世界中で常に問題視される差別問題。人種のるつぼと言われるアメリカでは、マイノリティへの差別撤廃に向けた多くの活動がある。LGBTに対する差別に抗議するプライド・パレードや、女性の権利向上を目指したフェミニズム運動、黒人差別を撤廃しようとするブラック・ライブズ・マターなど、さまざまである。
これほどまでに運動が盛んになる背景には、アメリカで日常的に差別が起こっているということがある。特に格差が顕著に表れるのが、雇用の現場だ。実際、調査機関のmeta-analysisによると、白人の求職者は黒人の求職者に比べて36%多く折り返しの連絡がくるという。またヒスパニック系の求職者と比べても24%有利となっている。
それ以外にも難民や、ホームレス、前科者など特定の人たちが職にありつけず、貧困と犯罪のループにはまることもある。就職活動をする際に必要となる履歴書等で、自身の人種や信仰といったエスニシティや過去のことで判断され、働く能力はあっても職にありつけない人が多くいるのが現状だ。
一方で、履歴書や面接などを通した従来の就職スタイルで多くの人を切り捨てるよりも、応募者を働く能力で判断しようというアイデアもある。今まで働く環境から排除されてきた人を積極的に雇用していく「Open Hiring」という考え方だ。
このOpen Hiringという雇用スタイルを始めたのが、ニューヨーク州ヨンカーズにあるベーカリー「Greyston Bakery」である。同店は、アメリカで人気のアイスクリームチェーンBen&Jelly’sにチョコレートを提供していることで知られている。
このベーカリーのある地域は、以前は産業地帯として栄えたがその後衰退し、現在は人口の34%が貧困線以下の暮らしをしているという。そんな中、Greyston BakeryはOpen Hiringを実施することで多くの雇用を生み出し、飲食業の平均離職率が73%であるにもかかわらず、そのほぼ半分の39%に抑えることに成功した。
Open Hiringのシステムには、雇用の段階だけでなく、従業員が成功するために地域と共同でサポートをしていくというパートナーシップも含まれる。たとえば、質の高い育児や安全な住居へのアクセスなどだ。従業員とパートナーを組んで、キャリアと人生の目標を定め、必要なサポートを提供していく包括的なシステムなのである。
Greyston Bakeryは、このシステムを確立させたのち、同地域に「Open Hiring Center」を立ち上げた。ベーカリーと同じようにOpen Hiringを取り入れる企業を支援し、雇用障壁をなくそうとする共同学習空間である。
また、オハイオ州のチェーンのレストランであるOvenlyやHot Chicken Takeoverも「Fair-hiring(公正な雇用)」を提唱し、履歴書に頼らない雇用機会を展開したり、大企業のターゲット、スターバックス、ウォルマートも雇用プロセス終了までバックグラウンドをチェックしなかったりと、Open Hiringの考え方は中小企業のトレンドに留まらず大企業を含めたアメリカのトレンドになりつつあるようだ。
Open Hiringは雇用の場での差別をなくし、たくさんの人が働けて、かつ離職率も低いことで会社もハッピーになるという、両者にとって良いシステムである。アメリカで広がりつつあるこの流れが世界中に広がり、現在雇用の場での差別に苦しんでいる多くの人たちの問題を解決する日がくることを願う。
【参照サイト】Greyston – Open Hiring