ベルギーの医師が美術館への無料入場を「処方」。コロナ禍の心のケアに

Browse By

コロナ禍で不安やストレスを抱えたとき、それらを自分に合った方法で解消できているだろうか。厚生労働省が2020年9月に行った「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査」によると、不安やストレスを解消するために何らかの行動をしている人のうち、ストレスを解消できていると回答した人は46.3%、解消できていないと回答した人は20.7%、どちらとも言えないと回答した人は33%だったという(※1)

多くの人がストレスと上手に付き合う方法を模索するなか、ベルギーの首都ブリュッセルでは、医師が患者に「美術館や博物館への無料入場」を処方する試験的なプロジェクトが始まっている。実施期間は、2021年9月から3か月間。同プロジェクトを率いるのはブリュッセルの市会議員であるデルフィーヌ・フーバ氏だ。パンデミックが続くなか、「アートの力で、人々のメンタルヘルスを改善したい」というのが、同氏の想いである。

このプロジェクトに関わるのは、同市内の病院「CHU Brugmann」と、5つの公立美術館・博物館だ。現代アートを展示する「CENTRALE for contemporary art」、ベルギーの有名な銅像「小便小僧」のために作られた衣装を展示する「GardeRobe MannekenPis」、ファッションとレースの博物館「Fashion & Lace Museum」など、多彩な顔ぶれが参加している。

新型コロナの感染拡大により、多くの国で美術館や映画館などが休館・休業した。そのときにアートと出会う場が減ったことを、つらく感じた人もいるのではないだろうか。同様の取り組みは、ブリュッセル以外でも行われたことがある。フーバ氏がこのプロジェクトを思い付いたきっかけは、2018年にカナダ・フランコフォニー医師会(MFdC)とモントリオール美術館(MMFA)が提携して始めた「MMFA-MFdC Museum Prescriptions(美術館の処方箋)」だという。

医師が治療中の患者に、最大50回までモントリオール美術館の無料入館券を処方できる取り組みで、1年間の試験的なプロジェクトとして実施された。今回のブリュッセルの取り組みが、他の地域に影響を与えることもあるかもしれない。近年の研究では、アート鑑賞が不安や抑うつの兆候を改善させたり、幸福感をもたらしたりすることが示されつつあるという(※2)。アートは、医学的な治療に有効である可能性があるのだ。

もしあなたが、長引くコロナ禍で「最近気持ちが沈んでいるな」と感じたら、美術館や博物館に足を踏み入れてみてはいかがだろう。いつの間にか、健やかな気持ちが蘇ってくるかもしれない。

※1 「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査」の結果概要について
※2 知られざるアートの効用 ― 慶應義塾大学文学部教授 川畑秀明

【参照サイト】Delphine Houba, échevine bruxelloise de la Culture: “L’art peut être bénéfique pour la santé” | L’Echo
【参照サイト】Psychiatrists in Brussels can now prescribe museum visits for mental health issues | TheMayor.EU
【参照サイト】MMFA-MFdC Museum Prescriptions: Museum Visits Prescribed by Doctors
Edited by Kimika

FacebookTwitter