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SNS誹謗(ひぼう)中傷問題

SNS誹謗中傷とは?(What is a problem with online slander)

SNS等のプラットフォームサービスの普及に伴い深刻な社会問題となったインターネット上の誹謗中傷について、あなたはどこまで知っているでしょうか。「誹謗」は「悪口を言うこと」、「中傷」は「根拠のないことを言って他人の社会的評価を下げること」つまり、根拠のない嫌がらせや悪口などを投稿することで、他人の名誉を傷つけることを指します。

近年、インターネット上での自由なコミュニケーションが可能になった一方、匿名のまま不特定多数に向けて特定個人の誹謗中傷を書き込んだり、特定個人のアカウントに対して一方的に誹謗中傷のメッセージ等を発信したりする事例が多く発生しています。

特に今、著名人のSNS投稿に対する読者のネガティブなコメントが日々多く散見されるようになり、書き込みをされた人が精神的苦痛を訴えるなど、大きな社会問題となっています。一度過ちをおかした人を徹底的に排斥する、キャンセルカルチャーなどの問題も発生しています。

度が過ぎた誹謗中傷行為を行った場合は、名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪、業務妨害罪などの罪に問われることもあります。そういった行為が、永遠に消えないデジタルタトゥーにつながることも。

ここでは、具体例を交えながら、誹謗中傷の問題をわかりやすく解説します。

SNS誹謗中傷問題に関する数字と事実(Facts&Figures)

  • 総務省が運営する違法・有害情報相談センターで受け付けている相談件数は高止まり傾向にあり、令和元年度の相談件数は、受付を開始した平成22年度の相談件数の約4倍に増加(総務省
  • インターネット上の人権侵害情報に関する人権侵犯事件は、平成29年度に過去最高(平成13年の現行統計開始以降)の件数を更新し、令和元年度は過去2番目に多い件数を記録(総務省
  • 全国の20代から60代のSNSを利用している男女770人に対して行われた調査によると、20代の3割弱がSNSで他者から誹謗中傷をされたことがあると回答。全体の7%が誹謗中傷をしたことがあると回答した。(BIGLOBE
  • 全国の20代から60代の男女1,000人に対して行われた調査によると、著名人が一般人と比べて発言や行動を強く非難されやすいことについて「仕方ないと思う」が16.9%、「やや仕方ないと思う」と答えた人が39.5%。6割弱が、著名人は非難されやすいのも仕方ないと考えていることが明らかになった。(BIGLOBE
  • 全国の20代から60代の男女1,000人に対して、SNSでの誹謗中傷に対する罰則を強化すべきかという問いには、「そう思う」(50.3%)が最も多く、続いて「ややそう思う」が34.8%、全体の8割強が罰則を強化すべきと考えていることが分かった。(BIGLOBE

SNS誹謗中傷問題の例(Now)

一般人の間での誹謗中傷

2019年8月、茨城県の常磐自動車道で会社員の男性があおり運転を受け、その後あおった車の運転手に殴られる事件が発生。加害者の車に同乗していた女性は、暴行の様子を携帯電話で撮影しており、この時の映像がテレビ等で放送され話題となりました。

その映像の服装が似通っているという理由から、事件とは無関係の女性が加害者の車の同乗者だという偽の情報がインターネット上で拡散され、個人情報までが特定されました。この女性のSNSには「自首しろ」などという投稿が相次いだほか、無実が証明された後もしばらく誹謗中傷が続きました。

芸能人への誹謗中傷

1つの出来事をきっかけに誹謗中傷された木村花さん

人気リアリティー番組に出演していたプロレスラー・木村花さんが、番組内での言動を巡ってSNS上で誹謗中傷を受け、2020年5月に自死しました。SNS上では木村さんに対し、「死ね」「消えろ」などの書き込みが多数されています。

家族や友人にも誹謗中傷の被害が及んだ、ジャーナリストの伊藤詩織さん

望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして、元記者の山口敬之さんに1100万円の損害賠償を求めた訴訟を起こしたジャーナリストの伊藤詩織さん。実名で公表した後、インターネット上で書き込まれた事実に基づかない誹謗中傷の投稿により、精神的苦痛を受けてきました。彼女に対する誹謗中傷は、主にTwitterやまとめサイト、YouTubeといったSNSで書かれていました。

また、書き込みを行う人は一般人だけでなく、影響力のある人にまで及びました。2020年8月には、「枕営業大失敗」と描かれた女性のイラストや関連したツイートをめぐり漫画家はすみとしこさんら3人を提訴。Twitterで伊藤さんを誹謗中傷する複数の投稿に「いいね」を押したとして、自民党の杉田水脈衆院議員に220万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴しています。

10年間、誹謗中傷され続けてきた春名風花さん

「はるかぜちゃん」の愛称で知られている女優の春名風花さん。春名風花さんは、9歳の頃から10年間、SNSやネット掲示板などで誹謗中傷され続けてきました。きっかけは、2011年に東京都の青少年育成条例に対してSNSである発言をしたこと。子どもとは思えない鋭い発言で話題を呼びましたが、同時に誹謗中傷のメッセージも増えていきました。

具体的には「殺す」「ナイフで滅多刺しにしてドラム缶にセメント詰めて殺したい」というような誹謗中傷が送られてきたと言います。その後も誹謗中傷は止まず、身内を侮辱するような投稿も相次ぎ、耐えられなくなった春名風花さんは、誹謗中傷してくる犯人を特定するため、2018年の10月にプロバイダに対して発信者に情報開示を求める控訴を起こします。その控訴を起こしたことで、一年後、東京地裁はプロバイダに対して発信者の氏名や住所などの開示を命じました。

原因・背景(Cause&Background)

こういったSNS上での誹謗中傷が問題となった背景として挙げられるものの一つに、スマートフォンの普及と、それに伴うSNSの利用時間の増加があります。

  • プロバイダ責任制限法が成立した2001年以降、インターネット上のサービスは多様化。
  • 特に、スマートフォンの普及に伴い、モバイル機器によるSNS等のソーシャルメディアの利用時間は、2012年から2018年までの7年間で約4倍にまで伸びている。(総務省
  • 13~19歳のスマートフォン・携帯電話所有率:87.4%うち、スマートフォン83.8%、携帯電話10.4%(総務省
  • 2018年、中高生のネット依存数は約93万人(=中高生全体約650万人の7人に1人に当たる計算)(厚生労働科学研究成果データベース

さらに、事態を悪化させる原因として、被害者が容易に被害を訴えることができず、泣き寝入りせざるを得ないシステム上の問題が挙げられます。具体的には以下のようなものがあります。

  • 弁護士費用が数十万円かかる
  • 訴えるために誹謗中傷の内容を確認する必要があり、当事者の心理的負担になる
  • 削除や凍結、ログの期限切れの恐れなどから迅速な対応が求められる
  • 請求時に権利侵害が明らかでないと、匿名の中傷者の情報が開示されない
  • プロバイダが誹謗中傷した人のログを保存していないと、本人を特定する情報につながらない
  • SNS事業者に対する投稿のIPアドレスの開示請求と、プロバイダやキャリアに対しするIPアドレスの個人情報を求めた開示請求の両方の手続きが必要である

現在、総務省では個人情報開示請求のプロセスを定めた「プロバイダ責任制限法」の改正議論が始まっています。争点はいかに訴訟までの手続きを簡素化していくかだといえます。

諸外国の状況(Situation in Foreign countries)

日本だけでなく、世界各国でインターネット上の誹謗中傷が問題となっており、法整備など具体的な対策が急がれています。

韓国

韓国でも芸能人への凄まじい誹謗中傷が起こっています。近年では、インターネット上での誹謗中傷により自殺するアイドルなどの増加から、インターネット上の悪質なコメントが人を死に追い込む「指殺人(ソンカラク殺人)」という言葉まで存在しています。芸能人のプライベートや個人情報の漏洩は日常茶飯事となっており、悪質なコメントに対する処罰を強化すべきとの声も上がっています。

ドイツ

2017年6月、ドイツでは難民の増加に伴う難民に対するSNS上のヘイトスピーチや偽情報等への対策として、ネットワーク執行法が成立しました。この法律の執行に伴い、SNS事業者による投稿の過剰な削除が起きることや表現の自由が阻害されることが懸念されています。削除するのかどうかの判断がSNS事業者にとって困難であることや、 削除しないことのリスクがSNS事業者にとって高いことなども議論されています。

フランス

インターネット上におけるヘイト等の違法コンテンツの削除をオンライン・プラットフォーム事業者に義務付けること等を内容とする法律が2020年5月13日に仏下院で可決されました。しかしその後、憲法院から一部内容について違憲判断が出たため、違憲部分の削除修正を経て同年6月25日(一部は7月1日)に公布・施行されました。

修正後に施行された内容は、CSA(放送行政監督機関)の下に「ヘイトスピーチ観察局」を設置することや、学校においてヘイトスピーチ問題の啓蒙教育を行うなどの条項がありますが、事業者への削除義務に関しては違憲判断により削除されたため含まれていません。

アメリカ

2020年5月28日、ドナルド・トランプ元大統領は、「(プラットフォーマーによる)オンラインの検閲の防止に係る大統領令」(Executive Order on Preventing Online Censorship)に署名しました。

大統領令の内容は、言論の自由は民主主義の根幹であり、インターネット上の言論も同様に保護されるべきだとしたうえで、オンライン上の言論の自由を確保するため、プラットフォーマによる恣意的なユーザー投稿の削除等を限定する方向の規制の提案や明確化を行うよう、関係機関に求めるものでした(例:ユーザー投稿削除の際のプラットフォーマの透明性や説明責任の担保等)。

いずれの国においても、ソーシャルメディアへの監視が、自由な情報発信や情報交換の場としてのソーシャルメディアの機能を奪い、表現の自由を必要以上に抑圧する可能性があることへの懸念により、十分な法整備が進んでいないという現状があります。

日本における取り組み(Actions in Japan)

日本においてもSNSの誹謗中傷の問題に対し、政府や民間による取り組みが行われています。

国(総務省)

子どもたちの安全なインターネット利用のための啓発を目的に、企業や団体と協力して、生徒や保護者、教職員向けの「出前講座」を全国で開催しているほか、事例集の作成や公表(総務省のHPよりダウンロード可)、ポスターの配布などを行っています。

また、インターネット上における、他人の権利を侵害する情報(名誉毀損・プライバシー侵害の書き込み、著作権侵害コンテンツなど。以下、「権利侵害情報」。)の流通に対応するため、以下の2点を規定しています。

1. 権利侵害情報が流通した場合のプロバイダ等の責任範囲を明確化することにより、プロバイダ等による適切な対応を促すこと
2. 権利侵害情報が匿名で発信された際、被害者(権利を侵害されたと主張する者)が、加害者(発信者)を特定して損害賠償請求等を行うことができるよう、一定の要件を満たす場合には、プロバイダ等に対し、当該加害者(発信者)の特定に資する情報の開示を請求する権利を定めること

総務省による啓発活動

#NoHeartNoSNS
SNS上の誹謗中傷の問題に関する啓発活動の一環として、総務省は、一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構及び法務省と共同して、「No Heart No SNS」すなわち「ハートがなけりゃSNSじゃない!」をスローガンに、SNS上のやり取りで悩む方に役立てていただくための特設サイトを開設しています。

民間

ソーシャルメディア利用環境整備機構

禁止事項の明示と措置の徹底、取り組みの透明性向上や、健全なソーシャルメディアの利用に向けた啓発とそのコンテンツの掲載、捜査機関への協力及びプロバイダ責任制限法への対応に加えて、政府・関係団体との連携などを行っています。

セーファーインターネット協会

人々がインターネットをより一層安心して使えるように、誹謗中傷情報に関する相談窓口「誹謗中傷ホットライン」を立ち上げました。さらに第三者機関として、投稿の削除や発信者情報の開示請求を受け、その対応に困るプロバイダらの相談にも応じ、適正な対応の促進に貢献しています。

その他、インターネットプロバイダー協会や、ネット社会の健全な発展に向けた連絡協議会、ヤフー株式会社などがインターネット上の誹謗中傷問題について取り組んでいます。

SNS誹謗中傷に関する団体(Organization)

SNS誹謗中傷に関する団体には、以下のようなものが挙げられます。誹謗中傷などに関する相談も受け付けています。

SNS誹謗中傷問題を解決するアイデアたち(Ideas for Good)

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアでSNS上の誹謗中傷の問題解決に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。

SNS(ソーシャルネットワーク)に関する記事の一覧

【参照サイト】総務省 SNS上での誹謗中傷への対策に関する取組の大枠について
【参照サイト】総務省 インターネット上の誹謗中傷への対策
【参照サイト】伊藤詩織さん、杉田水脈議員を提訴。誹謗中傷ツイートに「いいね」
【参照サイト】【伊藤詩織さんインタビュー】漫画家はすみとしこ氏らを提訴。SNSの誹謗中傷など70万件を分析
【参照サイト】韓国芸能人を苦しめる“指殺人”…なぜ「悪質コメント」はなくならないのか
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