近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。
ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。
前回は「消費者コミュニケーション・マーケティング」を切り口に、各国の企業がサステナビリティを訴求するために行った“一風変わった”キャンペーンを紹介した。今回の欧州通信では「注目のサーキュラースタートアップ」をテーマに、各国で一目置かれている企業を紹介する。
【イギリス】廃棄されるパンからクラフトビールをつくる、ロンドンのスタートアップ
ReLondonというサーキュラーエコノミーを推進する行政機関が中心となり、スタートアップの支援を進めるイギリス。
ロンドンの「Toast Brewing」も、ReLondonとパートナーシップを結んでいる企業の一つであり、同社は廃棄されるパンを原料にクラフトビールを生産している。設立以来、300万枚以上のパンを救い出し、環境負荷の小さなビールづくりに挑んできた。パンの風味がビールに独特の深みとコクを与え、飲みやすさと複雑な香りのバランスが特徴だ。
このプロジェクトは、毎年イギリスで発生する約28万トンのパンの廃棄問題への対応として始まり、現在は他の醸造所にも「Companion」と名付けられたパンのクラム素材を提供している。この素材は、麦芽に比べて製造コストが低く、さらにCO2排出削減効果もあり、幅広い商業的可能性が期待されている。
同社がつくるビールはいまやロンドンでは珍しい存在ではなくなり、環境意識の高いスーパー・レストラン・カフェなどでは彼らのカラフルな缶をたびたび見かけるようになった。他の企業や国際的なビールメーカーとも連携し、新たなビールのスタイルを提案しながら、サーキュラーエコノミーの普及を目指す事例だ。
【参照サイト】Toast Brewing(ReLondon)
【フランス】リファービッシュ商品のマーケットプレイス「Back Market」
フランスのスタートアップエコシステムは、政府主導の「フレンチテック」政策により、2023年上半期にはフランスのスタートアップによる資金調達額が42億6,000万ユーロに達し、EU内で最大規模となった。特にクリーンテック分野での投資が活発化しており、前年同期比で26%増加している。
中でも注目したいBack Marketは、2014年にフランス・パリで設立されたリファービッシュ(整備済み)電子機器を専門に扱うオンラインマーケットプレイスである。環境保護を重視し、電子廃棄物の削減と持続可能な消費の推進をミッションに掲げている。提供する製品はスマートフォンやタブレット、パソコン、家電など多岐にわたり、品質管理が徹底されており、12カ月の動作保証と30日間の返金保証が付いているため、消費者も安心して購入できる。
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近年、Back Marketは急速な成長を遂げており、2023年には売上が前年比32%増加し、これまでに1,500万人以上の顧客に3,000万台のデバイスを販売した実績を発表している。これらの取り組みが評価され、現在は18カ国でサービスを展開し、グローバルな存在感を強めている。
日本市場にも2021年に進出しており、高品質なリファービッシュ製品の提供を通じて、持続可能な選択肢を広げている。Back Marketは、環境に配慮した消費と経済的なメリットの両立を目指し、新品製品の代替としてのリファービッシュ市場の拡大を推進している。
【参照サイト】Le spécialiste du reconditionné Back Market fête ses 10 ans
【参照サイト】フレンチテックに540億ユーロ、政府の次なる戦略は?(フランス)
【ドイツ】建物の材料をデジタル化。建設業界の循環移行を目指す「Concular」
ドイツも、スタートアップ育成に注力している。2024年の世界の国別スタートアップエコシステムランキングにおいて7位となり、欧州では英国・スウェーデンに次ぐ3番手となった。都市別ではロンドンとパリに次いでベルリンが13位となった。ベルリンには、多くのスタートアップが拠点を置いている。
ソフトウェア開発のスタートアップ「Concular」もベルリンに本拠を置き、建設業界の資源効率向上を目的とするデジタルプラットフォームを提供する。
プラットフォームは誰でも使用でき、既存・新築建物の材料をデジタル化することで、材料データバンクでの売買を可能にする。需要と供給が一致すると、解体現場から建設現場までの建材運搬を手配し、CO2と廃棄物の排出削減量を測定。これにより、販売・中間保管のコストとリスクを軽減し、ステークホルダーの協働と業界の循環移行を支援しているのだ。
2023年、シードラウンドで新たに4億円を調達し、新製品機能に投資することを発表した。
【参照サイト】世界の国・地域別エコシステムランキング(ジェトロ)
【オランダ】アムステルダム発欧州最大の資源循環プラットフォーム「Seenons」
英国のEU離脱後、ビジネス環境が充実し、多くの企業がEU市場の拠点としてオランダを見据えている。オランダは、その英語の通用度の高さとEU市場へのアクセスの容易さがグローバル企業や多様な人材を引きつける要因となっている。
また、オランダは世界で初めて、国家として2050年までにサーキュラーエコノミーを完全に達成することを公言。この野心的な目標は、国全体の環境政策やビジネス戦略に大きな影響を与えており、国内外の企業に新たなチャンスを提供しているのだ。
2019年に設立されたSeenonsは、アムステルダムに本拠を置き、廃棄物の資源としての再分配を推進する欧州最大のプラットフォームを展開。このプラットフォームは、ビジネスや自治体を含む広範な顧客に対応。廃棄物を新たな製品の原材料として活用することを可能にし、特に都市部の資源循環率を高めることに貢献。
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Seenonsは、200以上のパートナーと連携し、ベネルクス地域で15,000以上の場所で100種類以上のビジネス廃棄物の管理を行っている。組織が廃棄物管理をコントロールし、品質、環境への影響、価格に基づいて最適なパートナーを選択する柔軟性を提供する。このアプローチは、廃棄物コストとCO2排出の削減に寄与し、企業のゼロ廃棄物への道のりをサポート。
資金調達に関して、Seenonsは最新の資金調達ラウンドで1,024万ユーロ(約16億8千万円)を調達し、これまでに合計1,683万ユーロ(約27億6千万円)を調達している。
編集後記
いかがだっただろうか。世界で今、サーキュラーエコノミーが単なるトレンドにとどまらず、国を挙げて支援される重要な取り組みとして位置づけられ、数多くの政策やプロジェクトが誕生している。また、これらの活動は、環境意識の向上だけでなく、雇用の創出や地域経済の活性化にもつながっているのだ。
このような欧州の動向は、私たちにも大きな示唆を与えてくれるだろう。また、日本でもマーケティング専門メディア「日経クロストレンド」が作成した「トレンドマップ 2024下半期」の中で「サーキュラーエコノミー」が経済インパクトの伸び率で1位となっている(※)。
サステナビリティが浸透することで、新しいビジネスモデルが生まれ、消費者としても環境に配慮した選択が広がっていくだろう。
※ 日経クロストレンド「今後伸びるビジネス」2024年下半期ランキングを発表
【関連記事】スタートアップを生んで育てる。最前線の取り組み(欧州編)
Written by Megumi, Erika Tomiyama, Ryoko Krueger, Kozue Nishizaki
Presented by ハーチ欧州
ハーチ欧州とは?
ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。
ハーチ欧州の事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact
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