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思い返せば、異例続きだった2025年の夏。記録的な暑さ、史上最も暑い夏……これらの言葉を聞くと、「ああ、またか」と思うようになってしまった今日この頃だ。例年にない暑さや、先の読めない四季の移ろい方が、これから当たり前になっていくのだろうか。少なからず、私たちはそんな未来を歩み始めているのかもしれない。
梅雨が来ると身構えていた6月、梅雨前線はかなり活動が弱く、恵みの雨が十分に降らないまま、梅雨が明けた。その後も、降水量は少ない地域が多く、日照時間は平年より長い地域が多かったとのこと。気象庁が9月1日に発表した今夏(6〜8月)の天候まとめによると、この3ヶ月の平均気温平年差は、北日本で+3.4℃、東日本で+2.3℃、西日本で+1.7℃と、統計を開始した1946年以降、これまでで一番気温の高い夏となった(※1)。
これを現実として受け止めたとき、行政や民間企業が取れるアクションは大きく3種類に分けられる。まずは「緩和」と「適応」だ。そして、それらでは対処できなくなると、もう1種類のアクション「損失と損害」が必要となる。
「緩和」とは、温室効果ガスの発生を抑制し、気候変動の進行をできる限り抑えようとすること。脱炭素化やカーボンニュートラルなど、環境負荷を軽減するためのアクションは、緩和策と言える。「適応」とは、すでに気温が上昇した社会で生きるために備えること。高温だけでなく気候変動に伴う異常気象や水不足のリスクも見据え、生活インフラの整備や新しい品種の開発、危険感知システムの構築に取り組むことなどが挙げられる。
そして「損失と損害」とは、緩和策でも適応策でも対処できないほどに気候変動による損失を受けた地域に対して、支援を行うこと。残念ながら、すでにこれが現実となっている地域もあり、2023年のCOP28では「損失と損害」基金の大枠が決定し、現在運用方法が議論されている(※2)。
現在、排出国である、いわゆるグローバルノースの国々が着手しているのは、緩和策だ。しかし、この異常な暑さに身の危険を感じた人も多いのではないだろうか。すでに、私たちは緩和策だけで太刀打ちできず、適応策にも踏み込む必要が出てきているのだろう。

適応は、決して暗い話ではない|Image via Shutterstock
実は日本では、2018年に気候変動適応法にもとづき「気候変動適応計画」が閣議決定され、2023年に熱中症対策を追加するための一部変更が行われた。高温や渇水による農業・水資源・災害・健康などへの影響を考慮した技術開発、新たな評価体制の構築、設備整理などが盛り込まれている。
しかし、緩和策に比べて、こうした計画に基づく具体的な適応策はまだ実践が広がっていないのが現状だ。気温が上昇した後の社会に対し、恐怖ではなく、穏やかさやケアに包まれた場を想像するには、どんなアプローチが重要になるだろうか。
その兆しを見せてくれる、2つの事例を紹介する。Panasonic DesignによるVISION UXという活動では、10年後のありたい姿をもとに事業機会を探索中。そこで描かれた「未来」の一つが、気候変動により自然災害が頻繁に起こるようになった社会だ。
そこに恐怖を投影するのではなく、できる限り穏便な暮らしを投影するのが同プロジェクト。「どうしたら、被災した都市の“治療”にドローンやロボットを活用し、自然に配慮した復興が実現できるか」「どうしたら、避難所が“明日を生きたい”が溢れる場所になるか」などがテーマだ。避難所の例では、移動式の食堂や診療所があり、常に温かいご飯が用意でき、誕生日にはケーキでお祝いをするような場が描かれている。適応という視点に立つと、新たな「問い」が浮かび上がるのだ。
また、イギリスに本拠地を置くDark Matter Labsは、バーミンガムを舞台に気候変動が進み地球の平均気温が3度上昇した未来を前提としたまちづくりの計画を立てるプロジェクト「3℃ Neighbourhood」を実施。熱波や干ばつを前提に、住民と共にワークショップを通じて来たる社会への備えをまちレベルで進めている。
一方で、忘れてはならないのは、私たちがいま感じ始めている“危険な暑さ”が、他の国や地域ではすでに日常的に起きているということ。多くの場合、構造的に弱い立場に置かれる人ほど気候変動の重荷を背負うという不公正な状態に置かれている。適応策の拡大は、気候正義の観点でも求められているはずだ。
このように気温上昇を計画やアクションの前提に置くことは、気候変動緩和策を諦めているように思われるかもしれないが、そうではない。2025年3月にフランス政府が平均気温の4℃上昇に備える適応計画を発表したときには、「適応は諦めではない」というフレーズが注目を集めた。
つまり、今追求している緩和策を減速させることなく、同時に、一部の人々が気候変動の負担を偏って背負うことがないよう未来のセーフティーネットを築いていくことが重要なのだ。この夏に身体で察知した危機は、緩和と適応の両者が不可欠な時代に入ったことを知らせる警鐘なのかもしれない。
※1 ただし、気象庁が運営する異常気象分析検討会の中村会長は東京新聞に対し、今夏の猛暑について「温暖化がなければ起こり得なかったが、温暖化だけではこれだけ極端な高温は実現しない」とした上で、「複合的要因で引き起こされた数十年に一度の現象。明らかに異常気象」と語っている|東京新聞
※2 COP28閉幕:化石燃料時代のその先へ|国立研究開発法人 国立環境研究所 社会システム領域
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