気候変動解決に向けた、世界のできごと【2025年ハイライト】

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2024年の冬、日本ではイチョウが舞う異例のクリスマスを迎えた。

そして2025年の冬、再び同じような光景を目の当たりにしている。一方で、気候変動による局地的な大雪の危険性が指摘され(※1)、誰もが少なからず四季のめぐりの異変を感じ取っているだろう。

それほどまでに、地球の“当たり前”が変わりつつある。2025年10月に公開されたレポートは、サンゴの大量白化現象が進行したことで元に戻れなくなる「転換点」を超えたと報告。これを、CNN「地球が『新たな現実』に突入」と報じた。

しかし、そんな今だからこそ、気候変動を取り巻く進退を丁寧に追うことが大切である。本記事では、日頃から世界のソーシャルグッド事例をウォッチするIDEAS FOR GOODが2025年に注目した「気候変動に関する出来事」を振り返っていく。

2025年に起こった、気候変動をめぐる10のハイライト

01. 2024年の世界平均気温、史上最高と発表(1月)

年始の一報は、雲行きの怪しいものだった。去る2024年の世界の平均気温が「史上最高」を記録していたことが公表されたのだ。特に、産業革命以前と比べて「1.5度」以上の上昇幅に到達したことが注目を集めていた。

しかしこのとき編集部が問うたのは、その「1.5」という数字がなぜこれほど重視され、現実をどこまで反映できているのかという視点。「1.5度超過」というナラティブが隠してしまう不公正な気候変動被害の現状に光を当てた。

ある年の平均気温が1.5度を超えたからといって、まるで機械のスイッチを押すように、急に生態系が崩壊するわけではない。むしろ注視すべきことは、1.5度を“超える”前であっても、すでに世界各地で気候変動の影響を被る人々がいること。そして「1.5度を“超えた”」という表現やナラティブが強調されることで、誰かの発言や視点を覆い隠してしまっていることである。

あえて「1.5度」の縛りから外れて、今の地球の現状とその公正さを真っ直ぐに捉え直す──この気候正義の観点は、2025年を通じて重視されるものとなった。

「1.5度」が隠してきたこと。2024年の気温上昇幅がそれを“超えた”今、国際目標の正義を問う

02. イギリス初「気候正義」の学部創設(2月)

2024年に続き、教育現場での気候変動を学ぶ機会が広がっている。2025年2月、イギリスのサセックス大学は気候正義に焦点を当てた学士課程を開設することを発表した。2026年9月から実際に学生が学び始める予定だ。

1年次には「脱炭素化と脱植民地化」、2年次には「正義の争いと、自然界との関係」をテーマとして学び、3年次の研究に続く。フィールドワークや地域と連携した授業もあり、環境保護に貢献する仕事に必要なノウハウと能力、つまりグリーンスキルを提供するとしている。この背景としては、学校で気候変動について学ぶ機会を求める声が上がっていることや、企業からもグリーンスキルを持った人材が求められていることがあるそうだ。

2024年には気候教育が広がり、2025年も少しずつ展開された。教育の成果はすぐには実らないものの、仕組み化や機会の増加は長い目で見た変化に繋がるはずだ。

イギリス初、「気候正義」の学部が創設。需要高まるグリーンスキルの獲得へ

03. フランス政府、適応策を公表(3月)

2025年3月10日、フランス政府は第三次国家気候適応計画(PNACC3)を発表。世界の平均気温が2100年までに最大4度上昇する可能性があることを前提に、数十の対策を提示し、環境移行・生物多様性・森林・海洋・漁業大臣であるアニエス氏の適応することは諦めることではない」というXでの投稿文が注目された。

カーボンニュートラルの目標が達成されたとしても、化石燃料の燃焼による影響は続くことから、科学者らは2100年までにフランスの気温が産業革命以前と比べて平均で少なくとも4度上昇すると予測。この結果を受けて適応計画の策定が不可欠であると判断されたのだ。さらに政府は、一連の適応策のために約6億ユーロ(約957億円)を割り当てることも発表した。

脱炭素に再生可能エネルギー、グリーンテックといった気候変動の影響を緩和させる取り組みは、言わずもがな世界各地で推進されている。しかしそれでも被害が止まることはない現実に対し、フランスのように「適応」を掲げる動きが加速しているのだ。

気候変動への「適応」は諦めではない。フランスが“4℃上昇”に備える計画を発表

04. 気象庁、日本の気候変動の最新分析を公表(3月)

国内でも、3月26日には文部科学省・気象庁が、2020年の初公表から5年を経た第二版『日本の気候変動2025 ー大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書ー』を公表。近年の猛暑・大雨が地球温暖化なしに起こり得なかったことが明記された。

例えば、日本では猛暑日や熱帯夜の日数が増え、冬日の日数は減ると予想されている。さらに、工業化前の気候で「100年に一度」と危惧される高温の日が、4度上昇シナリオではほぼ1年に1回発生するほど、頻度が高くなることも新たに公表された。どんな気候変動アクションにもデータという土台が重要となる中で、日本の現在地を示す重要な報告書となるだろう。

日本の気候変動、どうなる?気象庁が全国・都道府県別の最新予測を公表

05. ウェザーニュースがYouTubeで気候変動番組をスタート(4月)

イギリスやフランスでテレビ番組・天気予報を通じて日常的に気候変動に触れる機会が増える中、ついに日本でも動きが見られた。4月18日、株式会社ウェザーニューズが、気候変動に焦点を当てたYouTubeの新シリーズ「100年天気予報」を開始したのだ。毎週金曜日に約30分配信しており、気象データをもとに気候変動が社会や未来に与えるさまざまな影響を解説する。

2025年12月現在、多くの動画が1〜3万回ほど再生され、中でも5月16日配信の「100年天気予報〜海面上昇が生活に与える影響は?〜」は9.3万回再生にまで到達した。気候変動の基礎や変わり続ける現状を、身近に学び続けられる場が広がっているのだろう。

100年後の天気はどうなる?ウェザーニュースがYouTubeで気候変動番組をスタート

06. グリーンクレーム指令の断念で揺れる欧州委員会(6月)

気候変動をめぐる法規制を推進してきたEU。しかし2025年6月、欧州委員会が最終交渉を前にして、グリーンウォッシング防止のためのグリーンクレーム指令の撤回を検討していることが報じられた。後日すぐに、欧州委員会は「グリーンクレーム指令は撤回されない」との姿勢を明確にし、混乱を収めようとした。

グリーンクレーム指令とは、2023年3月に提案され、根拠なく環境に優しい製品などと謳うことを取り締まることを目指すもの。環境ラベルなどが厳格化されることで、気候変動対策が進むのではないかと期待される一方、6月の動きからもうかがえるように、反発の声も少なくないだろう。

垣根を超えて協働しなくては気候変動に立ち向かうことができない中、どのようにして足並みを揃えることができるのか。未だそこに答えはなく、揺らぎ続けている世界の様子が垣間見えた。

【参照サイト】Commission to kill EU anti-greenwashing rules|POLITICO
【参照サイト】EU委員会、グリーンクレーム指令は撤回されないと確認|ESG News

07. 「人がいるからこそ実現する生物多様性もある」との研究結果(6月)

2025年6月12日に公開された学術誌Nature Sustainability掲載の研究が、「人口減少は必ずしも自然環境を回復に導かない」という結果を示した。東京都市大学 環境学部の内田圭准教授の率いる研究チームが、人口の増加する地域でも減少する地域でも、多くの場合生物多様性は減少していることが明らかになったのだ。つまり、人口が減少すれば生物多様性が自ずと改善するとは限らない。

この研究が日本をフィールドとした調査であったことも注目すべきポイント。人口減少が進む158地点の里地里山を対象に、450種以上の鳥類・カエル類・昆虫類と、約3,000種の植物の中長期にわたる生物種数・個体数の変化と、人口・土地利用の変化との関係を解析した。すると、人口減少が必ずしも種や個体数の増加に繋がっていないと示すデータが得られたのだ。

人間が必ずしも環境への負荷を与える存在ではない。そんなメッセージとしても受け取れる希望ある研究であった。

「人がいなくなれば自然が戻る」は間違い?日本の研究が示す、生態系の一部としての人間の役割

08. 国際司法裁判所が歴史的見解。気候変動対策の法的義務あり(7月)

2025年7月23日、国際司法裁判所(ICJ)が歴史的な意見表明を行なった。ICJは、各国が「環境への重大な損害を防止する義務」を負っており、気候変動の抑制に「誠意を持って協力」しなければならないとの勧告的意見が、全会一致で採択されたのだ。つまり、国が気候変動対策を怠ることは国際的に法律違反として見なされる可能性が示された。

ことの発端は、2021年9月にバヌアツが気候変動への勧告的意見を求めると発表したこと。その後国連に働きかけ、2023年3月に国連が各国の気候保護に対する義務と、脆弱な国々が義務を果たせなかった場合の対応についてICJに見解を求めていた。今回、それに対する応答が得られた形だ。アントニオ・グテーレス国連事務総長は「これは私たちの地球にとって、気候正義にとって、そして変化をもたらす若者の力にとっての勝利だ」とメッセージを発信した。

ICJの見解自体は法的拘束力を持たないものの、各国の政策に波紋を広げる出来事となった。

【参照サイト】Climate: Historic ICJ opinion on the obligations of States|United Nations
【参照サイト】World Court says countries are legally obligated to curb emissions, protect climate|United Nations

09. COP30閉幕。石油燃料の使用で意見分裂(11月)

2025年11月10〜21日、ブラジル・ベレンにて国連の気候変動対策会議「COP30」が開催された。今回の大きな前進の一つが、気候変動への適応策の資金を3倍にするとの合意が取れたこと。ただし、文書には今回の決定に関して「2035年までに適応ファイナンスを少なくとも3倍にする努力を呼びかける」と記載され、必ずしも法的拘束力や罰則を伴うものではないことがうかがえた。また、昨年に続き公正な移行や、「損失と損害」基金の運用に向けた協議について前進が見られた。

しかしCOP30では、化石燃料の使用方針をめぐって意見が分裂。会期を延長して、現地時間11月22日まで議論が続けられた結果、最終文書には化石燃料についての言及が掲載されないこととなった。この結果に対してはネガティブに捉える反応も多く見られた。

COP30要点まとめ。「最終文書に化石燃料への言及なし」という結果が物語るものは?

“森を守る者たち”のCOP30。気候危機の最前線で、先住民族が結束【現地レポート】

 10. 企業による情報開示と実質的インパクトの議論が巻き起こる(12月)

パタゴニアが2025年11月13日に公開した、154ページに及ぶ最新の報告書『Work in Progress Report 2025』。これが議論を呼んだ。自社のサプライチェーンが抱える構造的な課題から、理想とはほど遠い環境負荷の実態まで、包み隠さず示す姿勢が称賛を集めた一方、「正直さが現状維持のためのカモフラージュになっていないか?」という疑念の声も挙がったのだ。

どんなに環境負荷を軽減した商品であっても、その生産と消費には環境への負荷が伴う。だからこそ一部の識者は真にサステナブルな取り組みは「生産量を減らすことではないのか」と問いかけているのだ。一方で、企業による情報開示や改善の取り組みをつぶさに批判すればグリーンハッシングに繋がりかねない。

パタゴニアの報告書をきっかけに始まったこの議論は、「どれを買うのが正解か?」という問いから、「それは本当に必要か?」という問いへ踏み込み、サステナビリティの核心を議論すべき現状を照らし出しているのかもしれない。

企業の「正直な開示」は素晴らしくも危うい。パタゴニアの報告書が突きつけた、サステナビリティの“次なる”問い

政治とビジネスの狭間で、気候変動対策の行く末は

一年を振り返ってみると、時期を問わず話題となったのは間違いなくAIとの関わり方であった。AIの開発・使用に伴う環境負荷に対して指摘が集まると同時に、環境負荷を軽減できるプロンプトが開発されるなど、課題と解決策の両方が多面的に模索され試行錯誤が重ねられた年でもあった。

AIは環境の“味方”か、それとも新たなリスクか?貢献と負荷のトレードオフを考える

そんな一年を遡ると、2025年のはじめ、来たる年の動向をポッドキャストで語った。その中で注目したのが気候変動の「政治化」。実際にCOP30にはパリ協定の離脱を表明したアメリカは政府高官を派遣せず、日本も高市首相が参加を見送ったことは、世界の現状を象徴するかのようだった。

一方でそれは、企業や非営利組織が気候変動の取り組みを後押ししていることを浮かび上がらせた(※2)。政治や法律などの大きな潮流は広く影響を与える一方で、個が支え合うエコシステムを築くことは少なからず変化の土台となる。社会の3.5パーセントが動けばムーブメントになる「3.5%の法則」にもあるように、数の強みもあることを忘れてはならないのだ。

今年、IDEAS FOR GOODでは500を超える記事を公開してきた。それは、500もの「社会をもっと良くする」アイデアやプロジェクト、それを超える実践者が存在することを意味する。どんな状況の中でも、多くの光を見つけることができるのだと信じたい。

※1 地球温暖化でも“極端な大雪”の危険性が増すのは、なぜ?|ウェザーニュース
※2 WWFジャパン  

Edited by Natsuki

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