道端のタイルを剥がし、緑を植える。街の“呼吸”を取り戻すオランダの市民発プロジェクト

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コンクリートに囲まれた都市で暮らしていると、どこか息苦しさを感じないだろうか。木陰がない、土のにおいがしない、雨がすぐにはけてしまう──では、自分の暮らす街の一角に、もし緑を取り戻せるとしたらどうだろう。

オランダでは、都市のコンクリート舗装を剥がして緑を取り戻す市民主導のムーブメント「タイル剥がし(Tegelwippen)」が注目を集めている。その名の通り、家の前の歩道などに敷かれたコンクリートタイルを住民自らが剥がし、代わりに花壇や草木を植えるというもの。行政の支援を受けながら、全国規模で展開されている。

この活動の始まりは2020年。新型コロナウイルスによるロックダウンで自宅で過ごす時間が増えた人々が、都市の過剰な舗装に疑問を抱き、自らの手で緑を取り戻す動きが始まった。これが「NK Tegelwippen」という全国的なコンテスト形式での取り組みに発展し、現在では毎年、どの自治体が最も多くのタイルを剥がしたかを競い合う恒例イベントとなった。最も多くのタイルを剥がした自治体には「ゴールデンタイル」が授与される。2025年5月時点で、累計1,293万枚以上のタイルが剥がされ、約235ヘクタール(サッカー場約330面分)の緑地が新たに生まれている。

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この取り組みが注目される理由の一つは、行政主導ではなく、市民が主体となって公共空間を再生するモデルであること。オランダでは、家の壁から50センチ以内の範囲について、「市民が自ら手を加えてよい公共の一部」として制度的に定められており、舗装を剥がして植物を植えることが認められている。こうした制度に裏打ちされた自由度の高さが、市民の積極的な参加を促しているのだ。住民が自らの手で街を緑化することで、地域への愛着やコミュニティの結束が強まる効果も期待される。

こうしてオランダでは、近隣住民が協力して舗装を剥がし、花や草木を植える光景が各地で見られるようになった。また、行政もこの動きを支援しており、剥がされたタイルを回収する「タイルタクシー(Tegeltaxi)」サービスを提供する自治体もあるほどだ。

Image via Tegelwippen

欧州環境機関によれば、2000年から2018年の間に、EU域内では約1万6,000平方キロメートルの土地が新たにコンクリートなどで覆われたという。これは、東京23区の約7倍、あるいはロンドン大都市圏の2倍以上に相当する面積である(※1)。近年はそのペースがやや鈍化しているものの、それでもなお、毎年およそ700平方キロメートル、サッカー場に換算すると9万面分もの土地が「密封」され続けている。

そうした結果として、都市部ではヒートアイランド現象や豪雨による浸水被害が深刻化し始めている。舗装を剥がして緑地を増やすことは、熱を逃がし、雨水を地中に浸透させやすくするため、これらの問題への有効な適応策となり得る。Tegelwippenは、ただ花を植えて街をきれいにするだけの活動ではないのだ。

今では、この取り組みはオランダ国内にとどまらず、隣国ドイツにも波及している。デュッセルドルフやハンブルクなどの都市では、住民が舗装を剥がして芝生や花壇、ベンチを設置する取り組みが進められており、ドイツでは「Platzgrün!(緑の広場)」という名前のプロジェクトで都市空間の再緑化が進められている(※2)

日本では、自宅前の道路と敷地の間の微妙なスペースは公道または行政の管理地となっており、「勝手にいじってはいけない」「行政の管轄だから」という意識が根強いかもしれない。一方、オランダでは「公共」とは、制度に支えられながらも市民が自ら手を加え、育てていくものと認識されている。この草の根の運動が教えてくれるのは、「足りないなら、自分たちでつくる」という選択肢が市民に開かれているということ。都市の未来は、必ずしも巨大な計画によって変わるとは限らない。誰かが一枚のタイルを剥がすところから始まる、そんな未来もあるのだ。

※1 Land cover and change accounts 2000-2018
※2 Unsere Stadt-Aktion „platzgrün!“

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Edited by Erika Tomiyama

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