【タイ特集#2】セックスも汚職も、自ら考え決断する力を。若手社会起業家のゲームアプリへの想い

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政治の腐敗、セックス、どちらも”タブー”といわれるトピックだ。そんな“触れてはいけない話題”にあえて切り込み、しかもただ正しい知識を学ぶだけではなく、自分の頭で考えて決断する力を身につけてもらうことを狙ってゲームアプリを開発している社会的企業がタイの首都バンコクにある。それが、opendreamだ。

今回、opendream創業者のKeng氏とゲームデザイナーのBochan氏に話を聞いてきた。

(左)Bochan氏、(右)Keng氏

「きっかけは、ただチャレンジングでわくわくすることがしたかった」

Q: opendreamを起業した経緯を教えてください。

2007年に妻と起業しました。僕たちの専門はコンピューターエンジニアリングなので、起業のアイデアは”社会変化のためのテクノロジー専門集団”です。大学卒業後3年間勤めた民間企業を辞め、一年間NPOでボランティアをしました。

最初は社会問題にそんなに関心があったわけでも、社会に良いことがしたいという気持ちからでもなく、ただチャレンジングでわくわくすることがしたかったんです。25歳だったので、たくさんやりたいことがあり、世界を変えるなにかをしたいというエネルギーがモチベーションでした。

NPOでボランティアしていた時に、もし自分たちの大好きなテクノロジー開発でなにかできたら、しかもそれが金銭以外の価値を生み出せたらいいなと考えていました。

利益の最大化を目指す民間企業とインパクトの最大化を狙うNPOとの間にある社会的企業の運営は、25歳の若者にとって十分に挑戦するに値しますし、今日でもいまだチャレンジングです。

柔らかな人柄だが、熱い想いを持っているKeng氏

Q: opendreamではどのようなサービスを提供しているのですか?

僕たちの会社は“Technology for health and education”を強みにしています。今は、NPOや国際団体、CSRに取り組む企業にテクノロジー開発サービスを提供したり、安全なセックス知識を身につける『Judies』や汚職について学べる『corrupt』といったアプリ開発をしています。アプリ開発では、民間団体からの投資を受けたり、スポンサーシップを結んだり、またデジタルコンドームの販売(※アプリ上で貯まるポイントのようなもので、世界中のユーザーと競争できる)を通じて利益を得ています。

タイの汚職や性教育の現状

タイ政治はどれくらい腐敗しているのか?

Transparency InternationalというNGOの調査によると、2017年世界腐敗ランキングでタイは180カ国中96位だという。ちなみに日本は10位である。

Q:『corrupt』について詳細を教えてください。

高校生や大学生がターゲットで、このゲームを通して汚職の結果がどうなるのかを学んで欲しいと思っています。コンテンツは現実のタイの政治とリンクしていて、具体的な名前などは出していませんが、なんとなく誰かはわかります(笑)。でも政府も承認していて、賞もいただきました。

Image via openmind

Image via opendream

タイの学校教育は、正解は教えるけど、創造性や考える力を制限してしまっています。考えなくなると既存のシステムに従うだけで、おかしな点に気付きにくくなります。長期的に考えるためには、分析やクリティカルシンキングが大事になってきます。僕たちのアプリでシステム自体を変えているとは言いませんが、新しい考え方のエクササイズができるかと思います。

タイ若年層のセックス事情とは?

WHOの調査によると、2015年タイの10代の出産率は、15-19歳の女子1000人に対して51人である。日本は4人だ。

Q: 『Judies』について詳細を教えてください。

『corrupt』より物議を醸し出しているのが、安全なセックスを取り上げている『Judies』です(笑)。コンテンツの内容は医者が監修していて、ほとんどの医者が私たちのアプリに賛成してくれています。ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関であるUN womenからも認証されています。

ただ日本もそうだと思いますが、タイでは性教育について公に話すことはありません。最終的には公の場でセックスについて話してもらえるようになって欲しいのですが、かなり遠い目標なので、まずは話すときに恥ずかしがらずに気持ちよく話してもらいたいと思っています。

Image via openmind

確かに昔は病院やヘルスセンターでしか手に入らなかったコンドームは、今ではコンビニやスーパーで買えるようになりました。しかし、例えば男二人でコンドームを買ったり、女性が自分を守るためにコンドームを携帯することは文化的にまだまだ偏見の目で見られます。今でもセックスの話題はタブーですね。だから、ゲームを通して、コンドームなしのセックスの危険性やセックスするときの他の選択肢など学校で教わらない正しい知識を学んで欲しいと思っています。

今後はゲームのデータを集めて解析し、コンテンツを変えていきたいです。またウェブサイト上にオフライン用のガイドブックも公開してるので、学校などで使われています。また、ジェンダーの役割やLGBT、セクハラの問題についても話題を広げていきたいです。

Q: どのようなユーザーの声がありますか?

80万人いる『Judies』ユーザーの70%は十代の女子です。ポジティブなフィードバックはユーザーである若い世代から、ネガティブなものはとくにロシア人の親世代からが多いです。アプリのレビューに、「地獄へ行け」と書かれたこともあります(笑)。ですが実は、急進的なので表向きには難しいですが、政府も自分たちの活動を支援してくれています。

Q: なぜゲームにしようとしたのですか?

若い世代は安全なセックスについての知識がありません。でもゲームなら楽しみながら知識を身につけられるし、間違いがあると自然と正解を覚えるので、完璧なツールであると思ったからです。日本や世界中のゲームからインスピレーションを受けています。数年前には東京ゲームショーにも参加しました。

オフィスには、世界中からのゲームが置いてある。

人生で自らコントロールすべき2つのこと:「健康」と「教育」

Q: なぜ「健康」と「教育」に焦点を当てたのですか?

人生には自分でコントロールすべき事柄がいくつかあると思います。健康と教育はその中のふたつです。健康な身体であれば、健康な精神を保て、イノベーションを生み出せます。でもタイでは、自分の身体のことなのに医者が私たちの健康について責任を持つべきだと考えている人がいますが、それはおかしいと思います。

教育についても先生や学校に責任に投げています。自分で学ぶことやライフスキルを身につける教育が必要だと思います。

Q: opendreamの目指すゴールは何ですか?

opendreamの大きな目標は、上記のトピックに関する決定権をユーザーに戻すことです。僕たちのアプリを通して、例えば自分の健康について自ら考え決断して、医者の声はセカンドオピニオンとして聞くぐらいになって欲しい。

教育に関しても、教室で話すのは難しいトピックである汚職やセックスという問題を理解するツールを提供したいと思っています。

(左)Keng氏、(右)Bochan氏

編集後記

「政治」も「性」も自由で楽しい生活を送るのに重要なトピックである。しかし、タイ同様、公の場で話すのはまだまだタブーなのは日本も同じ。気づかない間に考えることをやめてしまい、意思決定権を他人に委ねていないだろうかと自問してみてほしい。

そんななか「若者に自己決定権を取り戻してもらう」という彼らのゲームアプリの背景にある想いは、とても熱かった。学生だけではなく、ぜひ大人にも遊んでほしいゲームだ。

また起業のきっかけが、単にチャレンジングなことをしたいという気持ちだったのも親しみを感じる。最初から大義名分を掲げるのももちろん立派なことだが、「なにかにチャレンジしてみたい」「自分自身を試してみたい」という自分の可能性への好奇心でビジネスを始めるのも素敵ではないか。社会問題とは詰まるところ、一人ひとりの個人の問題に還るわけだから、自分発信の気持ちを大切にすることが一番欠かせないことだと思う。

【参照サイト】opendream

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