【デンマーク特集#1】自分の幸せは、地球規模の幸せ。ロラン島で気づかされた、成熟社会の行きつく先。

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IDEAS FOR GOOD編集部は、デンマークのロラン島に降り立ち、「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)」のワークショップに参加した。ニュー・ノルディック・キュイジーヌについては次回の記事で言及するが、ここではロラン島にフォーカスをあてたい。

ロラン島とは、人口4万2千人程度で面積は沖縄本島と同じくらいの小さな島である。毎年人口が減少し続けており、日本と同じように少子高齢化という問題を抱える。ここには日本からデンマークに移住したニールセン北村朋子さんが住んでおり、デンマークの教育やデンマークで大事にしている生き方を日本に伝えるアドバイザーやコーディネーター、ジャーナリストとして活動している。今後はデンマーク出身のニコライ・フロストらとともにフォルケホイスコーレを立ち上げる予定だ。

ニールセン北村朋子氏、ニコライ・フロスト氏(左から)

今回は、ニールセン北村朋子さんにガイドして頂きながら、教育や食、エネルギーという視点から、ニュー・ノルディック・キュイジーヌのワークショップ参加中にロラン島を周遊する機会を得た。ここでデンマークがなぜ「幸福な国」と言われるのかについてヒントを得ることができたので、紹介していきたい。

欲しいのは地位や名声ではなく、「立ち止まる期間」。

ニールセン北村朋子さんが事務局を務めるフォルケホイスコーレ予定地を見学した。フォルケホイスコーレとは17歳以上であれば、国籍や宗教など関係なく誰でも通うことができる全寮制の教育機関だ。デンマークには現在70校ほどのフォルケホイスコーレがあり、スポーツ、自己啓発や一般教養などそれぞれ強みを持つ。

フォルケホイスコーレに通う生徒が使う寮

フォルケホイスコーレに通う生徒が使う寮

このフォルケホイスコーレ予定地は、元「エフタスコーレ」というアフタースクールの場所だった。エフタスコーレとは高等教育に入る前の14~17歳を対象として1年間通うことができる全寮制の教育機関だ。デンマークでは高等教育段階で職業専門の教育と普通教育に分かれるため、生徒は職業専門学校を選ぶ前に本当に自分に合っているかをその1年間で考えることができる。

生徒自身が自分は与えられた教育を受けとる存在ではなく、自分に合った教育を選ぶ主体であるという姿勢を持っていることに感銘を受けた。日本では卒業した年度やどこで教育を受けたかといった、見えやすい肩書が重視されがちだが、「何を学びたいか」「何になりたいか」を考えられた教育プログラムである。

幸せは人間だけのものではない。家畜にも。

デンマークの豚肉輸出は世界でナンバーワンクラス。2017年まで日本における豚肉の輸入量はデンマークが最大だった。そんな養豚大国のデンマークは「アニマル・ウェルフェア(動物の福祉)」に重きを置いている。ロラン島の養豚場に足を運んだところ、見渡す限りこのような小屋が並んでいた。

点々と並ぶ豚家族の小屋

点々と並ぶ豚家族の小屋

この小屋にはそれぞれお母さん豚とその子豚がリラックスして家族の時間を過ごしていた。デンマークの法令では豚用にカスタマイズされたシャワーや床、檻などの設備の規格、輸送などの方法が取り決められている。特に食肉処理場まで豚を運ぶ距離を3時間に抑えることや積載設備の改善などの工夫により、輸送中の豚の死亡率が最も低いという。

人間の心が成熟されているからこそ考えられる、家畜の心の豊かさ。人間にとっての効率性ではなく「養豚が一生を終えるまで幸せであること」を追求された姿勢に、人間さえよければいいわけではないという当たり前のことを突き付けられた気がした。

自分が使うエネルギーだから、自分ごと。

ロラン島を車で走っていると風力発電タービンの数の多さに驚く。2018年の調査によると、2017年にはデンマーク全体でエネルギー自給率は85%だという。そして再生可能エネルギーの消費の比率は全体のエネルギーの30%を超える。実はコペンハーゲン首都圏内での自給率は低いのだが、ロラン島の自給率は800%にもなるという。この電力の7割はロラン島周辺の洋上風力タービンから来ている。

ロラン島の消費電力の8倍を生産する風力発電

ロラン島の消費電力の8倍を生産する風力発電タービン

2017年には地方都市であるロラン島と首都のコペンハーゲンが共生社会を目指し世界初の協定が結ばれた。契約期間は30年という長さだ。これにより、ロラン島で生み出された再生可能エネルギーはコペンハーゲン首都圏が掲げるカーボンニュートラルのための電力供給に貢献することや、ロラン島で作られたオーガニックな食材をコペンハーゲンの公共施設で提供されることが決められている。また、都市在住者が生産地について学びにロラン島を訪れるグリーンツアーの実施により、都市が地域経済に貢献している。グリーンシフトが必要な都市として負担が公平になるような工夫があるのだ。

また、緯度が高いロラン島ではタービンの影が長くなってしまうことや、さらに風が強い方向に向けてタービンの風車を動かすシステムのためタービンの影がちらついてしまう、といった問題がある。それに対し、タービンの高さの6倍離れたところに家を建てることが決められ、タービンの建設予定地に家があるときは補償金も出るという。

日本でも都市の電力を地方で生み出しているが、行政同士が補償金をやりとりするだけではなく、地方の生活者を気遣っているという特徴から学ぶところが多い。都市は地方の恩恵をなくしては成り立たないということが前提となっている協定だ。

編集後記

幸福な国、と言うのだから行政がしっかりしているのだろう、と考えていたが大きな間違いをしていた。ロラン島を周遊して日本との差異は「幸福とは誰かに与えられるものではなく、自分の手で生み出すものだ」という価値観があることだと気づいた。それはエネルギーしかり、養豚しかり、教育しかり、行政によって一方的に与えられるサービスではなく、市民の納得する形で市民が考えて生み出されたからこそ「幸福」と言われるのだ。

モノに満たされた現代の私たちが求める幸せとは、もはや「『自分の』生きがい」に留まらない。自分が幸せに生きるための教育の整備はもちろん、家畜が食肉として処理されるまでの幸せ、サステナブルに街が生き続けるための地球規模の幸せに至るまで、ジブンゴトの枠は広がっていく。

【参考サイト】用語集・フォルケホイスコーレ
【参考サイト】ロラン島電力供給に関する資料(デンマーク語)
【参考サイト】デンマーク動物福祉に関する資料(デンマーク語)