“可哀そう” “貧しい”
難民という言葉から連想されるイメージを尋ねると、多くの人から出てくる言葉。
実際、日本人400人に対して行われた「難民という言葉から連想されるイメージ」についてのアンケートによると、「戦争・迫害」などの回答のほかに多く挙げられたものの中に、「可哀そう」や「大変な」といったネガティブな形容詞があった。
そんなネガティブな印象を打ち破り、“カラフルな”世界を、日本にいる難民と共につくろうと奮闘している人たちがいる。
難民の人たちの「可能性」に焦点を当てて活動を行う、NPO法人「WELgee」だ。
団体名は「WELcome(歓迎)+refugee(難民)」から来ている。しかし、単に日本にやってくる難民を歓迎し、彼らに支援の手を差し伸べる団体ではない。WELgeeが活動で大切にしているのが、”友人として接すること”と、“共に社会をつくること”。支援者―受益者という関係性ではなく、友人として接し、共に未来をつくっていく仲間として接することを大事にしているのだ。
目指すは「自らの境遇にかかわらず、ともに未来を築ける社会」。今回は、そんな社会を目指して活動を続けるWELgeeで、難民はもちろん、企業や寄付者とのコミュニケーションや関係性の構築に携わるPR部統括の林将平さんに、WELgeeの活動や団体としての想いなどをお伺いすることができた。
難民の人たちのスキルを日本で活かす「JobCopass(ジョブコーパス)」
「可能性」、つまりポジティブな側面を伝えながら、難民の人たちへの就労支援や彼らを交えた交流の場づくりなどを行うWELgee。代表の渡部さんが事業を始めたきっかけと、林さんが活動に携わることになったきっかけには共通のものがあった。「可哀そう」「何もできない」というイメージとは違い、ユニークな個性や優れたスキルを兼ね備えた“一人の人間”としての難民と出会ったことだという。
「難民といっても一括りにすることはできず、それぞれが多様なバックグラウンドを持っています。戦争によって若いうちに国を追われ、勉強を続けることができずに日本へ逃れてきた人、医者やジャーナリストとして働いていた人。その他、独裁政権下にある母国で民主主義を得るために声を上げていた人や、激しく弾圧を受ける少数民族の人々を雇用するために起業した方など、実にさまざまな人がいます。」
そんな一人ひとりのスキルや個性を知ってもらうためにさまざまな活動を始めたWELgee。そのうちの一つが、現在力を入れて取り組んでいる就労伴走事業「Job Copass」。それぞれが持つ経験や能力が、「難民だから」という理由で活かされないのはもったいない――そんな気持ちから始められ、プロフェッショナルなスキルを持った人をブルーカラーではなくホワイトカラーの企業に紹介し、マッチングを行う。
これまでに8名の方がITエンジニアや新規事業の担当など、さまざまな業種で雇用されたそう。しかし、採用までの道のりは決して簡単ではなさそうだ。
「難しいことの一つに、難民の方の心理的な状況があります。難民の方のおよそ8割がアフリカ大陸から来ており、文化の違いや異国の地日本での生活における心理的負担を感じている人が多いです。そんな中での就労支援と言っても、私たちの働きかけだけではなかなか難しいところがあります。彼ら自身の主体性やコミットメントも必要なので、そこの部分の伴走も必要になってきます。」
企業にとっても難民にとってもハッピーな働き方を追求する
そんな難民たちの精神面のサポートに加えて苦労しているのが、企業への働きかけだという。「難民という人は信頼できる人なのか、彼らを雇用することは合法なのか」など、難民と呼ばれる人がそもそもどういう人なのか知らないという人も多く、前提として難民を雇いたいという企業が少ない。
そこで重要なのが、企業の人に実際に難民に会ってもらい、難民自身の人となりを知ってもらうこと。そして会社のビジョンを意識しながら伴走すること。
「素の顔や彼らの良さを知ってもらうためにまずは対面で会ってもらい、一緒に話をするところから始め、難民を採用するポジションをつくるところも一緒にやっていきます。また、実際に働き始めたあとに現場で起こる衝突や課題にどう対応していくかも一緒に時間をかけながら考えていきます。」
「あとは、経営者のトップの方がつくりたい社会や未来の中に、難民の方たちの存在をどういう風に入れていくかも意識しています。意思決定者やトップの方にちゃんと納得してもらい、彼らが作りたい社会を“一緒に”つくるために、一方的に押し付けるのではなく、企業にとっても働く難民の方たちにとっても、ハッピーな就労のあり方を目指しています。」
雇う人、雇われる人、お互いにとって働きやすい環境を目指し、働き始めてしばらくの間は定期的に企業や難民との面談の機会を設けている。相談に乗り、一つひとつの壁を取り払っていくことは長期的な就労のためには欠かせないことだそう。そんな大変な長期伴走の事業ではあるが、嬉しい報告を受けることもあるようだ。
「難民の方が就職をした現場で、企業さんから『難民という人とどう向き合えばいいのか』、『従業員が英語や外国語を話せない中でどう対応したらいいのか』といった相談がありました。しかしそんな中、徐々に社員さんたちの間で、英語を学ぶ意欲が高まっているという報告をもらったことがあります。現場で、難民の人と日本人の社員がお互いに歩み寄る姿が垣間見えるときはすごく嬉しく、そういった場を少しずつ増やしていきたいと思います。」
ユニークな個性が垣間見える場づくりを
そんな就労伴走事業の傍らWELgeeが行っているのが、「日本の人々に難民について知ってもらうための活動」。参加者と難民との双方向的なコミュニケーションの場であるWELgeeサロンや企業向けセミナー、子ども向けのイベントなど、さまざまな人を対象に活動を行っている。その際に意識していることは、ただ伝えるだけではなく、「いかにポジティブに伝えるか」だという。
「私たちは彼らのエネルギーや個性をいかにそのまま発信できるか考えています。例えばWELgeeサロンは、母国のイランで『女性だから』という理由で歌うことが許されなかった難民が得意な歌を披露するなど、一人ひとりがそれぞれの特技や個性を発揮することができる場であり、参加者に『名前を持った一人の人間』としての難民を知ってもらえる場でもあります。そんな、難民の人たちの『人柄』が見えるWELgeeサロンなどを通して、難民というラベルに隠れた一人ひとりの背景を知ってほしいなと思っています。」
WELgeeサロンだけでなく、さまざまな交流の場をつくっているWELgee。実際にイベントを開催している中でどのような手ごたえを感じているのだろうか。最近、「自分たちの想いが届いた!」と思う瞬間があったようで、そのときの話をしてくださった。
「先日難民の方と一緒に子ども向けのセミナーを開催しました。セミナーの始めに、参加してくれた小学生や中学生に難民のイメージを尋ねると、やはり多くの子どもたちが『可哀そう』や『貧しい』と答えました。しかし終了後に同じ質問をしたところ、一緒に参加した親御さん含め、『難民のイメージが変わった』と言ってくれる人が多くいました。」
「難民の方が、自分が逃れてきた経緯を終始ポジティブに伝えてくれたことで、変化が生まれたのだと思います。普段生活している中で、難民の人たちと出会う機会はほとんどなく、レッテルを貼ってしまっていたけれど、実際会ってみると印象が違ったと話してくださる人もいて、やはり直接会って声を聞くことが『難民』というラベルを剥がす力があると感じた瞬間でした。」
「今日本にいる時間を無駄にしたくない。」
その他、イベント以外の場所での嬉しかったエピソードも教えてくださった。
「あと、印象的だったのが、コンゴ民主共和国出身で、産婦人科の研修医として働いていた方です。独裁政権の中で声を上げていた一人で、命の危機を感じて日本に逃れました。そんな彼が言っていたのが、『いま日本にいる時間を無駄にしたくない』ということ。自分は今日本にいて、一方で祖国では頑張っている同志がいる。その中で、自分は日本で先行かない未来に打ちひしがれているだけではいけない、自分にできることを考えて動きつづけなければならないと言っていました。」
大変な状況の中でも力強く語られた彼の言葉は、その言葉を聞く私たち日本人を鼓舞するほどのパワフルさを持っているように感じられる。
コミュニケーションを諦めないこと、我慢強く人として接していくことが大事
これまで、共に活動をする難民の人たちの個性や能力などポジティブな側面が垣間見れるエピソードを多く伺ったが、そもそも難民の人たちにとっても、「ありのままでいること」は簡単なことではないように感じられる。彼らが素をさらけ出すことができるように意識していることや大事にしていることはなんだろうか。
「コミュニケーションを諦めないことです。国籍も文化も価値観も生まれてきた経緯も全部違う、他者としての難民がいて、その人たちのことを知り、信頼してもらうことはすごく時間がかかります。しかし、彼らが持っている複雑性とか多様な要素をきちんと汲み取り、人として諦めずに対話をすることが大事だと思っています。」
「もちろん、彼らの気持ちがダウンして連絡が途切れることもありますし、きれいごとだけではいかないこともありますが、それでも何とかコミュニケーションをとり、繋がることが大事だと思っています。」
また、難民の人たちにとっての課題の一つに、友人など頼れる人がいないことや、情報の不足など、社会的に孤独であることが挙げられる。そんな中で大切にしているのが、スタッフとしてではなく、人として、友人として関係を築き、接することだ。
「人として理解をするために、事業の中でかかわるだけでなく、一緒に夏祭りに行ったり、相談に乗ったりと、友人として付き合っていくことをずっと心掛けていて、WELgeeとしての活動の方針にもなっています。」
これから、日本人と難民たちが共生していくために必要なこと
最後に読者のみなさんへのメッセージをお伺いしたところ、林さんは、悩みながらもこう話してくださった。
「今の日本だと、自分の半径3メートルくらいの場所、自分の身近なところだけで生きている人が多い気がします。そんな中で、難民の人たちに想いを寄せること、特に彼らが逃れてきた複雑な事情に想いを馳せることは簡単なことではありません。私たち一人ひとりがエネルギーを使って、その人のことを知ろうと行動しなければ、理解できないことが多くあると思います。」
しかし、いつでもどこでも素早く情報を手に入れられる現代であるがゆえに、SNS上の情報のみの理解にとどまってしまうなど、物事が単純化されてしまっていると林さんは言う。
「一人の人の背景とか複雑な部分に対する想像力が大事だと思っていますが、例えばTwitter上で書くことができる140文字の中で伝えられる情報は限られてしまうし、その中では多くの場合、単純化されたセンセーショナルな情報が拡散されがちです。そのため、異なる背景を持つ方々の複雑な状況を想像する機会が少なくなっているように感じます。その中では、文字を通しても日常生活を通しても、難民の背景や個性を知ることは難しいと感じます。少しずつ交流の機会が増えていき、変わっていけばいいなと思います。」言葉だけでは伝わらない、実際に会うからこそ感じられる「人の魅力」は多分にある。これまでそのような交流の場を提供してきたWELgeeの林さんだからこその、説得力ある言葉だ。
「難民もそうですし、『障がい者』や『LGBTQ』など、人をカテゴライズしたりレッテルを貼ったりすることは、ものすごく強い影響を人にも社会にも与えていると思います。しかし今、一人ひとりの背景やユニークさに光を当てていくことが、難民以外の団体でも活発になってきています。」
「多様性に目を向けて、『この人ってこんなことできるんだ』『こんな料理作れるんだ』といった発見をすることは、新しい世界を見ることであり、楽しいことです。違いをポジティブに捉えることを意識して、チャレンジしてほしいです。」
取材後記
国内のニュースではたびたび、日本へやってくる難民は「経済難民」が多いと報じられている。しかし実際は、迫害によって祖国を逃れざるを得なかった人たちが数多く存在するのが現状だ。そんな彼らのほとんどは、難民として認められず、不安定な状況で毎日を生きることを強いられている。
先述した、コンゴ民主共和国で産婦人科医で働いていた男性は、今ヘルスケアの分野の大学院で学ぶ傍ら、病院で勤務をしているという。そんな彼が言ったのが、「日本で医者になることは難しいと分かったが、それでも日本とコンゴの若者たちを繋ぐようなことをしたい。だから今勉強をしているし、病院で働いている。」という言葉だったそう。
今日本には、このコンゴ民主共和国の男性のように、エネルギーや熱い志に溢れた難民がたくさんいる。その人たちが「難民だから」という理由で活躍の場を失うことがないような、そしてレッテルによって個性を埋没させることがないような、日本社会と難民の双方にとって“WIN”になるような制度の構築が必要だ。
これからもWELgeeは、「難民の顔」が見える活動を通して、“難民という言葉の先にあるユニークな個性”を伝え続ける。そんなWELgeeと、その仲間たちがつくる世界はきっと明るくてカラフルだ。
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