平等は、当たり前を問い直すところから始まる。女性のエンパワーメント事例5選【2025年ハイライト】

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ジェンダー平等や女性のエンパワーメントをめぐる議論は長年続いているものの、状況が劇的に好転しているとは言いがたい。変化の実感が乏しく、その場で足踏みしているように感じた人も少なくないだろう。

一方で、社会のなかには、すでに積み重ねられてきた実践や試みがあり、私たちが当たり前だと思ってきた前提や価値観を見直す手がかりを与えてくれているのも事実だ。

本記事では、2025年にIDEAS FOR GOODで公開された記事のなかから、女性のエンパワーメントに関する事例を5つ選んでお届けする。少しでも希望の兆しを感じていただけると幸いだ。

女性のエンパワーメント事例5選

01. 女性が「休む」ことで社会を動かした、アイスランド

アイスランドは、ジェンダーギャップ指数で長年世界1位を維持する平等先進国である。その出発点となったのが、1975年10月24日の「女性の休日(kvennafrí)」だ。

この日、全国の女性の約9割が仕事や家事、育児を一斉に休んだ。結果として銀行や交通は止まり、社会は文字通り止まってしまったのだ。これは、女性の存在やその無償労働が、日常を支えていた事実が可視化された瞬間だった。この出来事は、その後の法整備や女性の政治参加拡大へとつながっていく。

前代未聞だったのは、抗議の声ではなく「不在」によって社会の前提を問い直した点である。行動を「起こす」だけではなく、行動を「止める」ことでも社会が変わりうる──声を上げる方法は一つではないことを示した事例だ。

「女性の休日」が社会を動かす。“ジェンダー先進国“アイスランドの運動を描く映画が公開

02. 女性の地位向上を目指すための債権「ジェンダーボンド」

ジェンダーボンドとは、女性の地位向上や経済的自立を支援する事業に使途を限定した債券である。市場規模は2020年の約440億ドルから、2025年には約2,460億ドル超へと急拡大した。ジェンダー平等が、理念ではなく投資テーマとして認識され始めたことを示している。

世界初の国家発行例として、アイスランドは約5,000万ユーロを調達し、住宅支援やケア労働の負担軽減に充てた。日本でも国際協力機構(JICA)がジェンダーボンドを発行し、開発途上国での女性起業支援や公共交通の改善を後押ししている。

資金の流れを変えることで、社会課題にアプローチする道が開かれつつある。一方で、その効果を示す透明性の高いインパクト報告は欠かせない。この事例は、金融の仕組みそのものが公正な社会を形づくる力になりうることを示している。

「ジェンダーボンド」市場が5年で5倍超に急成長。アイスランドやJICAも発行

03. 市民の力でAIを「平等」に

AIは、ときに無意識のジェンダーステレオタイプを再生産してしまう。こうした偏りの是正は、開発者や開発元企業の倫理観に委ねられてきた。しかし、開発チームの多様性には限りがあり、無意識のバイアスをすべて発見することは困難だ。そこで、市民の「対話」によってこのバイアスを低減しようとする取り組みが生まれた。

国連教育科学文化機関(UNESCO)が公開した、実践ガイドブック『A Playbook for Red-Teaming AI』には、生成AIモデルが持つジェンダーバイアスやステレオタイプを助長するリスクを、市民参加型のワークショップを通じて検証するための手引きが記されている。

ここで使われるのは、レッドチーミングという手法だ。これは、想定内の利用法だけでなく悪意ある利用や予期せぬ状況まで視野に入れて脆弱性を事前に発見・改善するプロセスである。些細なバイアスは、開発者でさえ見過ごす可能性があるもの。それを、多様な視点を持つ市民が「対話」することで発見していくこともできるのだ。

AIのジェンダーバイアスを、市民の「対話」で発見。UNESCOが公開した、参加型ガイドブック

04. 衝突実験用のダミー人形が、女性の事故リスクを減らす?

自動車の安全設計は長年、成人男性の平均的な体格を基準に行われてきた。その象徴が、衝突実験に使われるテスト用ダミーである。女性や妊婦、高齢者の身体特性は、そのダミーへ十分に反映されてこなかった。その結果、同じ事故でも女性のほうが重傷を負うリスクが高いことが研究で明らかになっている。

こうした偏りを是正しようと、スウェーデンを中心に、特に小柄な女性の体格や筋力、姿勢を反映したテスト用ダミーの開発が進められている。これにより、衝突時にどれくらい負荷がかかるかなど、既存のダミーよりも3倍多く傷害データを収集できるようになった。

技術は中立に見えても、設計基準次第で不平等を再生産してしまう。誰を基準に安全を考えるのかという問いは、命の重みをどう扱うかという社会の姿勢そのものだ。この事例は、包摂的な設計が結果としてすべての人の安全を高める可能性を示している。

事故衝撃テスト用のダミー人形を「女性」にすると何が起こるか

05. もしも男性が「あの質問」をされたら

オランダの大手小売業者bolは、国際女性デーに合わせて「Flip the Script」というキャンペーンを実施した。男性社員が、女性が面接で日常的に受けてきた質問を実際に体験する試みである。

「結婚や子どもの予定は?」「意見よりも愛想が大事では?」など、私的領域に踏み込む問いや、役割期待を前提とした空気に、男性たちは戸惑いを隠せなかった。この体験を通じ、言葉や態度がキャリアに与える影響を自分ごととして捉え直すきっかけが生まれたのだ。

bolは同時に、管理職の男女比是正や技術職における女性比率向上にも取り組んでいる。制度改革だけでなく、日々の問いかけや気づきの積み重ねが、職場文化を変える力を持つことを示した事例だ。

「結婚は?子どもの予定は?」男性が面接で聞かれたら。オランダ企業の実験が問うジェンダー平等

まとめ

ここで紹介してきた事例では、ジェンダー不平等という問題を、社会の仕組みや日常の前提そのものから捉え直している。大きな制度改革や劇的な転換だけが変化を生むのではない。問いの立て方を変えること、基準を見直すこと、立場を入れ替えて想像すること。その積み重ねが、少しずつ社会の構造を変えていく。

自分の身の回りにある前提や基準は、誰の視点でつくられているのだろうか。こうした問いを持ち続けること自体が、次の変化の芽になるのかもしれない。

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