アメリカの北西部では鮭の個体数が減少している。水温の上昇や、鮭が川を上って産卵する「遡上」の際にダムなどの障害があることがその理由だという。コロンビア川では13種類の鮭およびニジマスが絶滅の危機にさらされている。アメリカ全土で約85,000ものダムがあり、そのうち魚道が整備されているところはほんの一部。ひとつひとつ魚道が作られるのを待っていては、肝心の鮭がいなくなってしまうかもしれない。
シアトルにあるWhooshh Innovationsという会社は、ダムの下にある水場から、ダムの上にある産卵場所まで魚を迅速かつ傷つけずに優しく運ぶ、長いチューブ状の運搬機械「Fish Passage」を開発した。
チューブに入った魚は、空気圧によってダムの上まで飛んでいく。水が潤滑油の役割を果たし、魚は秒速5~8mで移動する。超えられるダムの高さに実際的な限界はなく、200mでも700mでも問題なくできるという。
当初は、「魚が苦しめられていないか?」という批判もCEOのブライアント氏のもとに寄せられたようだが、通常利用される魚はしごのような階段状の水溜まりを使うよりも、魚のストレスは少ないという。魚はしごを登っていくと体力の消耗が激しいが、この機械を使えば、あとはエレベーターで運ばれるようなもの。さらにこの機械はただ魚を運ぶだけでなく、魚をスキャンして野生魚と養殖魚とを分類し、それぞれ適切な目的地に届ける。野生魚と養殖魚が互いに競合しないための工夫だ。
実はこの機械、当初は果物の収穫および分類のために開発されたというのが、意外で面白い。2011年に同社が果物を使った実地試験を行っていたとき、大きなバケツをぶら下げたヘリコプターが上空を飛ぶのをブライアント氏が目撃。ヘリコプターは、ダムを超えられない遡河魚(そかぎょ)を運んでいる途中だった。
さらに後日、同社はカリフォルニアのカンキツ園に生えていた木が完全にダメになってしまったことを知らされる。その原因は、果樹園に供給されていた灌漑水(かんがいすい)が鮭を守るために転用されたからだと説明を受けた。魚はしごを作ったために、農業に悪影響が出たのだ。
ここにきて同社は「水資源を共有するための、より良い方法があって然るべきではないか」と考えるようになる。そこで果実の運搬に使っていた機械で魚を試したところ、成功。果物の運搬から魚の運搬へと方向転換をし、2013年以降は魚を運ぶソリューションの開発に全力を傾けるようになった。
現在、アメリカや欧州で使用されている同社のソリューションは、魚の個体数を増やしながら、水力発電もしくは農業に使える水を10%以上増やすことを可能にしている。限られた水資源の共有を図り、ダムと魚の共存を促す同社のイノベーションは今後、多くの生態系を救うだろう。
【参照サイト】 Whooshh Innovations