英国発ポリティカル・スリラー『KYOTO』、日本初上演。1.5℃目標“始まり”の舞台裏を描く

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地球温暖化対策の歴史を語る上で欠かせない、1997年のCOP3(地球温暖化防止京都会議)。この会議で採択された「京都議定書」は、初めて先進国が温室効果ガス削減の数値目標を法的に約束した、気候変動対策における歴史的転換点である。

のちのパリ協定へとつながる国際枠組みの原点とも言えるこの議定書の成立には、数え切れないほどの政治的駆け引き、科学的知見、そして人間的な葛藤があった。

その舞台裏に光を当てたのが、英国発のポリティカル・スリラー演劇『KYOTO』である。2025年6月23日より、東京・下北沢の小劇場「ザ・スズナリ」にて日本初上演が決定した。ポリティカル・スリラーとは、政治をめぐる駆け引きや陰謀を描いた、スリリングな展開の舞台作品のこと。映画やドラマでは馴染みがあるかもしれないが、演劇としてはやや珍しいジャンルだ。

Image via ザ・スズナリ

本作は、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)とGood Chance Theatreの共同製作によるもので、ロンドンでは絶賛され、ローレンス・オリヴィエ賞にも2部門でノミネートされた。脚本はジョー・マーフィーとジョー・ロバートソン、演出は『ストレンジャー・シングス』舞台版や『ザ・ジャングル』で知られるスティーブン・ダルドリーとジャスティン・マーティンが手がけている。

物語の中心にいるのは、石油業界出身のロビイスト、ドン・パールマン。はじめは気候変動を「オタクたちの騒ぎ」と見下していた彼が、やがてアメリカ国家の根幹を脅かす問題として気候変動に向き合い始める姿を通して、交渉の場における立場の揺らぎや、真実をめぐる攻防が描かれる。

交渉の裏側では、キリバスの「沈まない」という決意表明、ベルリンでの科学的合意、ロビイストによる情報操作、通訳者のストライキ、議長の電撃辞任、そして交渉打ち切り寸前の混乱と、「歴史はこうして動いた」と言わんばかりの緊張感がステージ上に再現される。

気候変動が現代社会にとって最も重要な課題のひとつであることは、すでに広く認識されている。しかし、その問題をどうやって「国際的合意」にまで昇華させたのかという過程を、深く知る機会は意外に少ない。

演劇『KYOTO』は、私たちが日々耳にする「1.5度目標」や「排出削減」といった言葉の背後にある、人間の決断、戦略、希望、そして妥協の物語を浮かび上がらせる。しかもその舞台は、京都議定書が採択された“まさにその国”である日本。過去を再現するだけでなく、観客自身に「次の交渉者」としての視点を投げかけてくる。

英国Guardian紙が「緊張感があり、心を掴む」と評したように(※)、本作は単なる再現劇ではない。観客を交渉の渦中に引き込み、気候危機というテーマを自分ごととして体感させる、力強い作品である。

今回この作品を演じるのは、社会派演劇を多く手がけてきた劇団・燐光群。写真は、燐光群が座・高円寺1で過去に上演した『わが友、第五福竜丸』の舞台風景。(作・演出 坂手洋二) Photo by 姫田蘭

気候変動が、専門家や政治家だけのものではなく、市民一人ひとりが向き合うべきテーマであるならば──それを「演劇」という形で体感することの意義は、決して小さくない。『KYOTO』日本上演は、過去を振り返るためだけでなく、現在と未来を再構築するための時間となるだろう。

演劇『KYOTO』上演情報

上映期間:6月27日(金)〜7月13日(日)
場所:下北沢「ザ・スズナリ
上映スケジュール:

*上演情報やチケット販売に関する詳細は、公式サイトをご覧ください。

Kyoto review – 1997 protocol on climate crisis fuels gripping theatre at the RSC
【参照サイト】KYOTO | 燐光群
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