民主主義を支えるのは読解力。米国の「言葉の面白さを伝える」没入型ミュージアム

Browse By

人々の日常にインターネットが浸透した現代では、思惑のある報道やフェイクの混じった報道が民主主義を歪めたり、個人のプライバシーを侵害したりする事態も増えており、情報の受信者としても、また発信者としても私たち一人ひとりの「言葉を読み解く力」は日々重要性を増している。

そんなミッションへ斬新なやり方でアプローチするのが、アメリカの首都・ワシントンD.C.に位置する「言葉」を探求する没入型ミュージアム・Planet Wordだ。2020年にオープンしたこの博物館には、世界中のあらゆる言語について楽しく、能動的に学ぶことができる多彩な仕掛けがある。セクションごとに最新テクノロジーを駆使して作られた展示は、来場者に独特な視覚・聴覚体験を提供する。

Planet word

Image via Planet Word

ミュージアムを訪れた人々は世代を問わず、言葉の面白さや奥深さを改めて認識することになる。真新しい形の学習機会をもたらすだけでなく、家に帰る頃には母国語や外国語、本や詩への興味がそれまでよりも一段と増すに違いない。

Image via Planet Word

Image via Planet Word

Planet Wordの建物となったのは、1869年にワシントンD.C.で開校した最初の公立校の一つである、Franklin schoolだ。2008年以来、未使用だった校舎だが、改修工事を行い新たな“学び舎”として蘇った。施設内は言語の展示スペースに加えて、イベントなどを行える講堂や教室、またレストランやギフトショップを完備している。入場料は無料で、すべての人に門戸が開かれている。

創設者のアン・フリードマン氏は、Planet Word立ち上げを始めるまで小学1年生の国語教師をしており、彼女の授業では、生徒が詩を作ったり、劇をしたり、ゲーム形式を取ったりと、子供が楽しめるやり方で読み書きを教えていた。ある日、彼女がニューヨーク市の国立数学博物館の構想を知った際、「体験型施設で数学の面白さを人々に伝えられるなら、言葉の面白さを届けるミュージアムもあっていいのでは」と思ったことがPlanet Word創設のきっかけになったのだという。

Image via Planet Word

Image via Planet Word

彼女が教師としての“ライフワークの延長”と表現するPlanet Wordプロジェクトは、世界に存在する言語を題材とした他の博物館とも、また一線を画す。たとえば、パリにある「ムンドリンガ(博物館)」は言語学に焦点を当て、シカゴの「アメリカ作家博物館」はアメリカ文化に影響を及ぼした文学作品の内容を深掘りしている。このように多くのミュージアムが一定のコンテクストに焦点を当てる中、Planet wordは世界中の言語を扱い、言葉やその読解という壮大なテーマの展示に挑んでいる。また、言葉というテーマを扱うミュージアムが、展示をハイテクな映像やゲーム形式に落としこみ、来場者の体験に繋げている点も珍しい。

フリードマン氏はワシントン・ポスト紙に対し、「政治の中枢であるワシントンD.C.という場所は、人々の識字能力と民主主義の繋がりを強調する場所として最適です」と述べている。たしかに強固な民主主義とは、市民のリテラシーを土台に成り立つものだ。インスタントな情報が飛び交う現代においては、ますます人々が読解力を基礎とした判断力を養う必要がある。

Planet Wordプロジェクトの問題意識とアイデアは、多くの後援者を惹きつけることとなった。2017年に行われたFranklin Schoolの再建計画を決めるコンペでは、本プロジェクトがD.C.の市長であるミューリエル・バウザー氏などによる審査を勝ち抜き、その後、展示物の製作と初年度の運営にかかる約22億円を支援者達から調達。展示物の監修をフリードマン氏とともに行う理事会には、ハーバード大学の心理学者であるスティーブン・ピンカー氏や、ニューヨークタイムズのクロスワードパズル編集者であるウィル・ショーツ氏など、各界の言葉のスペシャリストを引き入れた。

一人の国語教師の使命感が波紋を広げ、Planet Wordは創設に至った。教室から博物館へ、彼女の“授業”はより多くの人に届くようになった。家からの距離や情報リテラシーの問題から、それでもPlanet Wordにアクセスできる人は限られているが、最も重要なのは、彼女の持つ問題意識が広く共有され、私たちの生きる情報社会が健全な形で発展していくことだろう。

【参照サイト】Planet Word
Edited by Kimika

FacebookTwitter