【2024年12月】修理ドキュメンタリー制作裏話から“ちょうどいい”生成AIまで。ニュースレター編集部コラム4選

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IDEAS FOR GOODでは、サステナビリティやサーキュラーエコノミーに関連するホットなトピックや、取材や視察で感じた現場のジレンマ、会議で交わされたリアルな議論、その他限定情報などを無料のニュースレターでお届けしています。今回の記事では、10・11月に配信された編集部コラムの中から一部を抜粋して掲載します。ぜひご覧ください。

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オランダのリペアカフェ密着取材から見えた、サーキュラーエコノミーに人を巻き込む3つのポイント

Written by Masato

2024年7月、EUで「修理する権利」指令案が発効されました。これにより、テレビや携帯電話などの11品目が購入から最大10年間、技術的に修理可能な製品の修理をメーカーに義務付けることや、純正メーカー以外の独立修理業者が修理できるよう、純正部品が適正な価格で販売されること、また修理を妨げるソフトウェアの禁止などが定められました。

リサイクル等に比べて最小限のエネルギーで製品を長寿命化する「修理」は、サーキュラーエコノミー実現の重要なカギであり、特に欧州では利用者がより簡単に、安く、早く修理を受けることができる権利を認める動きが盛り上がっています。

こうした「修理する権利」拡大の背景にあるのが、地域レベルで市民を巻き込み、リペア運動を盛り上げてきた、オランダ発祥のリペアカフェです。リペアカフェとは、壊れた家電や服、自転車など、あらゆるものを地域のボランティアが無料で直してくれる場所のこと。2009年にオランダの首都アムステルダムで生まれて以来、市民を巻き込み続け、現在アムステルダム市内では約40拠点に、世界では3,500拠点以上にまで広がるムーブメントに成長しています。

なぜこれほどまでにリペアカフェは人々を巻き込むことに成功しているのでしょうか。アムステルダムに住みながら、リペアカフェをテーマにドキュメンタリー撮影を行った筆者の経験から、3つのポイントをみていきたいと思います。

一つ目は、アクセスのよさです。リペアカフェは、ショッピングモールのイベントスペースや地域センターなど、市民の生活動線上で開かれ、参加費は無料もしくは少額の寄付となっています。そのため、老若男女問わず、通りがかりの人も参加しやすくなっているのです。市としても、サーキュラーエコノミーに関連する取り組み支援として、開催場所の提案や貸し出しなどをサポート。また、毎月決まった曜日、時間帯に定期的に開催することが多く(例えば第1水曜日19時から22時まで)、次第に地域の口コミで広がっているのです。

二つ目は、手触り感のある価値体験です。リペアカフェは、関わる人自身にとっても、社会にとっても、活動の価値が感じられる場になっています。例えばリペアカフェでは「壊れたものを安く直して使う」という経済的・実生活的な価値に加え、目の前で修理されるモノをみながら、「環境にとっても良いことをしている」という心地よさを実体験できると感じます。また、修理するボランティア側も、目の前の修理が成功して喜ぶ人から直接感謝されることで、「地域で暮らす誰かのためになっている」という実感を持つことができるのです。

三つ目は、多様な楽しみ方です。リペアカフェは、関わる人のモチベーションのレベルに応じて、様々な楽しみ方が用意されています。会場を見渡してみると、修理をしにきたのではなく、ただコーヒーを飲んで話しているだけの人もいます。そして、自分自身もボランティアになりたいと思った人に対して、修理の基礎を学ぶ講習会が開かれたり、修理のプロセスをそばで観察する機会を作ることも。このように、様々なモチベーションを持つ人を歓迎するために、入り口のハードルは低くしながら、それぞれにとってのリペアの楽しさを感じてもらい、徐々にモチベーションを高めていく仕組みがあるのです。

このように、リペアカフェの活動をみていると、アクセスのよさ、手触りのある価値体験、多様な楽しみ方といったポイントを組み合わせて、「気づいたら循環の輪の中に入っていた」という体験をデザインしているように思います。これらの視点は、企業や行政のサーキュラーエコノミーの取り組みにも生かせる点があるかもしれません。

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地域再生とジェントリフィケーションの狭間で。ロンドン・ハックニー地区で芽生える、小さな草の根運動

Written by Megumi

ロンドンでは10月の第1週に、行政機関・ReLondonが主催するCircular Economy Weekが開催されました。これはサーキュラーエコノミーに関するイベントやワークショップが開催される期間であり、筆者はその中の一つである「Circular Neighbourhoods」というイベントに参加しました。

その会場となったのはハックニー・ウィックという地域。東ロンドンの一部であり、かつては労働者階級の人々が多く住んでいた場所が、2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックを機に再開発され、いまはロンドンの最先端のカルチャーを牽引する街になりました。世界初のゼロウェイストレストランであるSiloも、このハックニー・ウィックの運河沿いに店舗を構えています。

Circular Neighbourhoodsのイベントでは、ReLondonとハックニー自治区のメンバーだけではなく、建築家や市民組織メンバーを巻き込んだ議論が行われました。軸にあったのは下記のような問いです。

  • リユースによってあなたの「近所」を取り戻すことができますか?
  • あなたの近所は「サーキュラーエコノミー」ですか?
  • コミュニティと環境に最も効果的に投資するにはどうすればよいでしょうか?
  • あなたにとってサステナビリティとは何ですか?

こうした質問の背景にあるのは、ロンドンのジェントリフィケーションの問題でしょう。現在ロンドン近郊で1LDKの物件を借りようとすると、平均的な相場は約27〜39万円。かつて若手アーティストやデザイナーが居を構えた地域は、次々と開発され、物件が買い占められ、住んでいた人が追い出される……もはや世界の大都市で定番ともなっているこの動きが、ロンドンでも顕著に表れています。

そしてそれは単に物件の値段を上昇させるということにとどまらず、かつてあったコミュニティを分断し、新しく建て替えたモダンな建物による動線が、人々のコミュニケーションを希薄にしていきます。

ハックニーは、まさにそうしたジェントリフィケーションの問題を抱えている地域です。しかし、そうした流れに抵抗しようと市民から動きが出ていきている、「希望が見える」地域でもあるのです。

Circular Neighbourhoodsのイベントに登壇していたReSpaceという団体は、独自の方法でジェントリフィケーションにメスを入れていきます。それは自治区の許可を取った上で、地域「空き家」を占拠し、コミュニティスペースに生まれ変わらせること。彼らは、荒廃した家を修繕することで、これまでにイベントスペースやギャラリー、スタートアップハブなどの場を生み出してきました。

また、イベントではロンドンという過密都市のポジティブな面を捉える視点が共有されました。ロンドンには現在900万人の人々が暮らしており、それが大量の廃棄物などの問題を生んでいるのですが、住民のほとんどがハイストリート(町の主要な繁華街)から10分以内のところで暮らしているというのです。

そうした「過密」な状況を利用して、ハックニーでは子ども向けのショーやマーケットなどが展開されるストリートパーティーが行われたことも。新参者でも気軽に入れるコミュニティがあるのは、大都市ならではかもしれません。

イベントでは「地域のサーキュラーエコノミー自体を“脱植民地化”するにはどうしたらいいと思うか?特定の人種が排除されないような取り組みは行っているか?」という鋭い質問も投げかけられました。当日それに対する明確な回答は得られませんでしたが、様々なバックグラウンドを持った人々が生活空間で度々入り混じるロンドンだからこそ、綺麗事ではない共生や対話のあり方が今後模索されていくかもしれません。

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生成AIの思わぬ“代償”。環境負荷を俯瞰的に捉えた、コンヴィヴィアルなテクノロジーのあり方とは?

Written by Erika Tomiyama

タスク管理や時事ニュース記事を読むときの要約、簡単なメール作成まで、まるで秘書のようにその役目を果たしてくれる、ChatGPT。システムに何らかの不具合が発生したときには「ああ今日は仕事の効率が下がりそうだ」と思うほどに、今や業務の中でAIテクノロジーはなくてはならない存在になっています。

最近では、Googleも検索エンジン内でAI機能を拡張し続けており、ユーザーが望むかどうかに関わらず、検索結果のトップにAIによる要約が表示されるようになっています。何百万人もの人々が日常的にAIツールを使う時代となった今、改めて考えたいのは、私たち使用者がその裏にある本当のコストや課題についてどれほど理解しているのかということです。

先日、Google、Microsoft、Amazonの各社がAIデータセンターのエネルギー需要に対応するため、立て続けに原子力発電への取り組みを発表したことが話題になりました。いずれも新しい原子力発電所の買収、投資、および建設支援への大規模な取り組みを発表しています。Googleは2019年以降、温室効果ガスの排出量を48%増加させており、他のハイテク企業もCO2排出削減目標を次々と下方修正しているのが現状です。

また、THE TIMESの記事によれば、Meta、Microsoft、GoogleのAIテクノロジーに関連する水使用量はいずれも2022年以降17~22.5%増加していると報じられています。例えば、ChatGPTを使って100語程度のメールを作成するだけで、飲料水500ml分と同じ量の水が使われ、iPhone Pro Maxを7回充電できるほどのエネルギーが消費されるといいます。私たちが日々の仕事で「数分」を節約するために使うAIが、どれだけ大きな環境負荷をもたらしているか。それは多くの人にとって、想像を超えるものでしょう。

AIの環境負荷は、エネルギーや水消費などの問題そのものだけではありません。AI Now Instituteは2023年のレポートで、AIの環境コストの地域間の不均衡が植民地主義の構造と似ていると指摘。AI技術の開発や運用に伴う環境コストは、特にグローバルサウスなどの地域に集中しているといわれています。例えば、フィンランドのGoogleデータセンターは97%がカーボンフリーで運営されているものの、アジアではその割合が低く、中東や北アフリカなどの乾燥地域では水消費が不均衡に増加しているのです。

もちろん、「テクノロジーは気候危機のゲームチェンジャーになりうる」という見方もあり、AIテクノロジーによって天然資源管理が最適化され、それによってCO2排出が削減される可能性もあります。一方で、それによる莫大なエネルギー消費量は、削減量に対して十分であるかということに関しては未だ疑問が残ります。

こうしたテクノロジーによるさまざまな問題が浮き彫りになっている今、世界で再び注目されている概念が、1970年代の思想家であるイヴァン・イリイチが提唱した「コンヴィヴィアリティ(自立共生)」という概念です。これは、テクノロジーが人々を支配するのではなく、むしろ人々の自由や自律性をサポートする存在であるべきだという考え方です。イリイチは、テクノロジーが人間の自立を助け、共に生きるための手段として使われるべきだと主張しました。

ドイツの脱成長研究者であるアンドレア・フェッターは、このイリイチの考えに基づいて100以上の基準を挙げ、テクノロジーがどのように社会に役立つかを評価するための基準を提示しています。その中には社会的な生産条件、使用時の幸福感、アクセスの平等性(オープンかつ社会的に包括的か、専門家に依存するものか)、そして環境への影響など、多岐にわたる要素を取り入れています。また、フランスで「ローテク」の概念を広めたフィリップ・ビュイは、修理可能性や再生可能資源の利用、公正な生産条件など20の基準を示しています。

私たちはどうすれば「ちょうどよい」形でテクノロジーと付き合えるのでしょうか。テクノロジーとサステナビリティのバランスを取ることは、AI研究者や開発者だけの責任ではなく、制度を作る政府や、最終的にAIを利用する私たちすべてに関わる課題です。欧州ではすでに、水とエネルギーの消費に焦点を当て、いち早く生成AIを規制するための法整備なども進められています。私たちが想像以上に「テクノロジーに支配」されている今、それをいつ、どのように使用するべきかについて、一度立ち止まって考える必要があるかもしれません。

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循環だけでは不十分。ごみをなくすには「小さく楽しく回す」経済へ

Written by Natsuki

11月2日、京都・同志社大学で開催されたシンポジウム「ゼロ・ウェイストを考える 〜サーキュラーエコノミーの実現に向けて〜」に参加してきました。メインのゲスト登壇者は、アメリカでゼロ・ウェイストを提唱し活動してきたポール・コネット博士。アメリカでの廃棄物の焼却処理の削減や、日本におけるゼロウェイスト宣言のサポートなどに尽力された方です。

今回のコラムでは、ポール博士の講演からの学びを、筆者が以下3つの視点に絞ってお伝えします。

  1. ごみの焼却は「証拠隠滅」?
  2. ゼロウェイストは循環への第一歩:サーキュラーエコノミー
  3. より少なく、より楽しく意義ある社会を

一つ目は、ごみの焼却をめぐる環境そして産業的な課題。ポール博士は、ごみの焼却を「証拠隠滅」と表現しました。ごみにせざるをえない商品デザインが採用されれば、ごみが増え、目に見えて溜まっていき、その商品による負の影響が知れ渡るはずです。

しかし焼却されることによって、その商品が「循環できないデザイン」であったことに気づくことができません。ひいては、焼却処理があることによって、私たちは過剰消費に疑問を抱くことができないと言います。そんな焼却という“貢献”があり、現在主軸となっているのがリニアエコノミー(直線型経済)なのです。

だからこそ、「ゼロウェイストはサーキュラーエコノミーへの第一歩になる」というのが二つ目の観点でした。処分方法に制限が伴うことで、企業は製品をつくる段階からデザインを見直すことになり、市民は不要になったものを捨てずリユースや正規の回収ルートに回し、必要なモノをリユース品で買うようになる……そんな変化が広がるとのこと。モノがごみにならず、資源として価値を持ち続ける前提に立ってデザインされることは、サーキュラーエコノミーへの大きな一歩なのです。

では、生ごみはどうでしょう。こちらも回収やリサイクルの仕組みが構築される必要があります。良い事例とされた国の一つが韓国です。韓国では20年以上前に生ごみの埋め立てを廃止し、生ごみのリサイクル率が95%にまで改善しています。こうしたアジアにも広がる取り組みに目を向けて、日本も焼却と埋め立てから脱却することが訴えかけられてきました。

三つ目は、経済を小さくしていくこと。ポール博士は、現在のごみ問題の背景として「過剰消費」を指摘します。今の消費レベルではモノの量が多すぎて、サーキュラーエコノミーへの移行は困難であり、そもそもの生産量と消費量を減少させるしかありません。

そしてポール博士は、講演において「私たちが挑戦すべきことは、より少ない消費で『いかに楽しむか』ということなのです」と力強く語りました。現在人々の努力は、より安くより多く消費するための工夫に割かれることも多いのですが、むしろ、より少ない資源で自分も他人も楽しく生きるための工夫に真剣になることが重要なのです。

ゼロウェイストについて語るとき、私たちは家庭でのごみ削減の努力や、買い物での工夫に閉じた議論に至ることも少なくありません。そうした議論に終始することなく、社会経済の構造も考えていく必要があります。

議論の焦点は「ごみを出さない暮らし」だけではなく「ごみを生まない社会」の実現方法も含むべきであるはず。個人の問題から仕組みの問題へと視野を広げることができるかどうか──そこに日本が超えるべき壁があるのかもしれません。

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