サーキュラーデザインとは・意味
サーキュラーデザインとは?
サーキュラーデザインとは、昨今国内外で広がりつつあるサーキュラーエコノミー(循環経済/循環型経済)の概念の要と言えるデザインである。製品やサービス、建築、都市開発などさまざまなあり方のライフサイクル全体の設計を「大量生産・大量消費・大量廃棄」の直線(リニア)型のシステムから、より循環型のシステムにしていくための設計だ。
多くの企業や自治体で使われる「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」では、廃棄物の発生抑制や、再利用、そしてリサイクルする視点に立っているのに対し、サーキュラーエコノミーにおいてはそもそも「ごみ」という概念をなくすことが目指されている。
本記事では、デザインがサーキュラーエコノミーの基礎となる理由から、サーキュラーデザインを行う実際のプロセス、そして6つの戦略を事例と共に紹介する。
なぜ、デザインが循環経済の基礎になるのか?
欧州委員会が発表したレポートでは、製品の環境負荷の最大80%は「設計」の段階で決定づけられるというデータが引用されており(※1)、材料、製造過程、使用方法、廃棄方法など、環境負荷の大部分は、実際に作り始める前のデザインの段階で決まるとされている。
また、サーキュラーエコノミーへの移行をビジョンとして英国を本拠地に活動するエレン・マッカーサー財団は、デザインについて、Webページにこう書いている。
廃棄物と汚染は偶然に存在するのではなく、設計上の決定の結果です。同様に、資源を採取するために野生動物を破壊することは、私たちの製品や材料の作り方と使用方法が原因でのみ発生します。循環経済の原則を組み込むことでデザインプロセス全体を通じて、人々、ビジネス、自然のために経済を機能させることができます。
(Circular design: turning ambition into actionより一部引用)
重要なことは、何かが設計されるとき、その製造方法、使用方法、不要になったときや望まれなくなったときに何が起こるかに影響を与える重要な決定が下されることです。後で望ましくない結果をもたらしたことが判明した場合、その決定を遡ってその影響を元に戻すことは非常に困難です。
また同団体は、デザインは以下のサーキュラーエコノミー3原則をすべて支える要素だとしている。
- Eliminate waste and pollution(廃棄や汚染を取り除く):負の外部性を明らかにし、排除する設計にすることによってシステムの効率性を高める
- Circulate products and materials (at their highest value)(製品と原材料を、高い価値を保ったまま循環させつづける):技術面、生物面の両方において製品や部品、素材を常に最大限に利用可能な範囲で循環させることで資源からの生産を最適化する
- Regenerate nature(自然を再生する):有限な資源ストックを制御し、再生可能な資源フローの中で収支を合わせることにより、自然資本を保存・増加させる
エコデザインやサステナブルデザインとは何が違う?
エコデザインは、製品やサービスのライフサイクル全般にわたって、資源やエネルギーの消費を抑え、環境への影響が最小限になるような設計・デザインを指す。これは、あくまで廃棄物を減らして、資源を有効活用する考えが基になっている点が廃棄物という概念をなくすことを目指すサーキュラーデザインとは異なる。
またサステナブルデザインは、エコデザインと同じく、環境や社会に対する負荷を抑え、地球環境に配慮したデザイン全般を指す。しかしサステナブルデザインは循環型を目指しているというよりは、より広範囲な「持続可能な未来」を実現するための経済・社会のあり方を目指すデザインの概念である。
サーキュラーデザインを作る4つのプロセス
エレン・マッカーサー財団は、サーキュラーデザインのプロセスは4つの段階で構成されるとしている。
- Understand(理解する):ユーザーとシステムについて理解する
- Define(定義する):デザインの課題とデザイナーとしての意図を言語化する
- Make(作る):できる限り多くのバージョンを考案・設計・プロトタイプする
- Release(世に出す):デザインを世に送り出し、ストーリーを構築する。魅力的なストーリーを語ることで顧客の心を掴み、利害関係者からの投資を深める
基本は、この4つのステップを一度だけ行うのではなく何度も繰り返すことになる。サーキュラーデザインに限らず、どのようなデザインにも言えることだが、実際のユーザーの行動や、その影響がシステム全体にどのように影響するのかを適宜理解しながら、常にテストと改良が求められる。
サーキュラーデザインの6つの戦略
廃棄物や汚染を生み出さない、あるいは製品を何年も使い続けるビジネスモデルを設計するデザインに、たった一つの「正しいやり方」があるわけではない。とはいえ、実際に比較的成功していると評価されるプロジェクトには共通の戦略がある。ここでは、エレン・マッカーサー財団のWebページより6つの戦略を紹介する。
1. システムのできるだけ内側でループさせる
以下は、サーキュラーエコノミーのシステムを示した図(バタフライダイアグラム)である。1つ目の戦略は、できるだけこの図の内側でループが起きるようにアプローチすることだ。
この図でいうと、製品やサービスの維持・長寿命化とシェアリング、再利用・再分配、再製造・改修などのアプローチが複数のマテリアルループの中心近くに位置し、多くの人が一般的に「環境に良い」と認識するリサイクルは、最も中心から遠い位置にある。
2. 「製品の所有」から「サービスの利用」へ
2つ目の戦略は、製品をそれぞれの消費者が本当に「所有」する必要があるのかを問い直し、所有権は生産者やメーカーが持ったまま「サービスの利用」というシステムへの転換をはかることだ。
具体的には、レンタルや、定額制度(サブスクリプション)、シェアリング、リースなどのサービスがこれにあたり、近年は音楽配信サービスやファッションのレンタルサービスなどが出てきている。
3. 製品寿命の延長
3つ目の戦略は、製品の長寿命化。製品を耐久性のあるものにし、修理しやすいようにデザインすることだ。長く使えるようにすること、そして利用者のニーズの変化が起こることを想定し、修理やアップグレードを容易にしておくことが求められる。その意味で、日本の「金継ぎ」は、陶器を修復することでより美しい見た目になる「製品の長寿命化」の好事例だ。
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4. 安全で循環する素材の利用
4つ目の戦略は、利用が終わったあとに再生できる素材を使うことや、できるだけシンプルな素材を使うこと。一つの製品を作ろうと思ったときに、人体や環境に有害な物質は何か、どのような素材を使えばユーザーにとっても作り手にとっても良いのかを再考するのは大切なことだ。
素材の選び方として、IDEOとエレン・マッカーサー財団が共同で出している「サーキュラーデザインガイド」は参考になる。
5. 脱・物質化
5つ目の戦略は、可能な限り最小限の材料を使用して実用性を保つソリューションを見つけること。具体的には、物理的な「モノ」を作ることばかりを考えるのではなく、製品の利用価値をデジタルに移行して仮想化できないか?と考えることだ。これまでも、FAXからメールへの移行など、さまざまな「デジタル化→脱・物質化」が現代社会では行われてきた。
ただし、2025年の世界のICTを稼働させる電力は、世界の電気の約20%を使用するとの予測もあり、一方での環境負荷の低減は他方での環境負荷の増大を招いてしまう可能性もある。このようなリスクも考慮し、全体を俯瞰することが求められる。
6. モジュール化
最後の戦略は、製品の修理や再製造をしやすくするモジュール化だ。製品の一部だけを簡単に取り外せるようにすることで、分解が容易になり、コンポーネントが損傷した場合に一部を交換するコストと労力が削減されることや、カスタマイズが可能なことでユーザーのニーズに応えやすくなり、商品の陳腐化を防ぐといった利点がある。
オランダ発のエシカルスマートフォン「Fairphone」がその好例だ。接着剤を使用しておらず、部品交換が容易な設計になっており、過去にはスマートフォンの新製品が出るたびに修理のしやすさを判定している米修理業者iFixitが「10点満点」を与えたこともある。
【関連記事】サーキュラーエコノミーを実現する、環境に優しいエシカルスマホ「Fairphone3」
サーキュラーデザインの事例
「Fairphone」以外にも、世界にはさまざまなサーキュラーデザインの事例がある。ここでは、世界のGOOD事例を日々ウォッチするIDEAS FOR GOODが注目する事例をいくつか挙げてみよう。
- 解体・再利用・リサイクルができるように設計された、ごみシューズ「Shoey Shoes」
- 廃棄プラスチックからできたスピーカー「Gomi Speaker」
- 堆肥化すると果実を育てられるオムツ「DYCLE」
- 修理や交換、更新が可能なスピーカー「TRANSPARENT SPEAKER」
- ジーンズのサブスクリプション「MUD Jeans」
- 日本発、家具のサブスクリプション「yes」
- ヘッドフォンのサブスクリプション「GERRARD STREET」
- 容器の再利用事業「Loop」
他にも、NetflixやSpotifyなどの配信サービスや、電子書籍、あらゆるファッションのシェアリングサービス、容器を自分で持っていくバルクショップ(量り売りショップ)などは、サーキュラーデザインの特徴に当てはまると言える。
自然の一部である私たちに求められるリデザイン
ごみを資源と捉え、ゆりかご(=地球)にもどし、完全に循環するかたちにしようとする「Cradle to Cradle(ゆりかごからゆりかごへ)」の考え方を実践していくためにもサーキュラーなデザインが今、求められている。
これまでの地球環境に危機をもたらす直線的なビジネスモデルや社会構造は、自然、人間、社会のあらゆる物事がこの世界でどのように存在し、働き、機能しているのか、その深部を捉え、本質を理解しようする発想が欠如していたことにより作られてきたともいえる。
あくまで自然の一部として存在する私たちは、その循環の輪が途切れず閉じていくように、これまで作り上げてきた既存の社会構造の細部に疑問を抱き、自然をより深く理解することで、経済や社会のシステムそのものを根本から再設計していくことが必要かもしれない。
※1 Ecodesign your future
【参照サイト】The butterfly diagram|Ellen Macarthur Foundation
【参照サイト】The Circular Design Guide
【参照サイト】Circular Design
【参照サイト】What is Circular Design ?
【参照サイト】How ecodesign can help the environment by making products smarter
【参照サイト】HOW THE CIRCULAR ECONOMY USES BIOMIMICRY TO IMITATE NATURAL SYSTEMS
【参照サイト】Towards a circular economy in Amsterdam
【関連記事】サーキュラーエコノミー移行の要、サーキュラーデザインとは?
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