ロックダウン(都市封鎖)の影響で、世界で犯罪が37%減少した――。ケンブリッジ大学がそのような調査結果を発表した。にもかかわらずロンドンでは2020年6月から2021年6月までの間に1万件以上の刃物による事件が発生しており、市内で1年間に殺害された10代の被害者が30人。2008年の29人を抜き、史上最悪の記録を更新した。全体122人の被害者のうち、4分の1が10代の若者だった。
これ以上の刃物による流血の事態を無くそうと、あるサッカークラブが立ち上がった。日本代表DF冨安健洋もプレーするイングランド・プレミアリーグの名門アーセナルだ。
「No More Red(もう赤はいらない)」というガナーズの号砲のもと、行き場を失った若者が露頭に迷い、犯罪に手を染めてしまう根本原因に向き合い、安全な場所と平等な機会を提供するとしている。
現役時代にアーセナルに所属した元イングランド代表FWイアン・ライトも「私はロンドンで育った。今は(私の育った頃とは)状況が違うかもしれないが、人生は楽ではないということを理解している。難しい状況に直面し、いとも簡単に道を踏み外してしまうことも。ロンドンは人口の多い都市だが、孤独を感じるのはとても簡単なのだ」と陣頭に立っている。
このキャンペーンの「赤はいらない」というスローガンは、「血を見たくない」と非暴力を呼びかけているのだが、アーセナルが言うとただならぬ響きがある。アーセナルのチームカラーが「赤」だからだ。
キャンペーン開始に伴い、公式スポンサーであるアディダス協力のもと、新たにアーセナルの公式Tシャツをリリースした。白地に白いプリントが施されていて、何だろうと目を凝らして見てみると、かすかにアーセナルだと判別できる。
しかも、白は近隣の北ロンドンを本拠地にする一番のライバル、トッテナム・ホットスパーFCの色のため、さらにインパクトがある。
この真っ白なシャツはアーセナルの試合で販売され、売り上げは若者の支援団体に寄付される。世界有数のイングランドリーグの試合は、世界中が注目する。
キャンペーンでは、ほかにも若者が安心できる場所や機会づくりを行っている。たとえば、駆け出しの若者ミュージシャンKhushは、アーセナルとともに初めてラジオショーを収録した。これらは、プロクラブの認知度や社会的影響力をうまく活用するという、スポーツを通した分かりやすい取り組みだ。
行政も手をこまねいてばかりいるわけではない。イギリスの首都でエスカレートする暴力を重く見たロンドン市長のもと、2019年に発足した暴力削減ユニット(VRU)は、暴力を公衆衛生の問題ととらえて対処している。
犯罪、とりわけ若者の暴力は揺れる社会という山の噴火口になっていると考えるべきである。「罪を憎んで人を憎まず」。受難の時代だが、根本治療のために、社会が一致団結する姿勢は正しい方向だろう。
【参照サイト】No More Red – we all need inspiration
【参照サイト】EVERYONE DESERVES AN OPPORTUNITY
【参照サイト】London teen homicides: How killings broke 2008 record
Edited by Kimika