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キャンセルカルチャーとは・意味

キャンセルカルチャー

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キャンセルカルチャーとは?

キャンセルカルチャーとは、社会的に好ましくない発言や行動をしたとして個人や組織をSNSなどで糾弾し、不買運動を起こしたり、ボイコットしたりすることで、社会から排除しようとする動きのこと。

具体的にはメディアやSNSを通しての猛批判、テレビ番組やCMへの出演停止、番組の放映中止、解雇・解任、出演作品を観ない、著作を読まない、製品を買わないといった、支持や支援を取りやめる(キャンセルする)行為や呼びかけを指す。

政治家や芸能人、インフルエンサーなどの著名人、また企業や組織、団体なども対象となることがあり、人種差別的な発言や行動、同性愛者に対する偏見、そのほか何らかの不正が明るみに出たときなどに起こることが多い。

「コールアウトカルチャー」や「炎上」との違い

キャンセルカルチャーは、アメリカを中心に2010年代中頃から見られるようになった。不正や不公正な状態に抗議する手段として以前から行われてきたボイコット運動が、SNSの普及によって形を変えてインターネット上で広がった現代ならではの現象だとも捉えられる。

日本語の「炎上」と似た意味も持っているが、キャンセルカルチャーは売上不振や役職辞任といった、対象者への何らかの制裁を求めている点が炎上とは異なる点だ。

また、キャンセルカルチャーは2017年に起きたMeToo運動などで見られた、他者の過ちを徹底的に非難する動き「コールアウトカルチャー(Call-out Culture)」の一種ともされる。しかし、キャンセルカルチャーは非難し説明や謝罪を求めるだけでなく、「You are cancelled(あなたは用無し)」と言って相手を切り捨て、何らかのかたちで社会から排除しようとする点で異なる。

海外でのキャンセルカルチャー事例

海外でのキャンセルカルチャーの事例としては、以下のようなトピックがよく知られている。

Black Lives Matter運動

Black Lives Matter運動において、奴隷制や人種差別に関わりのある歴史的人物の銅像の撤去を求めたり、破壊したり、組織名の変更を求めたりする動きがあった。また「Defund the Police(警察に資金を出すな)」という主張に否定的な意見を述べる人のキャリアを終わらせようと圧力をかけるなど、一部過激化した運動が見られた。

J.K.ローリング氏の発言

ハリーポッターシリーズの著者であるJ.K.ローリング氏が、「トランスジェンダーを女性と認めない」との発言をして解雇された女性をSNSで応援したことで激しい非難の対象となった。その他のLGBTQ+ に対する発言を含め、彼女の言動や姿勢に疑問を持った所属事務所の作家4人が事務所を離れたほか、一部ファンの間でも支持を取り下げる動きがあった。

ロック界でのムーブメント

最近では、米情報誌ローリング・ストーンの共同創刊者、かつ「ロックの殿堂」の共同創始者でもあるヤン・ウェナー氏がニューヨークタイムズの取材で、黒人や女性ミュージシャンに対する不適切な発言をしたとして物議を醸し、ロックの殿堂財団の理事を解任された。また、クイーンやローリング・ストーンズの過去の楽曲が人種差別的だとして、アルバムの収録曲から外されたり、ツアーの演奏曲から外されたりする動きもある。

日本でのキャンセルカルチャー事例

近年、日本でもキャンセルカルチャーの事例は増えている。

東京オリンピック委員会問題

東京2020オリンピックで、当時組織委員会の会長だった森喜朗氏が女性蔑視と取れる発言をもとに辞任に追い込まれた。そのほか、開会式直前にミュージシャンの小山田圭吾氏が、雑誌のインタビューで同級生に対するいじめを自慢げに語っていたことが批判の対象となり辞任するなど、キャンセル・カルチャーの事例が相次いだ。

NIKE不買運動

企業が対象となった事例として、スポーツメーカーのナイキが「差別」をテーマにした動画を公開し、2020年末に日本での不買運動が起こった件が挙げられる。SNSでは「#NIKE不買運動」「#ナイキのCMは日本ヘイト動画です」などのハッシュタグが作られ、注目を集めた。

Amazonプライム解約運動

同じく2020年、Amazonが国際政治学者をCMに起用したところ、過去の徴兵制に対する発言や、差別的とされる発言が問題視され、Twitter上では「#Amazonプライム解約運動」というハッシュタグとともに出演タレントの過去の発言への批判が投稿された。

・サントリーの不買運動

2023年、飲料メーカーであるサントリー社長の「マイナンバーカード普及のために健康保険証や国民皆保険は廃止すべき」といった趣旨の発言が批判の対象となり、「#サントリー不買運動」というハッシュタグと共に拡散され、同社株価にも影響を与えた。また、ジャニーズ事務所とのCM契約を見直すべきとの主張も一部ファンの不買運動に繋がった。

キャンセルカルチャーの社会的なメリット

前途した例だけでなく、#MeToo運動や#OscarsSoWhite(アカデミー賞で白人ばかりが優遇される)という批判など、キャンセルカルチャーは社会にとって重要な対話を生み出してきた側面を持つ。

SNSの普及に伴い、人々がより声を上げやすくなり、また一昔前であれば問題にならなかったことも、ハッシュタグやリツイート機能を使えば瞬く間に世間に広がるようになった。それにより大衆の声がより大きな力を持ち、世間に働きかけられるようになったのだ。

社会に大きな影響を与える人物の言動が倫理的かどうか、過去の言動との整合性がとれているかどうか確認するのは大切なことだ。エンタテインメント業界などが、ダイバーシティポリティカル・コレクトネスを意識して価値観をアップデートしていくのは、ポジティブな流れと言える。

実際に「#OscarsSoWhite」の運動では、受賞者を選ぶ立場にあるアカデミー会員の人種や性別の多様性を充実させることに繋がった。キャンセルカルチャーは、社会運動をより効果的に行うための一つの手段として機能する場合もある。

キャンセルカルチャーの問題点

一方で、こうしたキャンセルカルチャーが過激化することにより、法の支配の原則や、民主主義に必要な言論の自由が阻害されていると主張する声も多い。

公正な法の裁きを差し置いてキャンセルカルチャーによる社会的な制裁が下されてしまうことは、対象となる個人や企業に過剰な不利益が課されてしまう恐れや、法治国家における法の支配を脅かすことに繋がりかねない。また、キャンセルに対する恐れから萎縮して、一部の人が自己の意見を自由に表現できなくなってしまい言論・表現の自由を侵害されてしまう可能性もある。

2020年7月7日、前述したJ.K.ローリングを含む作家や大学教授などの著名人153人が連名で署名した公開書簡「A Letter on Justice and Open Debate(正義と公開討論に関する書簡)」が、雑誌ハーパーズ・バザーに掲載された。そのなかには以下のような一文があり、キャンセルカルチャーの危険性とそれに伴う対応の不適切さを指摘している。

「It is now all too common to hear calls for swift and severe retribution in response to perceived transgressions of speech and thought. More troubling still, institutional leaders, in a spirit of panicked damage control, are delivering hasty and disproportionate punishments instead of considered reforms」
(言論や思想の侵害とみなされる行為に対して、迅速かつ厳しい報復を求める声は、今やあまりにも一般的になっています。さらに厄介なことに、組織のリーダーはパニックに陥ったダメージコントロールの精神で、熟考された改革ではなく、性急で不釣り合いな処罰を下しているのです。)

また、キャンセルカルチャーは、深く考えず、ストレス発散のために批判に加わっている人たちによって問題が広げられている場合も多い。キャンセル・カルチャーを研究するミシガン大学のリサ・ナカムラ教授は、「パンデミックで人々がSNSに割く時間が増え、ストレスのはけ口としてキャンセルのターゲット探しが活性化している現状がある。」と述べている。

SNS上では、「キャンセル・カルチャーそのものをキャンセルするべきでは?」といった著名人の指摘も共感を集めている。

簡単ではないキャンセルカルチャーにおける線引き

もちろん批判する側、される側のどちらにも表現の自由を行使する権利はあるが、表現の自由があるからといって、一部の人を傷つけたり、不快にさせたりする発言や行動はどちらの立場にあっても許されるべきではない。

そうした意味で、互いにどこまでを表現の自由として許容するかの線引きや、そのキャンセル行為が社会活動における正当な抗議にあたるのか、それとも行き過ぎた排除行為にあたるのかといった線引きは簡単ではない。行き過ぎた排斥は、いじめと同様の加害行為となってしまう可能性もある。

先述のようなキャンセルカルチャーのムーブメントが起こるたびに、その正当性については各国でさまざまな意見が飛び交ってきた。

2023年5月、シンガポール政府が世界ではじめてキャンセルカルチャーに対する法規制を検討していると発表したが、この法規制をめぐってもインターネット上での行き過ぎた行為に対する規制のあり方と、言論の自由の確保をめぐる議論がある。

より良い社会を築くための、キャンセルカルチャーとの付き合い方とは?

自身の意見を正しいと決めつけて必要以上に誰かを沈黙させたり排除したりすることは、社会の分断を生み、より良い社会を築くための建設的な対話の場を損なってしまうことにもなりかねない。では、私たちはキャンセルカルチャーとどう付き合っていけば良いのだろうか。

まず、自分がキャンセルカルチャーにつながる発言や行動を起こそうとしている、もしくはその動きに加わろうとしているときは、怒りに任せて必要以上に強い口調で糾弾したり、事実を確認せずに情報を拡散したりしていないか、一度冷静に考えてみることが必要だ。

民主主義を保つためには、異なる主張にも柔軟に耳を傾ける姿勢が求められる。不適切だと感じた事に対して声をあげることは非常に大事だが、その目的は特定の人物を貶め、人々を分断させるためではなく、むしろ人々と連携して社会全体を良くするためだという認識を、常に忘れずに行動したい。

また、糾弾を受けた側は、事態を丸く収めようとして議論や吟味しないまま早急な決断しないようにすることが大切だ。非難を受けた件について、必要な場合は批判を真摯に受け止めて行動を改めたり、周囲と協力してオープンに議論したりすることで、より良い社会を築くための一歩にできるかもしれない。

さらに、一度「キャンセル」されてしまった人や企業にも、行動を改めれば再起の道を認める。そんな空気感こそ、私たちの目指すより良い社会には必要かもしれない。

【参照サイト】 トランプ氏、彫像の撤去など「キャンセル・カルチャー」と非難 ラシュモア山で
【参照サイト】 A Letter on Justice and Open Debate
【参照サイト】キャンセルカルチャーと表現の自由|九州大学学術情報リポジトリ
【参照サイト】オスカー賞は本当に人種問題に向き合ったのだろうか?




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