手押し車をベンチに。コロナ禍のトロントで生まれた公共サーキュラーデザイン

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新型コロナウイルスによって、密閉空間が避けられるようになり、街中での人々の行き来は減少した。不要不急の外出にも歯止めをかけざるをえない状況の中、人が密集しておらず、常に空気が換気されている場所――すなわち、アウトドアの人気は高まりつつある。そんな圧迫感のある社会状況で、アウトドア空間を使って、しずみがちな気分を和やかにしてくれるユニークなアイデアがカナダのトロントで誕生した。それが、セント・ジェームズパークの近く、キング・ストリートに誕生した手押し車のベンチだ。

Image via blogTO

この手押し車のベンチは、トロント在住のアーティストであるジョン・ノットン氏の作品だ。トロントでは、キング・ストリートに設置する、「道端で人々がより良い時間を過ごせるベンチ」を選ぶコンペ、Temporary Parklet Design Buildがここ数年、行政によって開催されている。実用性と見た目の面白さの両立が要求される、難易度の高いコンペだ。ノットン氏は、このコンペの2020年の優勝者だ。

『Plant It Forward』と名付けられたこのベンチの設計の根底には、サーキュラー・エコノミーの思想が流れている。現に、ベンチに使用されている木材は、150年前の蒸留酒製作所で使われていた廃材や、古い工場からもらってきた合板だ。

「都市の中の庭」や「没入感」というテーマを意識したというベンチの周りには、インゲン豆が植えられている。コンクリートが多い都市の中でも、土や植物を身近に感じられる、ユニークな仕掛けだ。さらに、このインゲン豆の7つのプランターは、セント・ジェームズ・パークの雨水収集システムを使って育成されている。インゲン豆は誰でも収穫可能で、もちろん手押し車に座りながら食べることもできる。

このベンチはコンペの展示期間が終わった後、そのまま寄付され、道端の憩いの空間として残される予定だという。

日の光にあたりながら、気のおけない人々と集まっておしゃべりをする行為は、人間にとって極めて基本的で、精神の充足にとってなくてはならないものだ。新型コロナウイルスの蔓延によって、そのような状況にも気を遣わなくてはならない状況だが、今回紹介したトロントのベンチのようなアイデアが、心を和ませる時間を取り戻してくれるかもしれない。

【参照サイト】Tronto street now has seats made of wheelbarrows
【参照サイト】JOHN NOTTEN – visual artist/educator

Edited by Megumi Ito

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