無理のないサステナブルな都市生活をサポートする。slowzのマップ型ポータルアプリ

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現代の都市生活はとにかく至れり尽くせりだ。

徒歩圏内には当たり前にコンビニエンスストアやスーパーマーケット、カフェや雑貨店が並ぶ。鉄道や地下鉄は数分おきに発着し、街には昼夜を問わず人が行き交っている。その一方で、便利な都市生活の裏側には大量のごみ処理やホームレス、犯罪数の増加など様々な社会問題が息を潜めている。

2015年に国連が掲げた国際目標「SDGs(持続可能な開発目標)」への人々の関心は日々一層の高まりを見せており、自身のライフスタイルをより持続可能な形へ変換したいと考える人も多いだろう。しかしながら「便利になりすぎた」都市生活の中では、流行が絶えず到来しては過ぎ去り、日々膨大な量の情報が行き交っている。その目まぐるしさゆえ、理想のライフスタイルの模索にすでに疲弊している人もいるのではないだろうか。

そこで今回、そんな困りごと多き都市でのサステナブルな暮らしを応援するマップ型ポータルアプリが誕生する。それが「slowz(スロウズ)」だ。

「莫大且つ点在する情報をうまく扱うことができず、行動を起こす前にモチベーションが下がってしまう。」「サステナブルな暮らしに興味があるけれど、同じ関心を持った人との交流がなくなかなか行動が続かない。」といった、都市生活ならではの課題や悩みにアプリを通して寄り添うslowzの新たなサービスとは。

アプリの開発に携わるslowzのプロデューサー 田中滉大(たなか・こうだい)氏とslowzの事業戦略・マーケティングを担う花岡里仲(はなおか・りな)氏に、事業誕生の背景とそれにかける想いを伺った。

左:花岡里仲氏、右:田中滉大氏

当たり前に無理がない都市と生活をつくりたい

slowzは2020年12月4日にβ版をローンチした最新のスマートフォン用アプリケーションサービスだ。初期実装機能として、ジャンルごとに地域のサステナブルな店舗を検索できる機能、各店舗の営業時間やサステナブルなポイントをまとめた情報閲覧機能、そして検索した店舗の情報を保存できる機能が備えられている。

マップから、各エリアでサステナビリティに取り組む店舗を検索できる

これにより、分散している地域のサステナビリティ関連店舗の情報を集約し、都市に住む人々のサステナブルなライフスタイルの構築をサポートする。今回のβ版アプリでは東京都渋谷区に所在する店舗を対象に情報を掲載するが、今後は東京都全域や京都市、横浜市など日本各地にその取り組みを広げていく予定だ。

slowzの事業戦略とマーケティングを担当する花岡氏は、slowzが目指す社会の姿について次のように話す。

花岡氏「slowzが定義するサステナブルとは、『当たり前に無理のない社会と生活の状態』です。暮らしのなかでサステナビリティに取り組もうとすると、これまでのライフスタイルを一部否定したり、地球環境のために自己犠牲を強いられたりするのではないかという固定概念があると感じています。しかし私たちはサステナビリティのおよぶ範囲を自然だけでなく社会・経済・生活にも広げ、一人ひとりが当たり前に無理のない状態を維持しながら地球のサステナビリティ全体に貢献できる状態を目指しています。」

さらに、花岡氏はslowzの新たなサービスの特徴についてこう話す。

花岡氏「暮らしのサステナビリティ、すなわち暮らしの持続可能性を確保するためには、生活のなかで個人ができる小さな行動を一人ひとりが長期的に継続する必要があります。そこでslowzでは、『情緒的に良いと思える、サステナブルな選択肢』を可視化することで、人々が心地よくサステナブルな行動を続けていくサポートをしたいと考えています。加えて、自分の小さな行動が社会にどんな影響を与えているのか、自分の行動にはどんな傾向があるのか、といった『行動の成果』を可視化したいと考えています。『自分の日々の取り組みが社会に良い影響を与えている』という事実を目に見える形にし、人々のモチベーションを維持することがサービスの目的の一つです。」

slowzアプリの機能展開(イメージ)

「個人の社会的責任」にアプローチ

slowzのサービスが誕生するに至ったきっかけは、slowzを運営する建築クリエイティブスタジオNoMaDoSのなかでプロデューサーの田中氏がこれまでに取り組んできた活動にある。

田中氏「私は社会人1社目にデジタルメディアの会社に就職しました。そこではウェブやデジタルの領域を飛び出し、地方創生や学生支援など実社会でのマーケティングを数多く経験しました。その後独立を果たし2019年度にはNoMaDoSとして、とある国際アワードへ都市建築に関わるアイデアを応募し、ショートリストに選んでいただきました。」

田中氏は国際アワードでのショートリスト選出やそれに関わるリサーチの中で、サステナブルな都市づくりは世界的に今後一層注目を浴びる領域であると考えた。しかし、さらに詳しくリサーチをしていくと、国家のサステナブル化という観点では日本は他国に遅れを取っているように感じたという。

田中氏「私が応募したアイデアは人工タンパク質を用いて都市に建築を作るというもので、それによって建築業界の天然資源への依存から脱却することが目的でした。このアイデアは国際アワードという場所では評価されましたが、果たして日本国内では評価されるのだろうか、関心を持ってもらえるのだろうか、と考えてみたときに日本はまだまだ他国と温度差があることを感じました。同時に、日本の将来はこのままで大丈夫なのだろうかという不安を抱かずにはいられませんでした。」

日本国内でも、CSR(企業の社会的責任)を問う声が多く上がっており、企業や国、自治体を通じた社会貢献活動には拍車がかかり始めている。その一方、生活レベルにおける「個人の社会的責任」を果たす行動を、私たち一人ひとりがどれだけ実行できているだろうか。

田中氏「知識として知っているかということと、生活レベルで実際に行動しているかということは全く別問題です。私は、企業や自治体単位での活動に加えて個人単位でのアクションを促すアプローチとサポートが必要なフェーズにあるのが今だと感じ、人々の『暮らし』に寄り添うサービスを作りたいと心に決めました。」

slowzのサービスはまさに個人へ働きかけ、個人のライフスタイルの構築を後押しするツールの一つになりうる。自分の求める暮らしとはどのようなものであるか空想で描くことはできても、それを実現するまでの道のりは平坦ではないことを、私たちは知っている。slowzのアプリを通して、自分自身が心地よいと感じるライフスタイルを長期的視点から追求できる環境が生まれることに期待がかかる。

自分の価値観に寄り添った行動をする心地よさを知る

花岡氏はこのslowzのアプリを通して、ユーザーに価値観と行動を一致させる心地よさを体感してほしいという。知識や情報は持っているけれどそれが行動に結びついていない、あるいは自分の価値観や信念を持っているけれどそれを言語化できていない、そんな人にこそslowzのサービスを利用して欲しいそうだ。

花岡氏「私自身も、サステナビリティやSDGsに関する情報を見聞きするなかで、その理念や概念に共感する場面が多くあるにも関わらず、それを実際の行動で体現できていないときにジレンマを感じます。その一方、自分の思いが共鳴する思想や哲学に沿って行動ができているときはとても心地よいです。個人の持つ価値観を蔑ろにせず、むしろそれに沿った行動をすることで得られる心地よさを、ぜひ多くの方々に実感していただきたいです。」

取材の様子(左・花岡氏、右・田中氏)

また、田中氏はその心地よさの根元にある時代背景について次のように考察する。

田中氏「これからの社会を担うミレニアル世代とそれに続くZ世代は、生まれた時からすでに様々な社会課題に晒されてきました。環境問題や人権、生物多様性など数えればきりのない社会課題、いわゆる『負の遺産』に対して、その解決のために行動すべきだという使命感と、自分自身の幸せも追求したいという願いの間で板挟みになり常に罪悪感を持って生きている、そんな世代なのです。これまではその罪悪感から目を背けてきた面もあったと思いますが、今こそ私たちの感じる罪悪感をオープンにしお互いを受け止めた上で、どのようにしてその罪悪感を減らしながら心地よさを確保することができるのか、課題感を共有すべき時ではないでしょうか。」

目指すのは一人ひとりの個性が光るカラフルな社会

slowzでは今回のβ版アプリのローンチを皮切りに、サステナブルなライフスタイルにおける関心層へのアプローチに力を入れ、様々な立場のユーザーとともにサービスのあり方を模索していきたいという。

その取り組みの一つに、今後slowzがアプリ内に導入予定のチェックイン(口コミ投稿)機能がある。slowzのチェックイン機能では、従来の口コミ投稿サイトが採用している星印の数によって店舗を評価する仕組みをあえて導入せず、ユーザーそれぞれが感じたことを素直に言葉にできる環境づくりを目指している。

花岡氏「社会という団体としての平均的な評価だけではなく、個人の感じ方を大切にできる社会であって欲しいと願っています。人々の標準的な感想や評価が必ずしも自分個人の感じ方と合致するとは限りません。自分にとって素晴らしい何かと出会える機会があるかもしれない時に、団体が評価した星の数だけを見て判断して、新しい出会いのチャンスを逃すようなことがあって欲しくないのです。ぜひ個人としての感じ方を積極的に共有していただき、皆で心地よいサービスを作り上げていきたいです。」

そして、田中氏はslowzのサービスを通して多様性を認め合う社会の構築に貢献したいと話す。

田中氏「私たちには、サービスを提供するにあたり実現したい社会があります。それは、slowzという一つのサービスで一色に塗りつぶされた社会ではなく、それぞれがもつ個性を発揮できるカラフルな社会です。私たちのサービスが一人でも多くの方に届くことを願っていますが、slowzのアプリはあくまでもツールの一つにすぎません。slowzが共有する価値観を普遍化、一般化するのではなく、すでに個々が持っている『感覚』に無理のない状態でアプローチしながら、自分なりのサステナビリティを心地よく楽しむことができる環境を提供する。それが私たちの思いです。」

最後に、slowzの今後の展望について伺った。

田中氏「これからは、slowzアプリの機能追加・展開と並行して建築クリエイティブスタジオNoMaDoSの強みである都市デザインや建築設計に関わる技術を活かして、ハードウェアのアウトプットにさらに力を注いでいこうと考えています。そしてそこに、slowzのアプリがもつ様々なデータや社会課題解決に向けたアイデアを掛け合わせることでユーザーに寄り添った事業を展開していきたいです。」

取材後記

今回のslowzの新たなマップ型ポータルアプリについて最も注目した点は、「行動の成果の可視化」だ。すでに本記事で触れたように、社会貢献というテーマでは、社会のために行動するのか、それとも自分のために行動するのか、という二極化した議論によって目的を図ろうとしてしまうことが多々ある。しかしながら、最も理想的なのはそのどちらも追求できることであるし、そうでなければ無理のない持続可能な社会は実現できないのではないだろうか。

slowzのサービスを活用することで、自分の幸福追求の行動が、社会ひいては地球のためになっていることを体感できるようになるだろう。そこに向けて、まずは私たちユーザーが手を取り合い、思いを共有し、互いの行動を認め合う必要がある。

slowzアプリのβ版ローンチは2020年12月4日だ。初期サービス提供地域の人々だけではなく、サステナブルな暮らしに興味を持つ全ての人々にアプリを利用していただきたい。そして、サステナブルな都市生活を共に作り上げる仲間として、slowzのサービスに参画してみてはいかがだろうか。


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【参照記事】”都市生活をサステナブルにスイッチ”するアプリ「slowz」の開発をスタート。

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