フードロスを料理で解決しよう!と動き出した映画監督ダーヴィド・グロスが母国オーストリアから再来日した。彼は、廃油で走るキッチンカーでヨーロッパ5カ国の旅へ出たロードムービー映画「0円キッチン」の監督だ。『0円キッチン』は2017年1月に劇場公開され、日本中で市民上映会が開催されるなど、大きな反響を得た。そして、ダーヴィドが次に舞台に選んだのは「もったいない精神」発祥の地、日本だ。
『0円キッチン』の続編「もったいないキッチン」は、一ヶ月かけて日本各地の“もったいない”の文化に注目し、楽しく食の無駄をなくしていくキッチンカーの旅だ。ダーヴィド監督自らが食材救出人として料理をし、地元の人に振る舞う。
そんな彼は日本のフードロスをどう見て、どのような切り口でフードロスに立ち向かっていくのか。今回は先日クランクアップを迎えたダーヴィドさんにお話を伺った。
話者プロフィール:ダーヴィド・グロス監督
1978年オーストリア、ザルツブルグ生まれ。ウィーン大学でコミュニケーション科学と演劇学を、ドナウ大学クレムスでジャーナリズムを学び2003年に卒業。以後、ジャーナリスト・ドキュメンタリー映画監督として活動。映画『0円キッチン』(原題WASTECOOKING)を監督他、同名称のTV番組のホストを務める。
日本の食文化とフードロスを交えた『もったいないキッチン』
日本の食べ物はヘルシーですよね。特に日本の発酵食品はとても体に良いし、わたしは味噌や納豆が大好きです。今、ヨーロッパでは寿司だけではなく、日本の発酵食品やラーメンなどを含めて、日本食は幅広く人気が出てきています。なので、今回の映画では特にそういった日本料理もフードロスの観点と交えながら紹介しています。
大阪では捨てられる食材を使ってお好み焼きを作りました。イベントやお祭りで余った食材や、鹿やイノシシのお肉を使います。野生のイノシシは農場を荒らすことがあるために殺さざるを得ないことがあります。そういったイノシシのお肉は、普通はほとんど食材には使われず処分されます。でも殺さざるを得なかったイノシシをただ処分するのはもったいない、せっかくなら美味しく頂いてあげたほうが無駄死ににはならないのです。
大阪では、市場に出回らないけれど、食べられるお肉の切れ端を猟師から直接もらったり、形が悪かったり傷のついた野菜を農家からもらい、普段は捨てられてしまう食材を使ってお好み焼きを作りました。自由に食材を組み合わせて作ることのできるお好み焼きは、フードロス削減にはぴったりの料理ですね。
もったいない精神の文化と並存する日本の食品廃棄問題
日本には二つの相反する食生活の特徴があると思います。まずは食を大事にしようとする“もったいない精神”。もう一方は世界でも有数なフードロスが多い国であるという点です。
なぜ日本はこんなに良い食文化があるのにこれだけフードロスの量が多いのだろうと疑問に思っていたのです。なので、その日本人のもったいない精神を追求したいと思い、日本で映画を作ろうと決めました。
日本の、素材全ての部分を使って料理するという料理文化はとても素晴らしいですよね。例えば出汁や漬物は、骨や素材の端材を使って作ることができます。他にも、精進料理は100%ビーガンでマインドフルネスの思想も含まれています。皮にも、根っこにも、全ての食には命があり「いただく」という文化は日本人に根強く染みついていると思います。
一方で、日本のコンビニエンスストアで出る廃棄物は日本のフードロスの現状をあらわすとても顕著な例だと思います。実際に『もったいないキッチン』の撮影として、コンビニエンスストアに行って、そこで売れ残ってしまった商品を使って料理をしました。
日本の文化から切り離された食糧生産システム
なぜ二つの相反する文化が生まれてしまったのでしょうか。それは、日本人の文化であるもったいない精神と、戦後にアメリカから入ってきた食糧生産システムの間に乖離があるのだと思います。
食べ物を捨てることに対して喜ぶ人はいませんよね。誰もが問題視して、フードロスを減らしたいと思っているはずです。一方で、現代の食糧生産システムはアメリカ型の大量生産・大量消費が入ってきてできたものです。だから人々が問題なのではなく、システムが問題なのです。
例えば、賞味期限の3分の1ルール。まだ食べられるのに納品期限や販売期限を過ぎると捨ててしまうのを知っている一般の方は、どれくらいいるのでしょうか。
コンビニの事業形態も食品ロスの一つの大きな原因であると思います。24時間営業しているコンビニでは、常に商品を取り揃えておかなければならないので納入量と頻度が多い分、捨てざるを得ない商品もたくさん出てしまいます。でもコンビニをただ敵に回すのではなく、一緒に巻き込んで解決していきたいですね。
例えば、コンビニの中にキッチンを設置して、賞味期限近い食材を商品棚から取ってきて裏のキッチンで調理する。そういったアイディアは実際に海外ではとても成功しています。このアイディアは近いうち日本にも来ると思います。
そしてフードロス全体の半分を占めている家庭でのフードロス。家庭で捨てられてしまうのは、みんなの知識がないことが一つの原因だと思います。賞味期限はあくまでも一つの指標に過ぎません。賞味期限表示ばかりを気にするのではなく、自分で臭って、自分の目で確認して、自分で判断をすることが大切だと思います。
自分で料理をすれば、その食べ物が安全かどうかを他の人から教えてもらう必要はありません。
一度問題意識を持てば、行動に起こすのが早い
日本人は一度問題意識を持つと、それに対して行動に起こすのがとても早いと思います。2017年、日本で『0円キッチン』上映ツアー中に話した人と、今年『もったいないキッチン』の旅の撮影中に再会したのですが、ここ2年でもうすでに前回話したフードロスに対する新しいアクションを始めていることに驚きました。今は日本でもフードロスや環境問題の解決に向けて新しいビジネスがとても早いスピードで続々と生まれていると感じています。
例えば、福岡のローカルフードサイクリングプロジェクト。各家庭に自転車で生ゴミを回収しに行き、それを菜園の肥料に使い、そこで作った野菜を生ゴミと交換するというプロジェクトです。そして料理のイベントを開催して、子供達や地域の住民が集まるコミュニティスペースとしても機能しています。こういった素敵なプロジェクトが今生まれてきているからこそ、大きなポテンシャルを秘めている日本には今後期待も高まります。
おばあちゃんの知恵から学ぶ
撮影中に出会った、あるおばあちゃんのお話がとても印象深かったです。京都の田舎の方に住む女性の方なのですが、彼女はスーパーマーケットに行きません。山や森に行って、自然の中から自分で食料を調達して生活していたのです。戦後に節約の精神を身につけて生活している彼女の多くの知恵はとても興味深いものでした。
また、「おてらおやつクラブ」という団体にも出会いました。お寺では供養の際にお菓子や果物などをお供えしますよね。お供えされたお菓子や果物は、普通であれば捨てられてしまうのですが、ここでは子ども食堂や他の団体に寄付しています。
「料理」はフードロスの一番簡単で有効な解決策
フードロス削減に向けた一番身近で簡単な解決策は「料理」だと思います。ゴミを出さずに料理することはやろうと思えば誰でもできることですよね。そして、「料理」は誰もが身近に触れることができる行為なので、フードロスだけではなく、サステナビリティ、気候変動といった大きな環境問題にかかわるキーワードを考え始めるきっかけとしても行動を起こしやすいと思います。そして、ヨーロッパの取り組みを輸入して普及させるのではなく、日本の食文化の中に隠されたヒントを頼りに、日本の文化に合ったオリジナルの解決策を見出していくことが大切です。
これから私たち人類は、気候変動や人口増加に伴った食糧危機問題に立ち向かわなければなりません。ただ、その前に、まずは身近にある自分の食生活を見直してみたり、自分の文化やおばあちゃんの知恵から得られる新たな発見をしたりすることが第一歩になるかもしれない。
消費はもはや良い選択ではありません。人類は、少し過去に後戻りするような感覚でより良い未来のために進んでいくことが必要なのです。
インタビュー後記
「映画の撮影は料理と同じ」と語るターヴィドさん。終わった瞬間にその過程を振り返ることは楽しいと言って、これからその映画を公開することにワクワクしている様子だった。
「映画は、それこそ料理のようです。長い時間をかけてじっくり準備して、でも終わった瞬間はみんながどんな反応をするかまだわからない。気に入ってくれるかな、もしかしたらちょっと嫌いかも。これは映画も全く同じです。」そう語る彼は、フードロスを楽しく、たくさんの人を巻き込んで解決していこうというポジティブな考えを持った明るい方だった。
今年の夏からいよいよ日本で公開する『もったいないキッチン』。ダーヴィドさんの熱い想いを感じるためにも、ぜひ上映会へ足を運んでほしい。
【参考】
「もったいないキッチン」
「0円キッチン」