スマートフォンを買い替えるタイミングを想像していただきたい。新しいバージョンが発売されたから?バッテリーの減りが早くなってしまったから?画面が割れたから?
モバイル社会研究所の調査によると、一人あたりのスマートフォンの平均所有期間は、たったの1年9か月だという。また、2018年度の携帯やスマートフォンのリサイクル回収率は17.4パーセントと、使い終わった携帯の多くが廃棄されていることがわかる。(モバイル・リサイクル・ネットワーク調査)
そんな中、オランダのスタートアップ企業Fairphone(フェアフォン)社は、サーキュラーエコノミー型のスマートフォンを2013年に発売して以来、人や環境に優しいスマートフォンとして認知を拡大している。リサイクルされた材料で作られていることや、長期の使用を目的としているため修理が容易なモジュール式を採用しているのが特徴だ。同じスマートフォンを長く使うことで、E-waste(電子廃棄物)やCO2の削減につながる。
これまでに2モデルを発売済みのFairphone社であるが、2019年8月27日にはさらに機能がパワーアップした第三世代「Fairphone3」の発売を発表した。
Fairphone3ではなるべくねじを使い、接着剤を使用していない。また、これまでのFairphoneに比べて耐久性があり、より薄くなっている。スマートフォンの新製品が出るたびに修理のしやすさを判定している米修理業者iFixitが、10点満点を与えたほどだ。
また、Fairphoneはエシカルなスマートフォンでもある。通常のスマートフォンには金やスズ、タンタル、タングステンという鉱物が原料として使われる。その多くは紛争が起こっているコンゴ民主共和国の武装グループの資金源となり、さらなる紛争を助長する。さらに鉱山では、児童労働や健康被害、奴隷的な労働環境など非人道的行為がまかり通っている。
Fairphone社では、紛争鉱物の使用を回避し、倫理的に調達された原料を使用している。
原料の調達情報はすべてFairphone公式サイトに公開している。さらに、Fairphone3の製造地である中国での労働環境の向上や透明化、教育研修にも取り組み、労働者の幸福度の上昇にも取り組んでいる。
さらに、不要なスマートフォンをリサイクルするとFairphone3の購入の際に20〜40ユーロが還元される。消費者が、修理しても高額だからと新しいモノに変えてしまい、古いスマートフォンがリサイクルされないまま残る状況を避けることができる。家の中で眠っているスマートフォンが次のスマートフォンの資源になるという循環型の仕組みを作っている。
Fairphone社は消費者に、5年以上同じスマートフォンを使ってもらうことを目標にしている。CEOであるエファ・ガウウェンス氏は「AppleやSamsungは競合にはなりうるものの、私たちは倫理的に行動する機運を業界全体に高めたい」と話している。
このFairphone社がサーキュラーエコノミーの好例と言われる理由は、サーキュラーエコノミーの推進機関であるエレン・マッカーサー財団の定義を満たしつつあるからでもある。その定義とは次の3つである。
1. Design out waste and pollution (廃棄物や汚染がでないようにデザインする)
2. Keep products and materials in use (製品や原料を使い続ける)
3. Regenerate natural systems (自然環境を再生させる)
Fairphone社では、1.2.については実現ができつつある。1.については、モジュール設計にすることにより必要な部品のみを取り替えることができ、その部品のリサイクルもできるため「ゴミ」の概念がなくなる。また、2.については、そのモジュール化によって、なるべく製品を長く使ってもらうように設計されている。
サプライヤー側からこのような製品が多く世の中に登場していけば、消費者がエシカルを意識せずに機能性やデザインを重視して商品を購入した際にも、結果的にはサステナブルな循環経済を回すことになり、消費者の「買って、使って、捨てる」習慣を見直すきっかけとなる。それこそが、Fairphone社の狙いだ。他社や他業界にも、今後この動きが広がっていくだろう。
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【参考サイト】Fairphone公式サイト
画像提供:Fairphone