段階において、乗り越えなくてはならない課題が山積している。
その課題の多くは、産業がグローバル化し、服の素材に応じた分業が進んだ結果、国を超えてサプライチェーンが複雑化してしまったことに起因する(※)。原料調達のルートを辿ることが難しくなり、消費者からは製造者の顔や労働状況が見えず、製造過程が不透明になっているのだ。
こうしたファッション業界のサプライチェーンのあり方を大きく転換しようとしているのが、デンマーク・コペンハーゲンに拠点を置くスタートアップ・Rodinia Generation(ロディニア・ジェネレーション)だ。2017年にデザイナーのTrine Young氏が立ち上げ、マイクロファクトリーという製造システムを実現させる機械とソフトウェアを開発している。
マイクロファクトリーとは、他国に巨大な縫製工場を置くのではなく、各地に小さな製造機械を置くことで、需要に応じたローカルな製造を可能にする方法のこと。同社では、AIアルゴリズムを活用したクラウドベースのソフトウェアを機械に搭載。それぞれの服のパーツがどの素材から成るかをAIが識別し、異なる顧客からの注文を同時に処理することを可能にする。つまり、異なるデザイナーの服でも素材が同じであれば同時に製造できるため、生地の無駄をなくせるのだ。
さらに同社の製造には、短期間かつ小ロットという特徴がある。通常、服のデザインから製造開始に至るまで、およそ6ヶ月はかかるところ、同社の機械とソフトウェアを使用すれば2週間以内、最短48時間で完成するという。さらに、従来のシステムでは最少でも何百着かは製造しなくてはならないが、同社であれば一着から製造できるのだ。また、水を一切使用しない染色方法により、環境負荷を大幅に抑えた服作りが実現するという。これらの工夫により、従来と比較してカーボンフットプリントを最大98%削減できるそうだ。
同社は、現状に代わる選択肢として、エシカルな生産・製造を目指すファッションブランドやデザイナーを後押しすることを目指している。大手ブランドによる大量生産型では、安価な商品が世界各地へ大量に届くため、小規模生産で割高になりやすい個人デザイナーなどは太刀打ちできないのだ。すでにいくつかの中小ブランドとコラボして、パイロット企画を実施している。
2024年6月現在、シャツやスカート、スポーツウェア、トートバッグなどがデザインの対象。素材に関してニットやレザーなど一部は対象外となっているが、Trine氏は「素材の選択肢を限定することで透明性と管理のレベルを向上することができます」
と、VOGUE Businessに語っている。
身近に服を作る場所があること、服を作るデザイナーがいることは、無駄をなくして環境負荷を軽減するだけでなく、製造プロセスの透明性をも向上させる。世界のブランドが大量生産からこうしたマイクロファクトリーの手法に移行することで、ファッション業界の負の連鎖に歯止めをかけられるかもしれない。
とはいえ、マイクロファクトリーが増えすぎてしまい、各地で向こうみずな生産が続けば、結果として環境負荷が高くなってしまうだろう。留意したいのは、そのテクノロジーを「いかに使うか」である。マイクロファクトリーを、ファストファッションの代替ではなく、私たちがファッションとの新しい関係を築く手段として位置付けることが大切だ。
【参照サイト】Rodinia Generation
【参照サイト】Are microfactories the answer to making fashion on demand? | Vogue Business
【参照サイト】Climentum Capital and EIFO invest in Danish fashion tech Rodinia Generation fighting overproduction and waste
【参照サイト】Software will bring eco-friendly fashion production back to Europe | Rodinia Project | Results in brief | H2020 | CORDIS
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