欧米で広がる「自分のルーツを探るため」の遺伝子検査。今後の課題とは?

Browse By

近年、遺伝子解析技術が発展し、遺伝子検査は医療関係者だけでなく一般消費者向けのサービスとしても展開されている。2019年の年初までに、世界でメジャーな民間遺伝子検査会社4社のサービスを利用した人は、累計で全世界2,600万人に上ると推計されている。2年後にはこの人数は1億人に達する見込みで、2022年には1兆円規模の市場になる予測だ。ここでは、遺伝子検査キットから見える可能性と危険性に着目していく。

日本でも、遺伝子検査で各種疾患の可能性を予測したり、効果的な筋力トレーニングの参考にしたりといったサービスを目にする機会も増えてきている。しかし欧米では、「自分の人種的なルーツを明らかにする」という目的で検査を受ける人が多く、遺伝子解析技術の活用は健康管理や疾患の予測以外での広がりを見せている。

このようなサービスは、アメリカとイギリスにある「Ancestry」と「23andMe」の大手2社がシェアの大半を占めており、いずれも「自分のDNAがどこから来たか」を把握できるとしている。検査方法は簡単で、ネット上でキットを注文し、届いた容器に唾液を入れ、返送するだけで、3~5週間ほどで結果が分かる。検査価格も1万円以下とお手ごろだ。

Ancestryの遺伝子情報から分かる出身地

Ancestryの遺伝子情報から分かる出身地

検査結果では、出身地を表す遺伝情報のうち、特定の国や地域が何割を占めるかが明らかになり、「自分の先祖がどこから来たのか」というルーツの参考にできる。その検査結果をシェアすることで、親戚の可能性が高い人をデータベース上から探し出すことも可能だ。

実際に検査を受けた方への取材によると、「自分の父親と面識がなく、どこの国から来たのかわからない」「祖父母が自分の出身を話そうとしない」などの事情から検査を受ける人がいるという。自身の人種的アイデンティティに対して抱えている、不透明感や違和感を解消する助けになりそうだ。

イギリスやアメリカなどの国々では、奴隷制度や植民地支配を背景とした人種間の交流が行われてきた。また近年では、アフリカやアジアからの難民受け入れによって、社会が多人種で構成されていることも珍しくない。そのような中で、アフリカ系やアジア系の人が自分のルーツを把握したいと考え、遺伝子検査を受けることが多くみられるようだ。この動画は、DNA検査から、嫌いな国のルーツを自分が持っていたり、世界中に親戚がいると知ったりすることで、考え方が変わるという広告だ。

一方で、遺伝子によるルーツの検査は、科学的に妥当性が低いという専門家の指摘があり、検査サービスによって結果にもばらつきがあるなど、正確性は一部疑問視されている。

また、情報管理体制に関する指摘や疑問も増えてきている。多くの検査会社のプライバシーポリシーでは、「検査結果は本人に帰属し、いつでも削除が可能」とされている。しかし多くの場合、「個人情報を秘匿して遺伝子データを製薬会社に提供する」「行政や警察の要請があれば、捜査協力のために個人情報と併せて提供する」などの条項もあり、それらの情報の周知徹底には疑問が残る。

人種やルーツなど、自分のアイデンティティに深くかかわる要素が技術の進歩によって把握できることは、多くの人にとってメリットとなるだろう。しかしその反面、ビジネスセクターでの個人の遺伝子情報の管理については十分な議論が行われているとは言えず、ルールの不備はレイシズムや同意のない利用などにつながる危険性がある。人種の交わりが多様になっていく今後、このサービスは話題になり続けるだろうが、医療や生物倫理の観点だけではなく、ビジネスや個人情報の活用に関する観点からも、今後のルール作りが必要だ。

【参照サイト】It made me question my ancestry’: Does DNA home testing really understand race?
【参照サイト】More than 26 million people have taken an at-home ancestry test
【参照サイト】23andMe
【参照サイト】Ancestry

FacebookTwitter