「LGBTQ+をどう描く?」P&Gが見せる広告業界の葛藤。多様な性が「当たり前」な社会を目指して

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人の認識や価値観は、何気なく日頃、目にしたり耳にしたりしているものによって形作られる。たとえば私たちが日々、目にする広告にLGBTQ+(を含む性の多様性)が描かれることは珍しい。多くの場合、お父さんは男性、お母さんは女性。こう描かれているだろう。その結果、私たちのジェンダーに関する認識もおのずと「お父さんは男性、お母さんは女性が当たり前」となりがちだ。

しかし、世界的には約10%の人が性的少数者と言われており、日本で2019年にLGBT総合研究所が行った調査によると、10人に1人がLGBTQ+、性的少数者だということがわかった。しかし、世界最大級の広告賞カンヌライオンズで2018年に選ばれた133の広告にLGBTQ+の人が出演する広告はわずか1.9%しかなかったという(※1)。実態を反映しない広告表現が私たちの固定観念をつくり、ひいてはLGBTQ+の人たちへの理解を阻んでいるともいえるのではないだろうか。

こうした問題意識から、世界最大の消費財メーカーP&Gは、LGBTQ+アドボカシーメディア大手のGLAADと協働し、LGBTQ+を包括した広告やマーケティングを行う、「見える化プロジェクト(The Visibility Project)」をローンチした。100万ドル以上の費用をかけて3年にわたって実施する。

P&Gが描いてきたLGBTQ+

プロジェクトの目標は、世の中には多様な性自認・性的志向・性表現があるということを当たり前にしていくこと。自分と違っているからといって「普通ではない」と決めつけない社会にすることだ。そのために、多くの人に影響力のある広告を活用し、LGBTQ+がさらに受け入れられ、生きやすい社会をつくろうという試みである。

P&Gはこのプロジェクトの前にも、性の多様性に関するさまざまな取り組みを行ってきた。

トランスジェンダーのモデルを起用した髪の広告

たとえば、P&Gのブランドの一つであるパンテーンは2018年にフィリピンで放映したCMにはトランスジェンダースーパーモデルのケビン・バロットを採用。性的少数者を励ますメッセージを打ち出した。

クリスマスの家に「帰りづらい」問題を描いた広告

また、2019年にはGLAADと協働し、米ロサンゼルスの性的少数者コーラスグループの美しい歌声に乗せて、44%の性的少数者がクリスマスシーズンに家族の元に帰ることをためらってしまう問題を伝えている。

今回のプロジェクトは、こうした取り組みをさらに拡大するための挑戦といえる。プロジェクトの初期段階として、ビジネス誌「フォーチュン」が選ぶ急成長企業100社の中から賛同する広告主を募集し、ブランドや企業が影響力を重視しつつ、LGBTQ+を包括し、正確で信頼できる広告のための事業を行う。ここで、いい事例を蓄積し、さらに他のブランドや広告業界全体にも取り組みを拡大していく予定だ。

「P&Gにとって平等性は単なる最重要事項ではなく、責任です」Sustainable Brandの取材に対し、P&Gのブランドオフィサー マーク・ピッチャード氏はプロジェクトの重要性を強調する。

「世界大手の広告主の一つとして、広告とメディア分野における私たちの発言力を使い、LGBTQ+の見える化をする努力をしていきます。また、性的少数者の人々についての正確な伝え方を求め、偏見をなくし、平等をすすめる立場を取り続けます。本プロジェクトを通して、メディアにおけるLGBTQ+の可視性を高めるため、コミュニティのニーズをもっと学んでいきたいと思っています」

「LGBTQ+を正しく伝えたい」広告業界の葛藤

P&Gはプロジェクト立ち上げの一環で、「広告とメディアにおけるLGBTQ+のインクルージョン、広告主と広告代理店の視点」という調査レポートを発行。BtoB、BtoCそれぞれ半数ずつ、合計200のマーケティング、広告会社の役員を対象に行った調査結果を公開した。

調査によると、大多数の役員たちは広告やメディアの影響を認識しながらも、正しくない伝え方をしてしまった場合のリスクやLGBTQ+の包括性を高めることへの社会的反動を恐れていることが明らかになった。

たとえば、広告を制作する際にLGBTQ+の人々や、彼らに関するシナリオを描くことをすすめている広告主は33%、広告代理店は46%にとどまっている。このような認識の背景には、LGBTQ+をどう表現したらよいかわからない、という不安がある。調査によると、78%の広告主、31%の広告代理店が、その複雑さから、LGBTQ+を適切に表現することが難しいと感じていると回答。一方で61%の広告主と60%の広告代理店が、「広告においてLGBTQ+の人々や話題を取り上げることは世間の理解を助け、LGBTQ+の人々への尊重につながる」と、伝えることの重要性を認識している。

つまり、広告の中でLGBTQ+の人々や話題を伝えていく社会的な重要性は感じているものの、どう表現したらよいかわからず、リスクの方が気になるあまり、変化を起こすことをためらっている様子が浮かび上がってくる。

変化する広告への期待とこれから

しかし、人々は企業の心配をよそに、LGBTQ+を包括した広告や企業の対応を期待しているようだ。先述の調査によると、企業がLGBTQ+の権利を支持する広告や多様な性的指向に合わせた商品を販売するなどした場合、8割以上の人がその企業に好意を持つと回答している。

GLAAD の代表兼CEO であるサラ・ケイト・エリスは、Sustainable Brandに対し「LGTBQ+の見える化プロジェクト(The Visibility Project)は、社会に変化と受容を起こす広告の力を活用し、広告業界におけるLGBTQ+の包括性を高めるための新たなきっかけとなる」とプロジェクトの重要性を語っている。

多くの人が目にする広告において、LGBTQ+への包括性が高まることによって人々の認識がどう変化していくのか。進展に注目していきたい。

※1 Bias & Inclusion in Advertising

【参照サイト】The Visibility Project
【参照サイト】GLAAD’s Visibility Project and P&G: Advertising & Agency Perspectives on LGBTQ Inclusion Study
Edited by Kimika

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