落ち着いた部屋のレストラン。その真ん中には、白いテーブルクロスがかかった大きなテーブルがある。「今日のメニューは何だろう?」朝食会に招かれ、わくわくした気持ちで席に着いたゲストに、スタッフは告げる。「今日の朝食は提供できなくなりました」。
この「朝食が出ない」朝食会は、2023年5月、ロンドン市内のレストランで開催された。政府外務省関係者、レストラン評論家、英国の料理番組の出演者など、多様なゲストたちの席に置かれていたのは、銃弾がひとつ乗った皿、それからフォークとナイフだけ。
朝食会では、本来であれば、夏野菜のサラダやレンズ豆のスープ、ソルベなど趣向を凝らしたメニューがふるまわれるはずだったという。では、なぜそれらが提供されなかったのだろうか。
サラダが提供できなかったのは、野菜が育てられていた畑が、軍によって押収され、地雷が埋められてしまったため。スープは、市場への空爆によって材料の供給量が減り、価格が大幅に高騰したために、作ることができなくなってしまった。さらに、ソルベをつくる工場のタンクが爆撃にあい、製造不能になったため、デザートも提供できなくなってしまったという。このように、朝食が提供できなくなってしまった背景には「紛争」の影響があったのである。
また、実は用意されていたフォークとナイフも中央アジアの紛争地域で押収した銃弾を加工して作ったものだった。空っぽのお皿、銃弾、そして銃弾でできたカトラリー。イベントでは、これらを通じて、「紛争と飢餓には深い関係がある」ことが強く訴えられたのだ。
この「Conflict Cafe=紛争カフェ」と題されたイベントを主催したのは、飢餓撲滅を掲げるイギリスのNGO団体・Action Against Hungerである。
同団体によると、今もアフガニスタンやブルキナファソ、イエメンを含む58の国が紛争による食糧危機に直面している。また、深刻な飢餓(※)に瀕する人々は全世界で4,500万人おり、その70%は紛争の影響を受けているという。これを聞くと、「朝食のふるまわれない」状況はただのフィクションではなく、リアルに起こっていることなのだと感じられる。
紛争と飢餓に深い関係があるという事実や情報をそのまま発信するのではなく、「銃弾だけがのった皿」や「銃弾からできたカトラリー」を通して、直観的に課題を感じられるようにした今回のイベント。見る人の感情を動かし、受け手と課題の距離を効果的に近づけた例と言えるだろう。社会課題を「ジブンゴト」化させるアートやデザインの力に今後も期待が集まる。
※ 原文の英語表記はfamine。飢餓にはhungerという単語も使われるが、famineはhungerの中で最も深刻な状態を指す。
The facts: What you need to know about famine – MARCY CORPS
【参照サイト】Action Against Hunger’s Conflict Café leaves guests hungry for action (Action Against Hunger)
【参照サイト】NO MATTER WHO’S FIGHTING, HUNGER ALWAYS WINS (Action Against Hunger)
【関連記事】世界の食糧危機、フードシステムのアンバランスを解決する3つのアクション (IDEAS FOR GOOD)
【関連記事】車のナンバーが消えた?ドバイで飢餓を啓発する「空のプレート」キャンペーン (IDEAS FOR GOOD)
【関連記事】クックパッド、紛争下のウクライナで作れる料理のレシピを募集 (IDEAS FOR GOOD)