食事は人間の生活に欠かせないものだ。お腹を満たすだけではなく、食をとおして人ともつながり、心身どちらにとっても「幸せ」な時間をもたらしてくれる。
そんな毎日の生活に密接に関わる食について、「次世代が“食とサステナブル”を考える」をテーマに、若き料理人たちを含めた参加者たちが共に考え議論するワークショップ「CLUB RED presents Professional Workshop 2018」が東京で開催された。
サステナブルレストラン賞の基準は、食材調達、環境そして人・社会
最も感動した店に贈られる「アジアのベストレストラン50」というランキングに、2018年から「サステナブルレストラン賞」が新設された。今年受賞したのは、東京にあるフレンチレストラン「レフェルヴェソンス」。
サステナブルレストラン賞は、イギリスに本部を置くSRA(サステナブルレストランアソシエーション)という認証団体が評価をおこなっている。その評価基準には、食材の調達基準(Sourcing)、環境に負荷をかけないこと(Environment)そして人が無理なく働き続けられること(Society)の3つがある。
「より多くの野菜や自然療法で育てられたお肉を使用する」「旬の食材を用いる」「世界の農家を助ける」「食材を無駄にしない」などといった多くの評価項目があるなかで、レフェルヴェソンスの生江史伸シェフが面白いと感じたことは、「人を搾取しないこと」や「コミュニティをサポートすること」といった、”人”に焦点を当てた項目があったことだという。
「レストランに来たお客さんに対して満足してもらいたいと日々仕事していますが、コミュニティに対してどれくらい貢献しているかについてはあまり考えることがなかったので興味深いと感じました。また、サステナブルレストラン賞を受賞するにあたって、従業員が休日にボランティア活動をしたことに対して会社の給与体系に評価システムはあるかという質問項目があったことも驚きました」と生江シェフは語った。
食はお腹を満たすものだけではなく、人と環境、そして人と人をつなげる役割を果たしている。だからこそ、そこに関わっている人を大切にすることは、食による輪が無理なく続いていくために必要不可欠なことなのだろう。
「世界一幸福度が高い国」ブータンの「グリーンデー」
サステナブルな食を国家政策のなかで打ち出している国もある。それは、「世界一幸福度が高い国」として有名な南アジアの国ブータン。国民総幸福量(GNH)という独自の考え方を国家の指標として打ち出しており,「持続可能で公平な社会経済開発」「環境保全」「文化の推進」「良き統治」という4つの基本理念によって運営している。
昨年、生江シェフがブータンの小学校を訪ねた際に、ひとつ驚いたことがあったという。それは、毎週月曜日は学校に持ってくるお弁当のおかずにお肉を使ってはいけないという「グリーンデー」が国によって定められていることだ。さらに、この日はプラスチック製品の持ち込みも禁止されているという。
モノではなく心の豊かさから幸福度を測ろうとするGNHを提唱する国らしく、人の幸せに自然との調和は欠かせないという考えの表れなのだろうか。食にまつわる世界の潮流
さらに国を超えた、食と関連するサステナブルな動きには、国連で採択された世界共通の目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」やスローフード、アースデー、MADなどがある。
スローフードとは、ファーストフードの反対の概念で、「美味しい、きれい、ただしい(Good, Clean, Fair)食べ物をすべての人が享受できるように」をスローガンにしたイタリア発祥の草の根のムーブメントである。
アースデーは、4月22日を地球環境について考える日として提案された記念日である。東京でも毎年、地球市民フェスティバルが開催されている。
そして、世界一のレストランとして名高いデンマークのNoma(ノーマ)のレストランオーナーが始めたMADは、「食を通じて世界をいかによくできるか」について、毎年世界中から400人以上のシェフや研究者、ジャーナリスト、ボランティアを集め、食に関する問題提起、話し合い、そして未来に向けた提案をするNPO団体である。”MAD”とは、デンマーク語で「食」を意味する。
このように見てみるとわかるが、食にまつわる世界の流れとして「食を通してより良い社会を作る」方向にシフトしている。
食をとおして日本が考えるべきこと
さあ、ひるがえって日本について考えてみよう。
たとえば日本の漁業の特徴は、少量多品目であり、多種多様な漁法や、地域や漁港によるローカルルールが存在する点だ。世界のなかでも新鮮な魚介類が楽しめる数少ない国である一方、海のエコラベルとして知られる「MSC(Marine Stewardship Council、海洋管理協議会)認証」や、環境と社会への影響を最小限にして育てられた養殖の水産物の証である「ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)認証」の導入も遅れていると言われている。
「サステナビリティとは、過去からなにをもらって、未来になにを残していけるのかについての方法論だと思います。それは地域によっても差がある。国際的な取り組みを理解しておくことは大事な一方、日本がとるべき行動についても考える必要がある」。そして生江シェフは次のように続けた。
「日本の歴史を振り返ると、日本の中からの内なる革命はあまり起こっていません。中国や欧米など、外からのスタンダードが日本を劇的に変えています。内からなにかを作り出そうというのが文化的にも歴史的にも少ない気質なのでは。だからこそ今回のイベントのようにいろいろな人が集まって、日本から発信していこうと話し合っていくことが大事なのではないでしょうか」
また、アジア初のサステナブルシーフードレストランをオープンさせたキャリアを持つ株式会社シーフードレガシーの松井大輔氏は、次のように提起した。
「MSCやASC認証はあくまでツールだと思います。取得にはコストや手間もかかるので、そのために経営のサステナビリティが失われるのは違うかなと思います。MSCやASC認証にこだわりすぎず、段階的に数字や期限を定めて目標に向かって進んでいく必要があると思います」
また、「海外だとサステナブルな商品を買うこと自体がクールという印象があります。その点、日本では作り手のストーリーや努力、持続可能な取り組みを伝えることで消費者に届くのではないでしょうか」とも語った。
編集後記
上記でサステナビリティについていろいろと語ってきたが、最後に生江シェフが強調していたことが頭に強く残っている。
それは、「なんと言っても、人の喜びにつながる『美味しさ』がないとサステナビリティは伝わらない」ということ。
「サステナブルでもオーガニックでも、『美味しい』や『喜び』という着地点が大切です。たとえ、安心安全だけど美味しくなければ、サステナブルになるには我慢しなくてはいけないと勘違いされてしまう。美味しさや喜びで橋をかけ、意思疎通ができて初めて、サステナブルやオーガニックの意義を伝えられる環境が整うのだと思います」
アタマで理解するのでなく、まずはカラダで感じる。それが心地いいものであれば、「サステナビリティ」を理解することも難しくはない。ココロもカラダも、自然に気持ちのいいものを求めている。
【参照サイト】CLUB RED 公式WEBサイト