衣服が環境や社会にもたらすインパクトは大きい。人間の活動で排出される二酸化炭素のうち、約10%がファッション業界から排出されており、衣類の洗濯により50万トンのマイクロファイバーが海に流れ、その数はペットボトル500億本分に匹敵するという。
日本にも多く店舗を構えるDENHAMやG-Star Rawはオランダ発のデニムブランドで、オランダは一人当たりのジーンズの使用量が世界一だ。どんな服装にも合わせやすく着やすいジーンズは、カジュアルでシンプルな服装を好むオランダ人との相性がいいのだという。
1本のジーンズを染色するためにも何百リットルもの水を使ったり多量の農薬を必要とする綿を素材としたりと、もちろんジーンズを生産する環境負荷はかなり高いのだが、環境先進国の顔を持つオランダは、デニム業界が環境への影響を抑えるためにどのような取り組みをしているのだろうか。
アムステルダムには、デニムに関連する企業やプロジェクトを支援する財団「ハウス・オブ・デニム財団」が存在する。この財団は世界初のジーンズの専門学校Jean Schoolや、デニムの産業で必要な工程を一つの敷地に集めた施設Denim Cityなどいくつかの組織を運営しており、今回編集部はアムステルダムのDenim Cityに足を運んだ。
Denim Cityには所せましと色とりどりのデニム製品が置かれ、Jean Schoolの学生と思われる人たちがミシンに向き合っていた。「デニムの定義は何ですか」と今回の取材に協力していただいたコーディネーターのMiraさんに聞くと「藍色なのが基本的ですが、Jean Schoolの生徒たちは同意してくれないでしょうね。3×1(スリーバイワン:縦糸3本と横糸1本の割合の織り方)の生地であればどんな色でもいいことになっています。」と、ジーンズの定義は広いことを教えてくれた。
当財団は”Towards a Brighter Blue(輝かしい青へ)”というミッションを掲げており、「大きな課題を解決するにはパートナーシップが何より重要」と考え、デニムに関わるステークホルダーをつなげることでイノベーションを生み出している。
実際にDenim Cityでは共同事業者にカルバン・クラインやトミーヒルフィガーといった一流ブランドの名前が連なっており、例えばアムステルダムから出たゴミから繊維を作りだしたり、持続可能性や透明性の観点からジーンズをランク付けするアプリを開発したりと、消費者の意識を高める取り組みを多く行ってきた。
また、デニムの産業に関わる人を集めて産業のイノベーションや持続可能性について考えるワークショップを開催したり、岡山県倉敷市やブラジルのサンパウロをはじめ外部の業界関係者との交流を深めたりしている。
Jean Schoolでは、次世代のデザイナーや開発者となる生徒たちに向けて、世界のニーズについて理解を深めた教育方針の改革を進めており、現在世界中から入学の問い合わせが集まっているという。
オランダでは、なぜデニムがそこまで魅力的だと思われているのかをMiraさんに尋ねると、「私がデニムで気に入っていることは、デニムを着ると『自分自身』になれる気がすること。私があなたと同じジーンズをはいても、全然違うように見えるでしょ」と答えてくれた。
多くの一流ブランドを巻き込みながら一つの産業を横断的に俯瞰してステークホルダーを集めたり、次世代のパイオニアを教育したりという点がとてもユニークなDenim CityやJean School。自分を表現できるデニムをこれからも気持ちよく使っていくために、ファッション業界をどう変革していくのか、今後の取り組みに期待したい。
【参照サイト】ハウス・オブ・デニム財団