「再生型ビジネス」戦略の6分類と、実現への懸念とは?生態系として捉えた“本当の再生”へ

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ビジネスと自然の接続点として、炭素をめぐる議論が進んでいる。ライフサイクル全体でのCO2排出を相殺するカーボンニュートラルや、削減しきれないCO2を投資などで埋め合わせるカーボンオフセットなどが、まさにその代表例だ。

しかし今、カーボン排出のネットゼロ目標のように「事業による自然環境への負荷をゼロにする」という段階を超えて、「事業を通じて自然をより豊かにする」という積極的なアプローチが求められている。炭素を通じた地球へのダメージを相殺するに留まらず、より広い観点から、事業が続けば続くほど地球が回復していくビジネスモデルが必要なのだ。

こうした考え方は「再生(リジェネレーション)」と呼ばれ、すでに企業活動に取り入れる組織も増えている。特に、環境再生型農業を実践する企業や農家が増えており、農作物が原料となっているブランドにとって身近な再生型事業の一つだ。

ただし、再生型ビジネスは個々の取り組みが点在しており、全体としてどのような再生が実践されているのかは未だ捉えにくくもある。どんな分野で、何を対象として再生が行われているのだろうか。本記事では「再生」のカテゴリー分けと、現状の再生型ビジネス戦略に潜む懸念点を見ていく。

再生型ビジネス戦略における6つの分類

Ankita Das氏とNancy Bocken氏による研究論文によると、現在“再生型ビジネス”を謳う企業の取り組みを類型化すると、農業に限らず多様なセクターが再生という概念を掲げているようだ。再生型ビジネスを称する事業の戦略には大きく6つのカテゴリーがあり、下図のようにまとめることができるという。

再生型ビジネス戦略の類型

  • リジェネラティブ・リーダーシップ
      1. 主張に関する透明性のある検証
      2. サプライチェーンにおける新たな再生方法の創出
      3. 地球と人々のための利益の再投資
      4. 公平性と正義の擁護
  • 自然環境の再生
      1. 生物多様性の再生・保全
      2. 土壌の健康・土地の再生
      3. 生態系の回復
      4. 水域の回復・隔離
      5. 炭素隔離
      6. 森林回復・保全
      7. 海洋保全
      8. アニマル・ウェルフェア
  • 社会的再生
      1. コミュニティの再生
      2. 代替生計手段の創出 – 気候適応
      3. 意思決定における地域コミュニティの関与
      4. 公正な労働条件
      5. ステークホルダーの自然およびコミュニティへの接続
  • 責任ある調達
      1. 追跡可能なサプライチェーン
      2. 農家に対する公正な報酬
      3. 中小企業への支援
      4. 長期契約の約束
      5. 真の価格設定
  • 人の健康とウェルビーイング
      1. 人間の健康と幸福の再生
      2. 100%自然由来の製品
      3. 都市緑地の回復
  • 従業員レベルへの焦点
      1. 労働者への公正な賃金
      2. 公正な労働条件
      3. 意思決定への従業員の関与の強化
      4. 従業員の健康とウェルネスの向上

これらは15分野から84の再生型ビジネスを調査した結果だ。具体的な研究対象としては、チョコレートブランド「Fairafric」の原材料だけでなくすべての製造工程をアフリカで完結させるという企業方針や、オランダの大手スーパーのアルバートハインによる「真の価格スキーム」の導入、LUSHでの従業員による10%の株式保有の取り組みなどが挙げられた。ただし、一部企業では「プロジェクト」に留まっており、会社全体で捉えたときには再生型が実現されていないことも指摘されている。

再生型ビジネスの傾向と、懸念点

この研究を通して、再生型ビジネスの潮流も見えてきた。実践者の傾向として、組織規模は大企業とスタートアップレベルの両極に分かれていること、再生型の実現において公的機関やNGO、他社と協働していること、再生型に向けて新たなバリューチェーンの創出に取り組んできたこと、サステナビリティレポートや外部認証を通じて再生型であることを公表していることなどが共通して見られたそうだ。

一方で、こうして“再生型ビジネス”と称する取り組みが、「本当に環境負荷を克服して各分野の再生・回復を実現しているかどうか」を測ることは非常に困難だ。どんな指標を用いようとも、それは人間視点で見た「再生・回復」でしかなく、生態系システムの全体から捉えたときにそれが望ましい変化ではない可能性は大いにある。

あるニュースを例に、考えてみよう。2024年7月、ダークチョコレートなどカカオを含む食品に鉛やカドミウムなど人体に有毒な重金属が含まれていることが、米NPOの調査により明らかになった。しかし、この重金属が他の場所で見つかったら、どう表現されるだろうか。たとえば、重金属を取り込む習性のある植物を用いて土壌の浄化を行う、ファイトレメディエーションファイトマイニング。これは意図的に植物に金属を取り込ませているが、再生型の取り組みとして導入されることも多い。結局のところ、人間にとってメリットがある事象ばかりが、生態系にも良いものとされやすいのだ。

再生した先にある社会を想像する

つまり、自然界のどの側面が、誰にとってより良い状態になっているのかを、批判的に捉えることが重要だ。そんなとき、私たちはどんなことを意識すべきだろうか。

助けとなる考え方の一つが、マルチスピーシーズ類縁関係的な視点である。マルチスピーシーズとは、人間を含むあらゆる存在が影響を及ぼすつながりの中にあることを軸に世界を理解しようとする考え方。類縁関係も非常に近い考え方であり、すべての存在は類縁・親族として関わり合っていると捉える概念だ。

どちらも、人間を複雑な自然の関係性の一部と捉えて、それぞれの存在が何らかの影響を及ぼし合っていることに意識を向けるため、生態系から捉えた「再生」のあり方を理解するにあたって大切な視点であるはずだ。

改めて、現行の“再生型ビジネス”の分類を見てみよう。どの分野に取り組むとしても、自然と人、そして人同士が向き合い続けていく中で「より良い状態」の定義を見出していくことが求められる。事業全体を通じて再生した先にある「人間を含めた自然」は、誰の目から見てどうあるべきか──そんな議論が、本当の再生型ビジネスを実現させる後ろ盾になるはずだ。

【参照サイト】Ankita Das et Nancy Bocken, 2024, Regenerative business strategies: A database and typology to inspire business experimentation towards sustainability, Sustainable Production and Consumption, Volume 49, pp. 529-544.
【参照サイト】Mads Oscar Haumann : Do you recognize this feeling|LinkedIn
【参照サイト】ダークチョコから有害な重金属を検出 米で新たな研究|CNN
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