コロナ禍で院内感染が度々伝えられ、病院の衛生面にひときわ神経を尖らせている人も多いだろう。医療の現場では、医師や看護師は白衣を着て壁は白く塗られ、清潔さを保つ努力が行われている。これはウイルスや細菌、有害物質といったものに対する衛生管理だ。しかし医療施設は、その清潔感がどこか冷たい雰囲気も漂わせている。
英スコットランドのエディンバラに、患者の声を広く取り入れてデザインされた施設がある。外来は5歳~18歳、入院は8歳~18歳の患者を対象としている児童青年精神保健サービス(以下、CAMHS)だ。
メンタルヘルスの改善に有効な環境といわれる海辺をモチーフにしてデザインが始まり、幅広い年齢が心地よく感じられるデザインが施された。共同ラウンジには、灯台に着想を得た小部屋がある。清潔だが無機質なものではなく、若者にとっては家と病院の中間であるサードプレイスのような心地よさを意識した設計がなされている。
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この企画の中心となっているのは、Projects Officeチームを率いる建築家のベサン・ケイ、ジェームズ・クリスチャン氏と、メーガン・チャーンリー氏、そしてアートコンサルタントのGinkgo Projectsだ。クリスチャン氏は、「NHS(国民保健サービス)の予算が逼迫し、メンタルヘルスサービスの需要が高まっている今、優れたデザインは強力で費用対効果の高い治療のツールになると確信している」とウェブサイトで述べる。
資金を提供したエディンバラ子供病院チャリティー(Edinburgh Children’s Hospital Charity)のCEOローズリン・ニーリー氏は「子供や家族のストレスは大きい。施設を安心できる場所にする支援が重要」
と建築・デザインマガジンのDezeenに語った。
CAMHSでは建築デザインをするにあたり、ただ規定の建設ルールに則るだけでなく、多くの患者とその家族にアンケートを行い、また英国のアーティスト、リードビッター氏とのワークショップも実施した。このデザインは、当事者と一緒に作り上げたといっても過言ではない。
イングランドに生まれ看護師として従軍したナイチンゲールは、医療衛生を改革し多くの命を救ったことで知られる。スコットランドのCAMHSは、医療施設の精神衛生とデザインに着目してメンタルヘルス問題に切り込み、多くの若者を救済しようとしている。