地域の支え合いが作る、サステナブルな飲食店。石神井のイタリアンレストラン、FILIPPO

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新型コロナウィルス(以下、新型コロナ)の影響で飲食店のあり方はガラリと変わってしまった。都内では4月から5月の7週間にわたる緊急事態宣言を受け、休業を余儀なくされたり、テイクアウトのみの営業に切り替えたりする店舗も多く見られた。徐々に経済活動を再開する動きになっているものの、いまだに安心して営業をすることは難しく、今後経営をどう続けていくべきか悩んでいる飲食店は多いのではないだろうか。実際、閉店してしまう飲食店や異なる業種に転職せざるを得ない料理人が続出し、日本の食文化は存続の危機に瀕している。

そんな厳しい状況下でも、強い生命力と底知れないエネルギーで、地域と支えあいながら経営を続けているお店がある。

東京都練馬区石神井にあるイタリアンレストラン、PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO(以下、フィリッポ)だ。地元石神井公園で愛されるこのお店は、7月に新たに2名の仲間を迎え入れ、現在は12名体制で営業を続けている。

今回はそんなフィリッポの岩澤オーナーシェフにお話を伺い、コロナ時代の持続可能な飲食店の在り方について考えていきたい。

地域の人に愛されるレストラン、フィリッポ

西武池袋線石神井公園駅の近くには、賑やかな商店街がある。通りには八百屋やスーパー、薬屋、レストランなどが立ち並び、ここに住む人たちの日常の時間が流れている。フィリッポはそんな石神井の商店街の中にある、街に開かれた印象のレストランだ。

このお店では、地元練馬の食材を使ったピザを提供している。練馬の白石農園から直接仕入れた練馬大根やグリーンアスパラガスなどの野菜がふんだんに使われたピッツァは、薬膳ピッツァと言われるほど健康的で、美味しいと評判だ。また、普段は市場に出回ることなく捨てられてしまう大根の葉もアレンジして、提供している。日本人の口に合う美味しさ追求した小麦を使い、岩澤氏が仲間と共に開発した『匠のパスタ』も絶品だ。

フィリッポのピッツァ

フィリッポのピッツァ

これまでは、このお店の味を求めて遠くからやってくるお客さんもたくさんいた。しかし、新型コロナの影響で遠出することができなくなってからは、以前よりも地元のお客さんが来てくれるようになったという。そんな風に強くなった地域のつながりが結果的に大きなプロジェクトに結びつき、コロナ禍でのフィリッポの経営の大きな支えとなった。

医療現場の助けにつながった地域との絆

フィリッポは緊急事態宣言の間、練馬区の飲食店や農家、クリニック、サッカー団体、子供たちなど30以上の地域団体と協力し、地元の病院である光が丘病院や順天堂大学病院などに、合計500食のランチを届けた。

岩澤さん:この近くの病院で働いている方がお客さんとしても来てくれていたので、医療現場の状況が大変だということがすぐに情報として入ってきました。また、お店の斜め向かいにあるメディカルケアセンターからは感染の疑いのある患者さんが出てしまい、感染リスクを避けるため2週間閉めてしまったのです。そんな街の状況を見ていて、今第一線で戦っている人たちの心が折れてしまったら、この街を支える人たちがいなくなると、危機感を持ちました。どうにかして自分たちが、街や医療従事者を支えないといけないと思いました。

医療施設にランチを届ける岩澤オーナーシェフ

医療施設にランチを届ける岩澤オーナーシェフ

最初はこの店だけで一日10〜15食のランチを毎日作って、近くの病院や福祉施設などに届けていました。ただ、それでも原価が一日5000円かかり、1か月で15万円にもなります。店舗の売り上げも下がる中、正直容易なことではありませんでした。

するとそんな私たちの状況を見て、お客さんや周りの人たちが好意で寄附を募ってくれたのです。寄付はわずか数日の間に30万円が集まり、使いきれないくらいに到達しました。街のカメラマンに相談をしてみたところ、『余った資金を原価量として渡したら、病院へのランチ提供に協力してもらえるかもしれない』と、教えてくれました。そして彼が自主的に商店街の飲食店やお菓子屋さんに声をかけてくれて、協力者がどんどん集まってきたのです。

コロナ禍で自然にできた地域支援の流れ

この医療従事者応援プロジェクトが発足した経緯を聞くと、岩澤氏、フィリッポが地域とのつながりを大事にし、信頼関係を築いてきたからこそ実現できたのだということがよくわかる。地域ではさらに、自然な「支えあい」の循環が、さまざまな場所でできていた。

岩澤さん:店に食事にきたサッカースクールの社長にも活動の声をかけると、たちまちサッカースクールの生徒さんが、牛乳パックの募金箱を作って持ってきてくれました。それを店頭に貼って置いていたら、ますます寄附が集まってきたんです。あの時は、ただひたすらみんなで一致団結して医療従事者をバックアップしようという気持ちでいっぱいでした。決して儲かる仕事ではないし、疲労を感じることもあったけれど、みんな同じ思いで、支え合っていたんです。

地元のサッカースクールの生徒が牛乳パックで作ったサッカーボール募金箱

地元のサッカースクールの生徒が牛乳パックで作ったサッカーボール募金箱

岩澤さん:町のカメラマンが石神井のテイクアウトマップを無料で作ってくれたり、若手のエンジニアは無料のテイクアウトアプリをゼロから作ってくれたりしました。こんな助け合いが、緊急事態宣言下の石神井では至る所で見られたんです。

最初は自分たちが誰かを助けようと思って動いていたけれど、いつの間にか助けられる側にも回っていて、自然に支援の流れができていました。だから自分も、この自然な流れを途絶えさせずにつないでいこうと思ったんです。たとえば、町のカメラマンにはフィリッポのテイクアウト用のチラシの作成をお仕事として依頼したところ、活動が行政の目に留まり色んな方から引っ張りだこです。テイクアウトアプリを作ってくれた若手エンジニアも、大手企業に紹介したところ、無事に採用となりました。

ここで助け合った人たちは、それぞれに予想以上に良い影響がありました。お金ではない価値で街が循環し、今まであったつながりがさらに強くなったと感じています。

石神井のテイクアウトマップとフィリッポのテイクアウト用チラシ

石神井のテイクアウトマップとフィリッポのテイクアウト用チラシ

地域に根ざすレストランの「食育」という役割

フィリッポがこの期間に起こしたアクションは医療従事者の支援だけではない。4月のある日に、お店のFacebookを見ていると、こんな投稿がされていた。

外出自粛中のこどもたちへ。1日限定10枚だけどピッツァの生地あげるからお家で焼いてみてね!お父さんお母さんに相談して取りに来てね。

コロナウィルスへの対抗策のひとつとしても、免疫力を高め、健康的な身体作りをしていくことは重要だ。岩澤氏は、まず食への関心を持つこと、そして食生活の改善が、健康への第一歩だと言う。

岩澤さん:自分の口にするものが何であるのか理解して食べていれば大丈夫ですが、そうでないと問題です。子供たちは自分たちが食べるものに対して、正しい判断をできません。自分の周りの子供たちにもアレルギー反応が起きているのをひしひしと実感しているからこそ、子供たちの食生活を見直して健康体になれる食のサイクルを作っていく必要があると思います。

普段の営業でお客さんに料理を説明する時も、『美味しい、珍しい』というところではなく、『固いけど、健康的な肉なんですよ』といった説明をします。脂のない、しまった筋肉の赤身肉は、噛めば噛むほど美味しいです。これが価値ある、質の高いお肉だと思うのです。

他にも、例えばトマトは一般的には甘いものが良いとされていますよね。でも、実は甘いトマトには栄養素があまり含まれておらず、甘くないトマトの方が栄養素は高いのです。その甘くないトマトの旨味を最大限に引き出して美味しくするのが料理人の仕事だと考えています。健康的な食事を提供すること、そして健康になるには何を食べれば良いのか、という“食育”をしていくのは、レストラン・シェフの役目なのです。

厚生労働省が平成27年に行った国民健康調査結果によると、20代の男女に聞いたアンケートでは、男性は2人に1人、女性は3人に1人が、週に2回以上外食をしているという。外食産業は市民の食生活に深く関わってきており、国民の健康を考える上で、レストランは大きな役割を担っている。『健康的な食事の提供』は、今後の飲食店の絶対条件になってくるだろう。

オーナーシェフ岩澤氏

オーナーシェフ岩澤氏

危機の時こそ、お店に関わる人を大切に

新型コロナの影響は、世界中で雇用の問題も引き起こしている。国内の5月の完全失業率(季節調整値)は2.9%と前月比0.3ポイント悪化し、完全失業者数は197万人と同19万人増えた。今後もおそらくその数は増えるだろうと予測される中、岩澤氏は雇用問題に対しても様々なアクションを起こしている。

岩澤さん:自分の周りでも多くの飲食店経営者がお店を閉め、それにより多くの料理人が異業種に転職しています。料理人が食から離れてしまうと、日本の食文化を維持できなくなってしまいます。世界で戦えるようなシェフたちを、今は既存のお店がどうにかして守って行かなければいけない。その人たちを受け入れる受け皿が必要なのです。この店では、次の時代に向けて料理人を潰さないために、コロナ禍であえて採用をしました。7月にスタッフが2人増え、現在12人体制で毎日営業しています。

ここにくるお客さんは、誰もが何かで疲れているかもしれない。でもこのお店に来ると元気がもらえると言われます。その理由の一つは、ここで働くスタッフはとにかく元気なメンバーが集まっているからです。

オープン前のスタッフ打ち合わせの様子

オープン前のスタッフ打ち合わせの様子

これを聞いて、筆者自身も納得した。ここで働くスタッフは、みな笑顔だ。そしてこの笑顔を見ていると自然に心が満たされ自分も笑顔になる。岩澤氏をはじめ、フィリッポの多様なスタッフからエネルギーをもらえるのだ。また、フィリッポにいくと、毎週音楽家たちの生演奏を聞くことができる。

岩澤さん:街を明るくするには、食文化と同じく音楽の文化も守っていかなければいけません。最近は動画やSNSで簡単に音楽を聴けるため、街中の流しが減ってきて、生音を聞く機会がなかなか持てない時代ですが、やっぱり生音は特別です。それをお客さんに感じてもらいたいのです。そして気持ち良いと感じてくれたお客さんにはポチ袋に演奏料を入れてもらい、音楽家たちの支援にもつなげたいと思っています。

音楽家のためのポチ袋

音楽家のためのポチ袋

雇用した仲間や音楽家の生演奏のおかげで、お客さんも元気をもらえる。お店とその周りの石神井では、そんなプラスのエネルギーが循環している。

『信頼』を軸においた、支え合う経済

1時間のインタビューでも収まりきらないほど、いくつもの方面から社会問題に立ち向かうアクションを起こし続けていたフィリッポ。新型コロナの猛威により誰もが弱っていたこの時期に、なぜ、フィリッポはこんなにも強くいられたのだろうか。それは、自分やお店単独の力だけでは成り立ち得なかったと、岩澤氏は語る。周りの仲間たちの支える力が、フィリッポや石神井公園の街全体を強くしていたのだ。

岩澤さん:今まではずっと、見返りを求めずに自分のできる範囲で、活動をしてきました。でも今は周りの人がみんな見てくれています。情報社会のおかげで、良い情報も一瞬で広がります。そうして共感した人たちが助けに来てくれ、より大きな結果につながるのです。コロナ以前と今とでは、周りの人たちとの付き合い方が確実に変わりました。今回つながったメンバーはとても強い絆で結ばれていると感じています。

石神井公園の商店街

石神井公園の商店街

今、岩澤氏が新たに始めようとしているのは、料理人が全国の生産者を周りながら「料理」という価値を提供し続けられるように、日本全国で料理人の拠点となるラボを開くプロジェクトだという。店がなくても、お金ではない利益を見つけ、料理人の価値を維持できる場所を作るために、仲間を集め計画中だ。

岩澤さん:日本の社会に与える飲食店の影響はとても大きいです。これからの飲食店経営において大切なことは、『やり抜く力』だと思います。これから起こることは前例がないから誰もわかりません。だから、自分を信じて今必要だと思ったことはとにかくやり通すしかないのです。

編集後記

インタビューの最後に、岩澤さんが最も大事にしていることを伺った。その答えはシンプルで、『命』だった。

岩澤さん:命のあり方を見直すこと。利害関係を考えずに手を取り合い、共感することを確認し一緒に生きる社会になれば良いと思います。結果的に頑張っている人が、お金を稼げる環境になったら一番良いですよね。

筆者もコロナ禍を経験し、改めて食の価値やそれを取り巻く社会課題、人とのつながりなどについて深く考えるようになった。飲食店の在り方に正解はないが、フィリッポはサステナブルな飲食店のひとつの理想的なお手本だと感じた。

誰かのために、日々本気で生きている彼らの姿からエネルギーをもらったインタビューとなった。

【参照サイト】PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO

Edited by Motomi Souma

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