「エシカル消費」という言葉を知っていますか? エシカル消費とは、人や社会、環境に配慮した消費のことで、誰にでもできる社会貢献のアクションとして、注目されています。
本特集では前回(全9回)の特集の続編として、約6カ月にわたりエシカル消費のおすすめ11テーマを解説していきます。第13回は、「伝統工芸品」について詳しく解説します!
伝統工芸品は知恵や技術を毎日のくらしに生かせるもの
伝統工芸と聞くと、どのようなものをイメージしますか? 伝統工芸品には漆器や陶器、織物や人形などさまざまな製品があります。いずれも、地域の気候や風土の恵みを生かしながら、長い間育まれた技術を使って伝承されてきたものです。
たとえば、着物に使われる友禅やちりめん、紬(つむぎ)をはじめとする染や織物には「京友禅」、「丹後ちりめん」、「大島紬」など地名が付くものも多く、奄美大島の泥で黒く染め上げた糸を使った黒いかすり模様が特徴の大島紬のように、それぞれの地で発展した独自の魅力を持っています。
日本には、伝統工芸品の産業振興を目的とした法律(伝統工芸品産業の振興に関する法律)があり、具体的に以下のような項目が「伝統的工芸品」の要件として示されています。
(1)主に日常生活で使われるもの
(2)製造過程の主要部分が手作業であること
(3)伝統的な技術、技法によってつくられるものであること
(4)伝統的な原材料を使用していること
(5)一定の地域で生産されていること
5つのポイントにもあるように、伝統的工芸品は飾っておくだけのものではなく、「日々の生活で使われるもの」であり、生活に豊かさと潤いを与えるものとされています。
また、製品の持ち味に大きな影響を与える部分は職人の手作業でつくられ、約100年以上にわたって継承されてきた技術や技法、原材料を使っている必要があります。そして伝統工芸は地域の気候風土や生活様式、祭礼神事などと密接な関わりを持ちながら発展してきていることから、一定の地域で生産されていることが求められます。
2021年1月時点では、236品目(*1)がこの5つの要件を満たす日本の「伝統的工芸品」として国から指定されています。
一方、「伝統工芸品」にはこうした条件がなく、自由に名乗ることができます。そのため、「伝統的工芸品」に指定されていないからといって「伝統工芸品」ではないということではありません。
「伝統的工芸品」の要件を目安にしながら、それぞれの工芸品の歴史や背景、技、素材に注目してみると、「伝統工芸品」のことをより深く知ることができそうです。
時代を超えて人々を魅了する伝統工芸品ですが、生産額は昭和50年代のピーク時と比べ5分の1程度になり、従事者は4分の1程度にまで減っています(*2)。かつて手作業でつくられていた多くの製品が大量生産されるようになっただけではなく、後継者が不足していることや需要が減ってしまっていることで、伝統工芸の多くが存続の危機にさらされています。
地域の気候や風土に合うようにつくられた伝統工芸品は、長年培われてきた知恵や知識、技術の結晶と言えるものも多く、季節ごとの行事を楽しんだり、歴史に触れたりする際の助けになってくれます。現代の私たちにとっても参考にできる要素がありそうですね。
では、伝統工芸品を選ぶことがなぜエシカルなのか考えてみましょう。
伝統工芸品を選ぶことはなぜエシカル?
(1)天然の素材が原料となっている
昔は、プラスチックなどの人工的な化学物質はありませんでした。そのため、多くの伝統工芸品は竹や木、石、鉄、綿や絹などの天然素材からつくられています。例えば漆は、木、漆と土、そして織物は綿や麻、絹といった天然の繊維が原料となっており、いつかは「土に還る」ことができるものです。
(2)地域の資源を使いながら生態系のバランスを保つ
伝統工芸の原材料となる天然の素材は、収穫後に、再び育てるためにはある程度時間がかかります。そのため、近代の工業製品とは違い、伝統工芸品の生産スピードは、素材の再生スピードに合わせてつくられ、地域の資源を使いすぎないバランスを保っているのです。
また、環境を守りながら伝統を受け継ぐ取り組みがあります。たとえば、国指定の伝統工芸品である秋田の「大館曲げわっぱ」や長野の「南木曽ろくろ細工」は、それぞれ曲げわっぱの森、そして南木曽伝統工芸の森という森があり、植樹や森の整備など、原木の育成を進め、森林を守る取り組みがなされています。(*3)。
(3)つくる際に多くのエネルギー資源を使わない
一部の制作工程に機械を導入している場合もありますが、伝統工芸品の製造はほとんどが手作業のため、工業製品と比べ多くのエネルギーを使いません。エネルギーをつくるには発電をする必要があり、発電の段階では温室効果ガスが排出さます。つまり、多くのエネルギーを使わないということは、温室効果ガスの排出が少ない点も特徴の一つです。
(4) 修理できるものが多い
伝統工芸の多くは修理を繰り返しながら長く使うことができます。例えば、桐箪笥(きりたんす)は頑丈につくられているため、古くなっても表面を削り直せば長く使い続けることができます。また、漆は剥げたり、欠けたりしても何度も修復できます。他にも、ひな人形などの伝統的な人形の修理や修復を受け付けている職人集団もいます(*4)。このように、修理しながら長く大切に使うことこそ、エシカル消費の原点と言えるのではないでしょうか。
人工知能(AI)もなければ、パソコンを使って計算をすることもできなかった時代に培われた伝統工芸には、驚かされるような技術や知恵が込められています。地域の自然素材を使い、大量のエネルギー使わないなど、生態系に無理のない生産方法には、今後私たちがもう一度見直すべき、サステナブルな暮らしや仕事のヒントがたくさんありそうです。
続いて、国内外の伝統工芸品をご紹介します。
国内外の伝統工芸品
伝統工芸品の代表格である漆と綿でできたカード。天然素材でありながら、耐久性や強度があり、使ったあとには土に還るすぐれものです。環境への影響が問題となっているプラスチックを使わないクレジットカードなどとして活用が期待されています。
モダンなデザインで伝統的な紙づくりを応援するベトナムの雑貨店
アーティストとのコラボレーションによって伝統的な紙製品をノートやポストカード、アクセサリーといったモダンなアイテムに生まれ変わらせ、伝統の継続を応援しているハノイの雑貨店「Zo Project」。伝統を守りながら新たなものづくりの魅力が生まれています。
着物や帯の売れ残り(未使用品)やヴィンテージ、ユーズド品をアップサイクルしてつくられたレディースシューズブランド「Relier81」(ルリエ エイトワン)。おしゃれな靴として身に着けることで、着物や伝統工芸の素晴らしさを再発見することができるアイテムです。
次に、「伝統工芸商品」を選ぶポイントをお伝えします。
伝統工芸品を選ぶポイント
伝統工芸品を選ぶ際に、手がかりとなるマークがあります。
このマークは冒頭でご紹介した、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づく要件を満たしたものに付けられる「伝統マーク」です。(*5)
「伝統マーク」の他にも都道府県が独自の基準で指定する伝統工芸品マークもあります。
繰り返しになりますが、これらのラベルがないからといって伝統工芸品ではない、というわけではありません。展示会やウェブサイトなどで伝統工芸品に出会った時には、ぜひその工芸品が生まれた背景や素材、つくった人や技術についても注目して、実際に使ってみたいと思えるものを手にしてみてはいかがでしょうか。
伝統工芸品は、地域の資源を活用し、長い年月をかけて培われた知恵や技術によって受け継がれてきました。素材の特徴を生かしながらも職人が丹精込めてつくり上げられており、それぞれの温かみや味わい深さがあります。長く大切に愛用したくなる、自分だけの名品を見つけたいですね。
エールマーケットの伝統工芸商品
最後に、エールマーケットから伝統工芸商品をご紹介します。
古くから漁業が盛んな町、青森市富田で漁業用の浮き玉をつくっていたガラス工場「北洋硝子」がつくる青森の伝統工芸「津軽びいどろ」。百通りもの色がでる技を生かした、クラフトガラスならではの美しさにランプの光が相まって、まったりとした癒やしの時間を演出します。
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同じく「北洋硝子」でつくられた「津軽びいどろ」のぐい呑み。ぽってりと分厚めのフォルムが特徴で、あたたかい質感と手作りならではの柔らかい形が手になじみます。色とりどりの器はインテリアとしても活躍し、日本酒を注ぐと、キラキラと光が揺れるように見えるのも魅力のひとつ。
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■津軽びいどろについて詳しくはこちら
今や100色以上? 偶然から生まれた美しさ「津軽びいどろ」
秀衡塗は、平安時代末期に奥州平泉を治めていた藤原秀衡が京都から職人を招き、岩手特産の漆と金をふんだんに使って器を造らせたことが起源とされています。華やかな金箔をあしらった漆器はハレの日をさらに華やかなものにしてくれそうです。
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米ぬかから精製した糠蝋(ぬかろう)を100%使い、職人さんが一本一本手作りされた和ろうそく。古来より伝わる製法がとられ、滋賀県の伝統工芸品に指定されています。植物性素材なので油煙が少ないのも安心して使うことができます。
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錫(すず)を100%使用し、その名の通り、まるで紙のように曲げたり延ばしたりして使える「すずがみ」。400年の鋳物技術を誇る富山県高岡市で、寺院用のりんをつくる職人さんの技で生み出されています。お菓子の受け皿や、ジュエリートレーなど、いろいろな使い方が楽しめそうです。
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「鋳物のまち」として有名な富山県高岡市で生み出された、錫(すず)100%の「ぐい呑み」。錫(すず)は酸化しにくく、さびにくい、そして抗菌作用がある金属です。純度が100%の錫(すず)は金属の一種でありながら、手の力で曲げられるほど柔らかく、手になじみます。お酒を注ぐと一層香り高くなり、日本酒を楽しむにはうってつけの素材です。
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【関連記事】金と銀に次いで高価な金属「錫(すず)」からできた「ぐい呑み」
次回は「海を守る商品」について解説します。お楽しみに!
*1 経済産業省 伝統的工芸品
*2 四季の美 伝統工芸品とは?伝統工芸業界の現状と生産高推移、職人後継者について
*3 林野庁 木の文化を支える森
*4 福田巨庵
*5 『伝統工芸品』伝統マーク&指定の要件
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